Octo Octaが語るDJプレイにおける考え、レコードバッグの準備方法など

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いつもたくさんの新しい知見を与えてくれるResident Advisorの「The Art of DJing」シリーズですが、今回はOcto Octaの興味深いインタビューが掲載されていましたので、一部ご紹介したいと思います。

文: Chloe Lula

Octo Octaの名で知られるMaya Bouldry-Morrisonは他の多くのダンスミュージックアーティスト以上に、彼女のミックスとプロダクションに彼女の私生活を通じたメッセージを反映しています。彼女の作るトラックはセルフエンパワーメントが伴い、DJセットでは楽観的でパーティーを盛り上げるヴォーカルのリフレインで溢れています。

キャリア半ばでトランスジェンダーであることを公表し、同じくトランスジェンダーのパートナーであるエリス・ドリューとニューハンプシャーで生活を共にし、バック・トゥ・バック・アクトとしても活動しています。

「音楽は癒しの技術です」と彼女は言う。

「そして、私がブースに立つ時、音楽が私に与えてくれたのと同じ癒しの効果をお客さんに体験してもらいたいのです」

Octo Octaのセットを聴くと、レトロハウス、ブレイクビーツ、サイケデリックトランスを折衷したような、大きな盛り上がりと多幸感あふれるクライマックスを感じることができます。このようなサウンドのブレンドが、まとまりのあるサウンドパレットを作り出していて、ダンスフロアはポジティブさにあふれています。

Octo Octaは、20年以上にわたってツアーDJやプロデューサーとして活躍してきましたが、最近になって需要が急増し、その波に乗っています。それは5年前、ドリューとともに運営するレーベル「T4T LUV NRG」の発足と、より自分自身を見つめ、紛れもなくクィアであるという美学への転換から始まりました。

昨年8月のDekmantel Festivalに出演する前、彼女はオーディエンスの前でインタビューに応じ、DJブースで培ったスキルを実演してくれました。その数ヵ月後、ベルリンで再会した私たちはレコードの収集にまつわるエートスや、作品にどのように個人的な物語を織り込んでいるのかについて触れました。

現在、無料のオンラインガイド、ワークショップ、サンプルパックを制作中で、Octo Octaのミッションはプロダクション、DJ、ダンスミュージック業界のすべてを民主化し、解明することだと言います。

あなたとエリス・ドリューはバースデーブック『Sacred Spaces』にPanorama Barへのラブレターを書いていました。2020年にそこでバック・トゥ・バックでプレイしたときの美しい描写を想起させますね。その経験についてもう少し話してもらえますか?

ロックダウンの直前でした。Erisと私はクローズ間際の最後から2番目にプレイしたと思います。この空間は私たちが愛しているダンスミュージックというものをうまく伝えることができる場所なんです。一年中レコードを買っているスペースでもあります。でも、あの空間でうまくいくことが、必ずしもすべてのダンスフロアでうまくいくとは限らないことを私は知っています。

その夜、私たちは非常に強力なキノコを摂取しました。DJをするときにキノコを摂取するのはギャンブルかもしれませんね。最近はあまりやっていないのですが、周りに大切な人がいて、自分たちの居場所があるように感じたときに、タイミングを見てやっています。

この時のプレイは、今までプレイしたセットの中で一番好きなもののひとつで、エリスと一緒にプレイし始めてからの中でも一番好きです。ただただ、すべてがうまくいったからです。私たちはこのセットを何から始めたいかを知っていました。Romanthonyの曲をプレイして、そこからスタートしたんです。

私たちはレコードをプレイするのですが、1年を通してレコードをたくさん入れたバッグを持ち運んで、少しずつ中身を入れ替えながらプレイしています。当時はツアーが多かったので、あのセットをプレイする頃には、そのレコードバッグは私たちが取り組んできたことの集大成になっていました。

すべてがすんなり流れました。また、トリップしているときに、みんながシンクロして動いているのを見るのも気持ちよかったです。そして、キノコのおかげで音はどれも微妙に違っていた。キノコは自分では必ずしも選ばないようなものをミックスするアイデアを与えてくれるし、ある種のつながりがその場で浮かび上がってくることもある。大好きな空間で大好きな人と自分にとって意味のあるこのセットをプレイできたことは信じられないほどの高揚感でした。

あなたとエリスはブースの中でとても相乗効果がある関係です。手紙の中で3曲ごとに必ず交互にプレイしていると書いてありましたね。それはなぜですか?

