新世紀のハウスミュージック – ハウスミュージックの歴史⑨

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2000年代初頭から中盤にかけてミニマル・テクノやミニマル・ハウスが世界的な大流行を見せましたが、ハウスミュージックという音楽は、その誕生から常に成長とジャンルの細分化を繰り返してきた歴史を持っています。そのため、シーンのすべての人がひとつの巨大なトレンドだけを追いかけていたわけではありませんでした。

ミニマルがフロアを席巻しているそのすぐ隣には、叙情的で壮大なProgressive Houseや、ヴィンテージなディスコの質感をモダンにアップデートしたNu Discoがしっかりと並走していました。さらには、パンキッシュな初期衝動とエレクトロニクスが融合したElectro Clashがミニマルに負けず劣らずの熱狂的な人気を集め、それがのちに2000年代後半のダンスフロアを爆破するElectro Houseへと劇的な進化を遂げるなど、各ジャンルが独自の生態系で成長を続け、世界へと広がり発展していきました。その結果、ハウスミュージックは、ディープでストイックなアンダーグラウンドな領域と、フェスティバルなどの巨大なマーケットを持つメジャーという、2つの異なるシーンが複雑にクロスオーバーしていく時代へと突入することになります。

このように多様化を極めた現在のハウスミュージックは、あらゆるサウンドやエッセンスを飲み込んでしまう広大で自由なフォーマットであるがゆえに、リスナーやDJ、立場によって、その言葉が指し示す音楽性が全く違うという現象も多く見られるようになってきました。

現在のハウスミュージックからの視点でこの膨大な歴史と全体像を俯瞰すると、ブラックミュージックのソウルと精神を色濃く継承する①の流れ、デトロイトやシカゴの初期衝動からテクノを経由して先鋭化した②の流れ、そしてヨーロッパの独自のディスコカルチャーやレイヴ精神がモダンに発展した③の流れという、大きく分けて3つの系譜が主軸となって現在のシーンを支えていると考えられます。

①Disco→Chicago House→Acid House→Deep House→NY House→Nu Disco

②Detroit Techno→Minimal Techno→Minimal House→Deep Tech Minimal→ Romanian Minimal

③Balearic→Acid House→Progressive House→Tech House→Erectro House→EDM

2010年代以降、世界の大きなマーケットを占めているのはヨーロッパ産のハウスミュージックが発展したものです。

目次

エレクトロハウス、そしてEDMの誕生

2000年代中盤を迎えると、それまで世界を席巻していたミニマルの熱狂は徐々に落ち着きを見せ始め、少しずつ衰退の兆しが現れます。フロアをじわじわとハメていく抑圧的でストイックなサウンドが長く続いた反動からか、クラウドはより一聴して身体を揺さぶるような、激しくエネルギーに満ちた衝動的な音楽を爆発的に求めるようになっていきました。こうした時代の空気感に呼応するようにして、エレクトロハウスの人気が急激に高騰していくことになります。

このエレクトロハウスが登場する前夜には、Daft Punk(ダフト・パンク)を筆頭にフィルター効果でフロアを狂喜させたフレンチハウスの圧倒的な隆盛や、シンセポップとパンク精神が融合したエレクトロクラッシュの爆発的なムーブメントといった、地鳴りのような伏線となるサウンドが確かに存在していました。

しかし、そうした流れを汲みながら「エレクトロハウス」というジャンル名としての最初の世界的な大ヒット、そして決定的なゲームチェンジャーとなったのは、2002年にリリースされたBenny Benassi(ベニー・ベナッシ)による「Satisfaction」であるというのが、今日のダンスミュージック史において広く知られている定説です。剥き出しのサイドチェイン効果によって極限まで歪められた重厚なベースラインと、機械的なボイスサンプルの組み合わせは、のちに世界を震撼させる巨大なムーブメントの明確な号砲となりました。