最初にバックトゥーバックを行ったときからこの決断をしました。一曲ずつ交代の場合、相手のトラックへのミキシングがクイックすぎて、十分な展開が得られないことがあるんです。緊張して、意図していないことをやってしまう。また、その瞬間に相手が予想もしない方向へ舵を切るかもしれません。3曲ずつということは、それぞれが小さなミニセットを持つということです。私は彼女が前にプレイした曲とつながりのあるものをプレイすることができ、その次の曲でそのテーマを続けようと思えば続けられるし、違うものをミックスすることもできる。もし、3曲目に思い切ったことをしたい場合は、事前に伝えておきます。

また、彼女のレコードを踏まないようにスペースを確保し、ヘッドホンの受け渡しはだいたい準備が整ったと判断した時に行います。というのも、どちらかがスクラッチやドロップを入れたり、アカペラを入れたりしたいからです。前もってすべてを話し合うよりも、物理的な合図をするほうがずっと重要なんです。私は彼女と5年近く一緒にいますが、私たちはずっとこうしてきました。これだけ長い間一緒にいると、あまり話さなくてもいいことがたくさんあるんです。

「Sacred Spaces」のエッセイでは、エリスの棚に何年も眠っていたレコードをひっぱり出すことになったきっかけも書かれていますね。どのようなタイミング、文脈で、何をプレイをすべきなのかがわかるのでしょうか?

パノラマバーに関しては何が有効かはわかっています。しかし、一般的に知っているといえば、推測できる空間はありますが、ほとんどの場合はよくわかりません。私は基本的にクロスジャンルなアーティストなんです。古いレコードもたくさんかけるし、ブレイクやトランス、たくさんのハウス、ハードハウスのレコード、ヒップホップのレコードなど、自分のバッグの中にあるものは何でもかけるんです。

どのようにコレクションを構築してきたのでしょうか?

ニューヨークに引っ越してきて、ようやくレコードショップにアクセスできるようになりました。私は古い音楽をたくさん聴くので、レコードが積まれたコーナーを漁って何でも買っていました。長い間、お金がなかったから、レコードに5ドル以上かけるのは嫌だったんです。でも、そうすることでいろいろな知識を得ることができるようになりました。その週にレコードに使えるお金が20ドルしかなくて、見つけた50ドルのレコードを買うことはできないかもしれませんが、そのレコードを聴いて、どのレーベルのものなのか、誰がプロデューサーなのか、誰がリミックスを作ったのかを知ることはできます。

私はその情報を蓄積するようになりました。たくさんのものを聴いて、自分の好みがどんなものかを知ることができました。レコードのコレクションを作るという意味では、そのような時間を費やすことは本当に価値のあることだと思います。そのほかにも、私は石ころやボトルキャップ、ビデオゲームなど、あらゆるものを集めてきた大バカ者です。

私のコレクションは決してたくさん買っているわけではなく、とても個人的なものになっています。時間をかけてゆっくりと積み上げてきたんです。全ては積み重ねです。今、自分の部屋を見てみると、レコードが多すぎると思う。ニューヨークに来たころはIKEAの小さな棚が1つ2つ埋まるくらいでした。でも、ニューヨークを離れる頃には、ささやかな予算でも何段もの棚を埋め尽くしていました。

以前から、整理の仕方が変わってきたとおっしゃっていましたね。かつてはジャンルごとに整理していましたが、今はBPMごとに整理していますね。

以前はジャンル別に整理していたのですが、ずいぶん変わりましたね。DJを始めたばかりのころはそうやってすべてを見ていたからです。ハウスレコードはハウスレコードと相性がいい、ブレイク系はブレイク系で、ハードコア系はハードコア系で、ジャングル系はジャングル系で……といった具合です。

そうしているうちに、一つのセットを通して型にハマっていることに気づきました。このジャンルから始めて、次にこのジャンルをプレイするんだのように。あるライブを終えたとき、お客さんが来て、「あなたのセット、すごくよかったよ、こうやって、こうやって、こうやって 」って説明してくれたんです。それは本来私がやりたいこととは全く違う。

今はすべてが連動していて、レコードバッグ全体を通じる糸があることを理解できます。これらのものはすべて連動しているのです。Erisは、私にDJについて多くのことを教えてくれました。彼女はいつもBPMだけで構成していたんですが、そうやって見てみると、「ああ、このバッグ全体には、ほとんどの場合、相互作用があるんだな」と思いましたね。彼女の視点に立つと、ジャンルにこだわらずに、すべてのレコードに通底するものを追うことができました。だって、結局のところ、私にとってはある意味すべてハウスミュージックなんです。どのレコードも同じように聴こえるんです。他の多くの人たちもそうだと思う。私はその構造から脱却する必要がありました。もうこのままではいけないと思ったんです。

ジャンルを超えたミキシングで、どのようにエネルギーを作り上げているのでしょうか?

エネルギーの作り方は、プレイしている前の人、後の人にもよりますね。私は前の人のプレイから急転換したりするのは好きではありません。誰もが自分のセットを持っていて、そういう音楽の見せ方というのは理解出来ますが、ある程度全体にまとまりを持たせて、あるところからあるところへ行くようにしたいんですよね。だから、エネルギー作りに関しては前の人の流れを汲んで、最後まで考えようということです。

また、私にとって最もシンプルな「エネルギーを作り上げる」テクニックとして、遅いレコードから始めて、速いレコードで終わるというのがあります。その逆も好きです。前の人がすごく速くプレイしていたら、私はもっと速く始めて、10曲とか20曲とかかけて、ゆっくり、ゆっくりと遅くしていくんです。

限られたレコードのコレクションでツアーを行うことに対して制約はどのようなものがありますか?

ヨーロッパにプレイしに行くことが多いのですが、住んでいるわけではありません。アメリカに住んでいます。レコードの収集もアメリカで行っています。ツアーに出るときは、経済的に2週間ほど滞在してから帰国するほうが合理的なんです。つまり、レコードバッグに詰め込むのは、その期間中ずっと使えるものでなければならない。この制約がとても好きなんです。これからプレイするレコードを学ぶことができるのですから。そして、その間に何度も何度もプレイしながら、他のレコードとミックスして、他のものとの相性や、フレーズ同士の相性などを見極めていくのです。そうして出来上がったのが今あるものです。

多くのDJはライブに出るときに新しいプレイリストを作るのが好きだと思いますが、それは世の中に音楽がありすぎるからです。聴きたい音楽、見せたい音楽がたくさんあるのです。同じセットを何度もプレイするのはつまらないかもしれません。でも、80枚くらいのレコードを持っていけば十分な流動性があるので、どのセットもまったく同じにはならないんです。何度も何度もプレイしているレコードでも、深く学ぶことができるんです。家に帰り、4000枚のレコードのコレクションを眺めながら、1枚を取り出して、そのすべての部分を覚えているのはとても不思議なことです。イントロの長さも覚えているし、ブレイクダウンも覚えているし、途中で出てくるメロディも覚えています。

特に複数のライブをこなすようなツアーでは、レコードバッグはどのように準備するのでしょうか?

私は、ギグからギグへとレコードバッグを完全に空にすることはありません。時間をかけて進化させていくんです。シャッフルして、50パーセントくらいは新しいレコード(まだDJプレイする機会がなかったもの)を入れていきます。

時には、ワクワクするようなアイデアや、曲の内容を中心にキュレーションすることもあります。エリスと私は2人ともレコードバッグを持っているんだけど、そこにはまた旅に出るというメッセージやアイデアが詰まっているんです。その中には、いつもエンパワーメントをテーマにした曲が入っています。死のエネルギーについてのレコードもあるし、みんなで一つになることについてのアイデアもあったり、ダンスフロアにいる感覚を歌った曲もたくさんある。私はこれらの曲でフロアにいる人々に伝えたいメッセージを考えるのが好きなんです。曲名から歌詞まで、そのレコードにはたくさんの情報が詰まっているから。

セット全体を通して、どのように物語を作り、持続させるのでしょうか?

音楽は私にとって癒しの技術です。毎週行ってプレイすることで、前の週から癒されていく。だから、こういうメッセージ性のある音楽をプレイするのが好きなんです。うつ病や不安症など、多くの人が悩みを抱えているからです。でも、ブースに立つと、音楽が癒しの技術であることを観客に伝えたいと思うんです。いつも成功するわけではありませんが、まずは私がその音楽を聞きたいからやってみる。そして、その場にいる人たちの心に響けばいいと思っています。アカペラのレコードを何枚も持っていて、いつも音楽の上に乗せているんです。DJの楽しみのひとつは、本来の意図とは違う形で音楽を見せることです。

あなたのセットはすべて、あらかじめ設定された物語構造に従っているのか、それとももっとアドリブ的なものもあるのか?