Benny Benassi – Satisfaction

「Satisfaction」がエレクトロハウスの起爆剤となりましたが、シーンの立役者でいえばDeadmau5の名前が挙がります。

Deadmau5(デッドマウス)ことJoel Thomas Zimmerman(ジョエル・トーマス・ジマーマン)は、カナダ出身のエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー、DJ、ミュージシャンであり、その独創的な音楽性と、ステージで異彩を放つ巨大なネズミの被り物によって世界的なアイコンとなりました。彼がかつてプログラマーとして働いていた時代、PCの筐体内部で偶然見つけた死んだネズミのエピソードにちなんで、チャットの文字数制限から生まれた「Deadmau5」という表記をそのままアーティスト名に採用したことは有名です。

彼が独学で3Dモデリング・ソフトの技術を学びながら、のちに世界中で認知される「mau5head」と呼ばれるオリジナルのロゴをデザインした際、インダストリアル・メタル・バンドOrgy(オージー)のフロントマンである友人、Jay Gordon(ジェイ・ゴードン)からインスピレーションを受けます。このロゴをそのまま立体的なヘルメットとして再現し、実際にそれを着用してステージに立つという極めて大胆なアイデアが、彼のビジュアル・アイデンティティを決定づけることになりました。

2000年代中盤、ミニマルからエレクトロハウス、そして叙情的なプログレッシブハウスへとフロアの流行が大きくシフトしていく過渡期に、彼は圧倒的なトラックメイクのクオリティで急速に頭角を現します。2005年にはその多才なエレクトロニック・サウンドを詰め込んだデビューアルバム「Get Scraped」をリリース。その後、自身のレーベル<mau5trap(マウストラップ)>を始動させ、シーンでの存在感を確固たるものにしていきました。

さらに2008年には、アメリカのKaskade(カスケード)との極上のコラボレーションによって生まれた「Move for Me」や、ディープかつドラマチックな名曲「I Remember」、そしてPendulum(ペンデュラム)のRob Swire(ロブ・スワイア)の凶暴なボーカルをフィーチャーしたアンセム「Ghosts ‘n’ Stuff」といった楽曲を次々と発表。これらが米ビルボード誌のダンス/ミックス・ショー・エアプレイ・チャートで相次いで1位を獲得するという快挙を成し遂げます。同チャートにおいて計3曲のナンバーワンを叩き出した、歴史上唯一のカナダ人アーティストとしての地位を確立し、エレクトロハウスやプログレッシブハウスをアンダーグラウンドの枠から引きずり出し、世界中の巨大なフェスティバルのメインステージへと押し上げる極めて重要な原動力となったのです。

Deadmau5 feat. Rob Swire – Ghosts N Stuff

2000年代後半を迎えると、エレクトロハウスの持つ破壊的なエネルギーはクラブシーンの中だけに留まらず、他の音楽ジャンル、特にポップスやヒップホップ、R&Bの領域へと積極的に浸入し、大規模なコラボレーションを展開するようになります。

この融合を象徴する存在として、LMFAO(エルエムエフエーオー)によるパーティー・ロック・アンセムや、パンク精神をエレクトロに持ち込み凄まじい熱量でフロアを煽ったSteve Aoki(スティーヴ・アオキ)らが台頭。さらに、フレンチハウスの系譜からいち早く大衆音楽との融和を計ったDavid Guetta(デヴィッド・ゲッタ)が、ヒップホップ/R&B界のスーパーグループであるThe Black Eyed Peas(ブラック・アイド・ピーズ)の楽曲「I Gotta Feeling」をプロデュースしたことは、世界的な音楽トレンドを完全に塗り替える決定打となりました。

それまで完全に分断されていたストリートのヒップホップ・グルーヴやR&Bの艶やかなボーカルが、エレクトロハウスのシンセサイザーや強烈な4つ打ちのビルドアップ、ドロップと完璧に融合。この刺激的なハイブリッド・サウンドは、世界中のラジオや主要チャートをまたたく間に席巻し、2010年代前半に世界を完全に支配することになる「EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)」の巨大な爆発へと直結する、最も重要でエポックメイキングな架け橋となったのです。

LMFAO – I’m In Miami Trick

The Black Eyed Peas – Rock That Body

フランスのハウスDJであるDavid Guetta(デヴィッド・ゲッタ)が2009年にリリースしたアルバム「One Love」は、まさにこの巨大なクロスオーバー・ムーブメントの頂点に君臨する金字塔となりました。彼はKelly Rowland(ケリー・ローランド)、Akon(エイコン)、will.i.am(ウィル・アイ・アム)、Ne-Yo(ニーヨ)、Kid Cudi(キッド・カディ)といった、当時のアメリカの音楽シーンでトップクラスのチャートを牽引していたヒップホップ/R&Bアーティストたちを大々的にフィーチャー。この大胆な試みにより、クラブミュージックの枠を完全に超えた世界的な大ヒットを記録し、世界累計で550万枚以上という驚異的なアルバムセールスを達成しました。

このアルバムは、その高いクオリティと圧倒的な市場への影響力が認められ、第52回グラミー賞において最優秀エレクトロニック/ダンス・アルバム(Best Electronic/Dance Album)部門にノミネートされます。さらに、Kelly Rowlandの力強くエモーショナルなボーカルが世界中のフロアを感動で包み込んだ伝説的なリードシングル「When Love Takes Over」は、最優秀ダンス・レコーディング(Best Dance Recording)部門、および最優秀ノンクラシック・リミックス・レコーディング(Best Remixed Recording, Non-Classical)部門の2つの重要な部門にダブルノミネートされるという快挙を果たしました。

この作品の成功は、ヨーロッパのクラブシーンで培われた4つ打ちのハウス・ミュージックが、アメリカのメジャーなポップス/ブラック・ミュージックのメインストリームを完全に制圧した歴史的な瞬間であり、のちの音楽業界の地図を塗り替えることになったのです。

David Guetta Feat. Kelly Rowland – When Love Takes Over

アメリカのアーティストを巻き込み、巨大なメジャー資本と結びついたことで、アメリカの音楽業界やマスメディアはマーケティングの側面からこの新しい音楽ムーブメントを「EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)」という3文字のキャッチコピーとともに強烈にプッシュし始めました。これこそが、それまでクラブミュージックやレイヴ・カルチャーと呼ばれていたものが、世界規模の巨大なエンターテインメント産業として知れ渡る決定的なきっかけとなったのです。

広義でのEDMは、文字通りテクノやハウス、ドラムンベースなどを含む電子的なダンスミュージック全般を指す包括的な総称ですが、狭義でのEDM、特に日本国内や世界のメジャーステージにおける一般的な文脈においては、エレクトロハウスの暴力的なベースとプログレッシブハウスのドラマチックなコード進行に、トランスの持つ圧倒的な高揚感(アンセム性)が融合した、極めて派手でスタジアム仕様の「ビッグルーム・サウンド」を指すことが多くなっていきました。

この巨大なパラダイムシフトが起きていたちょうど同じ頃、それまでソロのDJ/プロデューサーとしてそれぞれ第一線で確固たるキャリアを築いていたSteve Angello(スティーヴ・アンジェロ)、Axwell(アックスウェル)、Sebastian Ingrosso(セバスチャン・イングロッソ)のスウェーデン出身の3人が、伝説的なドリームユニット「Swedish House Mafia(スウェディッシュ・ハウス・マフィア)」を結成します。

彼らは、エレクトロハウスやプログレッシブハウスのタイトな骨組みに、北欧のエレクトロニック・ミュージック特有の美麗でエモーショナルな旋律と、トランス特有の巨大なビルドアップからドロップへと至るダイナミズムを完璧に融合。「One」や「Save the World」、「Don’t You Worry Child」といった、アンダーグラウンドの枠を完全に破壊するスタジアム・アンセムを連発し、瞬く間に世界中のフェスティバルのヘッドライナーへと登りつめ、EDMシーンにおける絶対的な王座と神格化された地位を不動のものにしていきました。