バッグの中には全般的に意図が詰まっていますが、ひとつのセットでそれらのレコードを片っ端からかけるわけではありません。私は通常、2時間の時間枠を確保しています。長時間のセットでプレイするのが好きなのは、そうすればたくさんのものを持ち込んで、何を言おうとしているのか意図的に伝えることができるからです。でも、そうでないときもある。ライブに到着すると、バッグを作ったときと同じことをやりたくなることもあります。また、嫌なことがあった日にライブに行くと、自分が抱えているものを表現するために攻撃性を押し出す必要がある場合もあります。

あなたとエリスは、DJの技術に関する情報を民主化し、伝わりづらいDJカルチャーに関するヒントを共有することに積極的です。オンライン上で公開したガイドのいくつかを教えてください。

T4Tで最初に出したのは、私が取り組んでいたホームスタジオのセットアップに関するガイドでした。私は長年にわたり、機材に関する質問などで多くの人を助けてきました。私は独学のミュージシャンなので、何をするにも知識をかき集めて解決しなければなりませんでしたが、今では20年もこの仕事を続けています。だから、まずそれをやってみたんですが、本当にやってよかった。人から質問されたときに、そう思ったんです。この方法なら、質問に答えつつ「ところで、こういう25ページのドキュメントもあるよ」と言うことができます。その後、エリスもやりたいと言い出したので、DJに関するものをやることにしました。

私たちは二人ともヴァイナルDJとして育ったので、私たちが長年かけて学んだ情報をたくさん盛り込んだガイドを作りたかったんです。レコードバッグの梱包からスリップマットの持参、針の持参、ターンテーブルをアイソレーションするための「Isonoe feet」の持参など、さまざまなものがそれにあたりますね。これらはシンプルで小さなヒントです。音楽のバックアップを取る、予備のものを用意する、ヘッドホンを持参する、などです。また、予算を意識して、お金のかからないことを考えるヒントを提供することも心がけています。

「Hot n’ Ready DJ Tips」では、初心者DJのための暗黙のエチケットやスキル、提案などを紹介していますよね。しかし、ルールを守ることよりも、ルールを破ることが重要なのはどんな時でしょうか?

DJを取り巻くドグマという考え方についての全体的な解説なんだけど、ネットを見ていると、ツイッターで「オープンDJはこうあるべき」とか「シンクボタンは使わないほうがいい」とか、そういう議論があるじゃないですか。多くの人が「こうあるべき」という考えを持っている。

そのような「こうあるべき」という固い考え方にとらわれ始めると、芸術としてのDJを遠ざけてしまうことになります。DJはアートフォームであり、そのように表現されるべきなのです。多くのDJは、このイベントが何かを伝える機会であり、何かをする機会であるという考えに同意してくれるでしょう。私たちは、長い間これを続けてきたことで、自分たちにとってうまくいったことについてアイデアやヒントを与えています。

しかし、すべての人にうまくいくわけではないことを認めることが重要だと思います。もし、それがあなたにとってうまくいかないのであれば、それはそれでいいのです。このような自由を受け入れ、人々が厳格さに神経質にならないようにすべきです。私たちのガイドでは、たとえそれが「伝統的」なものでないように見えても、自分にとってうまくいくことに従うことを伝えています。独学で音楽を学んでいた私は、自分の中にある「これは間違っているのではないか」という考えとたくさん戦わなければなりませんでした。例えば、「他の人がこの方法でやっているのを見ると、私よりもプロフェッショナルに見える」みたいにね。何かを通して自分のやり方を学ぶのはいいことだと思います。

今後、どのような活動を予定されていますか?

以前は短時間でたくさんのトラックを仕上げる、とても速いプロデューサーでした。でも、エンジニアリングや微調整に時間をかけるようになったため、創造性がなくなったわけではないんですが、どんどんスピードが落ちてきました。作りたいものを作る時間が減ってしまったのです。今年、次のEPを出しますが、その中の1曲は完成までに2年半かかりました!

今は、ハードウェアを録音しただけのトラックをコンピュータに取り込んでシーケンスしているところです。それらをすべてサンプルパックにしたいんです。今年のどこかの時点で、いくつかの曲のセットを出して、そのサンプルを無料で公開したいと思っているんです。誰でも、どの部分を何に使ってもいい。すべてオリジナルコンテンツです。どれも著作権で保護されていない。クレジットも必要ない。

また、この1年半の間に、MIDIを使うための別のガイドを少しずつ作ってきました。ホームスタジオに関する1週間のワークショップを行ったのですが、人に説明するのが一番難しかったんです。長い間、MIDIを使っていても、何が起こっているのかよく理解できていなかったんです。個々の部分はとてもシンプルで理解しやすいんです。でも、いざまとめてみると、とても大変なんです。あのガイドは、何度も書き直して、とても苦労したんですよ。

あとは制作ワークショップを行い、その録音をオンラインにアップするつもりです。私は情報を共有するのが好きなので、独りよがりでない、よりシンプルな言葉で伝えたいと思っています。みんなに作りたいものを作れるようになってほしいんだ。

インタビュー記事全文は以下より(英文)

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