Swedish House Mafia – One (Your Name)

それまでトランスシーンの絶対的な帝王として君臨していたArmin van Buuren(アーミン・ヴァン・ビューレン)やTiësto(ティエスト)といったオランダのトップアーティストたちが、この新しい波へ果敢に接近し、自身のサウンドをEDMのダイナミズムへとアップデートさせたことも、ムーブメントの拡大を決定づけました。彼らが長年培ってきたスタジアムを一つにする圧倒的なメロディセンスとアンセム性がシーンに注入されたことにより、2010年代には世界中でEDM人気が爆発的に高騰することになります。

これにより、エレクトロニック・ダンスミュージックの市場規模はかつてないほど巨大なビジネスへと成長を遂げ、カルチャーのあり方そのものを完全に塗り替えました。

ベルギーの大自然の中で圧倒的なファンタジーの世界観を提示するTomorrowland(トゥモローランド)、マイアミの都市型フェスティバルの最高峰として世界展開を広げるUltra Music Festival(ウルトラ・ミュージック・フェスティバル)、そしてラスベガスの広大な敷地を巨大な遊園地へと変貌させるEDC(エレクトリック・デイジー・カーニバル)といった大型フェスティバルには、世界中から毎年数十万人ものクラウドが押し寄せるようになります。世界各国の若者たちが国旗を掲げてアンセムを大合唱するその光景は、一時期のアンダーグラウンドなクラブの閉鎖的なイメージを完全に覆し、ロックやポップスをも凌駕する現代のユースカルチャーにおける最大の祭典、そして国際的な社会現象として君臨することになったのです。

ハウスミュージックへの回帰

2010年代中盤を迎えると、それまでフェスティバルのメインステージを完全に支配していたビッグルーム一辺倒の派手なサウンドに対し、クラウドやプロデューサーたちの間で徐々に耳の疲労や飽きが生じ始め、EDMシーンに少しずつ明確な変化の兆しが訪れます。

その変化の大きな潮流となったのが、EDMの発展によって極限まで洗練された最新のデジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)のシンセ・ディープエディット技術や、圧倒的にタイトでファットなボトムのサウンドプロダクションをあえて駆使しながら、もう一度クラブミュージックの原点である「ハウスミュージック」のグルーヴへとスマートに回帰していく動きでした。

この過渡期にあたる2013年頃、フランス・パリ出身のDJ/プロデューサーであるTchami(チャミ)が、自身の楽曲をSoundCloud(サウンドクラウド)へアップロードする際に「#Future House」というハッシュタグを冗談半分で付けたことから、この最先端のハイブリッドなハウスサウンドが正式に「Future House(フューチャー・ハウス)」と呼ばれるようになります。

その後、このサウンドの可能性を爆発させたオランダのDon Diablo(ドン・ディアブロ)や、ディープハウスのベースラインをよりメタリックでファンキーに進化させた「Gecko」などの大ヒットでシーンを震撼させたOliver Heldens(オリバー・ヘルデンス)といった新星たちが次々と頭角を現し、世界的な注目を集め始めます。

それまでのビッグルームが持っていたスタジアム級のビルドアップやドロップの爆発力(ダイナミズム)を適度に抑えつつも、ディープハウスやUKガレージが持つ弾むようなベースライン(いわゆるドンク・ベースやメタリックなFM合成ベース)と、エレクトロハウスのソリッドな質感を完璧に融合させたこの新世代のハウスは、ダンスフロアに再び「踊るための洗練されたグルーヴ」を奪還することに成功したのです。

Janet Jackson – Go Deep (Tchami Remix)

世界的なポップスターでありEDMのトップに君臨していたCalvin Harris(カルヴィン・ハリス)が、2020年頭から突如としてLove Regenerator(ラヴ・リジェネレイター)名義を始動させたことは、シーンに決定的な衝撃を与えました。彼はこのサイドプロジェクトを通じて、1990年代初頭の初期レイヴやハウス、ブレイクビーツ、テクノへの純粋な愛とオマージュを爆発させ、メインストリームの過剰なプロダクションから離れた、ストイックでアンダーグラウンドなクラブサウンドを徹底的に追求し始めました。

またその一方で、フェスティバルの喧騒とは一線を画す、心地よいスローテンポでディープなサウンドをEDMのフォーマットに落とし込んだ新世代のアーティストたちも絶大な支持を集めるようになります。

ノルウェー出身のKygo(カイゴ)は、美しいピアノの旋律に瑞々しいパンフルートの音色、そしてBPM100前後のゆったりとした4つ打ちを融合させた「Tropical House(トロピカル・ハウス)」というジャンルを確立。オーディエンスに踊るだけでなく「リラックスして極上のメロディに浸る」という新しいダンスミュージックの体験を提示しました。

同様に、ベルギー出身のLost Frequencies(ロスト・フリクエンシーズ)も、アコースティック・ギターのオーガニックな響きやディープ・ハウスのエッセンスをポップスへと見事に昇華させ、哀愁を帯びたメロディアスな楽曲で世界的な大ヒットを連発しました。

このように2010年代後半に向けて、EDMが培った巨大なプロダクション技術は、一方ではクラシックなハウスやレイヴへの原点回帰として、もう一方ではチルアウトやポップスと融合したベッドルーム・ミュージックとして分化し、エレクトロニック・ミュージックの表現領域をさらに優美に、そして全方位へと広げていったのです。

Kygo – Firestone ft. Conrad Sewell

こうした世界的な潮流と原点回帰の動きの中で、ギミックを排除した伝統的なハウスミュージックや、そのディープな系譜が再び大きな脚光を浴びるようになりました。

メインストリームとアンダーグラウンドの境界線を鮮やかに消し去ったDisclosure(ディスクロージャー)を筆頭に、洗練されたスペース・ディスコや美メロ・ハウスを紡ぐMoon Boots(ムーン・ブーツ)、90年代のUKブレイクビーツやプログレッシブ・ハウスの遺伝子をモダンなアートへと昇華したBicep(バイセップ)、鳥のマスクを被りディープでミステリアスなグルーヴを支配するClaptone(クラプトン)、フレンチ・タッチの系譜を受け継ぎ極上のファンキー・サウンドを鳴らすJean Tonique(ジャン・トニーク)などがシーンを牽引。

さらに、テックハウスの爆発的な再興の立役者となったSolardo(ソラルド)やCamelPhat(キャメルファット)、ディスコやポップスのエッセンスを巧みにチョップするGigamesh(ギガメッシュ)、キャッチーでありながら強靭なベースラインでフロアを揺らすDisciples(ディサイプルズ)やGorgon City(ゴーゴン・シティ)、そしてクラシックなシカゴ/デトロイト・ハウスへの純粋なリスペクトを凝縮したトラックメイクで職人気質な支持を得るWeiss(ワイス)など、新世代のハウス・アーティストたちが次々と台頭しました。

その一方で、よりディープでアンダーグラウンドな領域、あるいは音楽的な専門性を極限まで追求するクラフトマンシップ溢れる現場においても、凄まじい盛り上がりを記録しています。

ジャズやクラシック、電子音響を驚異的な解像度で融合させ、現代音楽の領域にまで達しているFloating Points(フローティング・ポインツ)をはじめ、サンプリング・カルチャーの極限を提示するRomare(ロマーレ)、かつてDetroit Swindleとして活動しブラック・ミュージックへの深い愛情をファンキーなハウスへと昇華し続けるDam Swindle(ダム・スウィンドル)、ジャズやソウル、ディスコのレコードへの偏愛をそのまま極上のカタルシスへと変えるフランスの至宝Folamour(フォラマール)。

さらに、現代のクラブカルチャーにおける自由と多様性の象徴であり、圧倒的なセレクションでフロアを熱狂させるThe Blessed Madonna(ザ・ブレッソ・マドンナ)やHoney Dijon(ハニー・ディジョン)、そして往年の名曲のマルチテープを執拗なまでにエディットし、世界中のDJから全幅の信頼を寄せられるリミックスの巨匠The Reflex(ザ・リフレックス)など、その名を挙げれば本当に枚挙にいとまがありません。

彼ら多種多様なアーティストたちが、それぞれの解釈でハウスミュージックという広大なフォーマットに新たな命を吹き込んだことにより、ダンスフロアはかつてないほど豊かで、成熟した黄金期を再び迎えることになったのです。

Disclosure – F For You ft. Mary J. Blige

Camelphat & Elderbrook – Cola

Folamour – Devoted to U

Floating Points – ARP3

アンダーグラウンドシーン

メジャーかアンダーグラウンドかという区分は、単にマーケットの規模や個人の趣向の違いに過ぎず、セールス数にどれほど差があろうとも、音楽そのものの価値や芸術性に優劣があるわけでは決してありません。2010年代以降、世界的なフェスティバルを中心にEDMやFuture Houseがメジャーシーンの主役に君臨していたその一方で、アンダーグラウンドシーンではNu Disco(ニュー・ディスコ)、Lo-fi House(ローファイ・ハウス)、そしてかつてのPerlonなどの系譜を独自の美学で深化させたRomanian Minimal(ルーマニアン・ミニマル/Rominimal)といった尖ったジャンルが静かに、しかし確実に台頭し、独自の熱狂的なコミュニティを形成していました。

その中でも、Nu Discoの人気はハウスミュージック・シーン全体を巻き込む形で急速に加熱していきました。UKハウスシーンの絶対的な大黒柱であるSimon Dunmore(サイモン・ダンモア)率いる<Defected Records>が、往年のディスコ・カルチャーが持つ華やかさ、自由さ、そしてLGBTQ+コミュニティへのリスペクトを現代に蘇らせるべくサブレーベル/名物パーティー<Glitterbox(グリッターボックス)>を設立したことは、その決定的な象徴です。また、シーンの生きる伝説であるDave Lee(aka Joey Negro)の<Z Records>が、膨大なヴィンテージ・ソウルやディスコのレア盤からマルチトラックを掘り起こし、現代のフロアで機能する強力なリエディットやリミックス作品を連発。これらハウスの名門や重鎮たちの手によって、ディスコは「21世紀型のモダン・ダンスミュージック」として鮮烈なリバイバルを果たすことになりました。

そのNu Discoシーンにおいて、群を抜いたクオリティとキャッチーさで圧倒的な人気を獲得し、アンダーグラウンドのコアなDJたちから、ポップス主体のメジャーなオーディエンスにまで全方位から愛されるという、極めて稀有なポジションを確立したアーティストが、ドイツ・ドレスデン出身のTino Piontekによるプロジェクト、Purple Disco Machine(パープル・ディスコ・マシーン)です。

彼のサウンドは、1980年代のファンクやシンセ・ポップ、イタロ・ディスコが持っていたレトロで肉感的なベースラインやきらびやかなシンセサイザーの質感に、現代のディープハウス/テックハウス直系の洗練されたタイトなグルーヴと抜群のポップ・センスを完璧に融合させたものです。2010年代初頭の「My House」などのヒットを皮切りに、のちにDua LipaやLady Gaga、さらにはLizzoの「About Damn Time」のリミックスでグラミー賞を受賞するまでに至る彼の活躍は、まさに「ディスコ・グルーヴの持つ普遍的な高揚感」が、時代やシーンの壁を軽々と超えて人々の身体を躍らせるものであることを証明し続けています。

Purple Disco Machine(パープル・ディスコ・マシーン)ことTino Piontek(ティノ・ピオンテック)はドイツのドレスデン出身で、1960年代から80年代のロック、ファンク、ソウル、R&Bといった膨大なレコードに囲まれる、熱狂的な音楽フリークの両親の元で育ちました。彼が18歳の頃、Daft Punkに代表されるフレンチ・ハウスや、ハウスミュージックの原点であるシカゴ・ハウスの洗練されたファンクネスに触れたことで、ダンスミュージックの魅力へ完全に開眼することになります。

1996年になると、彼はDAWソフトのCubaseと手持ちのハードウェア・シンセサイザーを駆使して本格的な楽曲プロデュースを開始。同時にDJとしてのキャリアも着実に積み重ねていきました。そして2013年、当時のテックハウス/ディープハウス・シーンで頭角を現していたレーベル<Off Recordings>から発表した「My House」が、世界中のDJたちの間で瞬く間にヘビープレイされ大ブレイクを記録。この楽曲の爆発的なヒットをきっかけに、彼はモダン・ディスコ・シーンの最前線へと一躍躍り出ることになりました。

Purple Disco Machine – My House

2017年には、オーストラリアの人気ダンスミュージック・レーベル<Sweat It Out Records>から、満を持してデビュー・アルバム『Soulmatic』をリリース。この作品は、彼の代名詞であるファンキーなベースラインと煌びやかなシンセ・サウンドが全編にわたって凝縮されたマスターピースとなり、シングル曲のヒットも相まって、アルバム全体で1億回以上のストリーミング再生回数を達成するという、インディー・ハウス系のアルバムとしては異例の驚異的な大ヒットを記録しました。

ネクスト・ジェネレーション

テクノロジーの爆発的な発展とデジタル化によって、楽曲制作やディストリビューションへの参入障壁が劇的に下がったことで、ダンスミュージックの市場とコミュニティは世界規模で肥大化を続けています。その結果、これまでのオーソドックスなハウスミュージックの枠組みや定義を軽々と超えてしまうような、極めて多様で予測不能な動きが各地で同時多発的に見られるようになりました。

例えば、韓国や中国、さらには広大なアフリカ大陸など、かつての主役であったアメリカやヨーロッパ圏(US/EU)以外の地域でもハウスミュージック、および独自のローカルなダンスミュージックが急成長を遂げています。その象徴として、ウガンダの首都カンパラ近郊で開催される「Nyege Nyege Festival(ニェゲ・ニェゲ・フェスティバル)」は、世界中のエレクトロニック・ミュージックのバイヤーやコアなリスナー、メディアから「近年で最も刺激的かつ注目すべきフェスティバル」として一躍その名を知られるようになりました。ここでは、伝統的なポリリズムと超高速な電子クドゥロやアフロ・テック、ラップ、実験音響が渾然一体となった、全く新しいエネルギーが爆発しています。

これまではシカゴ、デトロイト、ロンドン、ベルリン、パリといった、USやヨーロッパの主要都市を中心に流行が生まれ、それが世界へと伝播していくのが当たり前の構造でした。しかし、インターネットとモバイルテクノロジーが世界を完全にフラットにした現代において、そのパワーバランスは完全に崩壊しています。最早、これまでの音楽史の文脈に縛られない場所から、いつどこで世界の勢力図を塗り替えるような新しいムーブメントや局所的なハイブリッド・サウンドが起こっても全く不思議ではない状況へと、シーンは突入しているのです。

Kampire | Boiler Room x Nyege Nyege Festival

DJが使用する機材の変遷を辿ると、1970年代の誕生から半世紀を経て、アナログレコードから、CDJ、PCを核としたPCDJ、そしてiPadや専用ハードを連動させるDJコントローラーへと、記録メディアとインターフェースのデジタル化が目まぐるしく進んできました。

しかしその一方で、デジタルが極限まで洗練された反動、あるいはその「揺らぎのない冷徹な音響」への飽きからか、アンダーグラウンドを中心にアナログの質感やフィジカルな操作性への回帰(アナログ人気のリバイバル)が強力な地鳴りのように湧き起こっています。

世界的なレコードの再評価によって、ついにアナログ盤の年間セールスがCDを上回るという逆転現象が各地で報告されるようになったほか、音響を電気信号のレベルから物理的に構築・変調できる「ユーロラック・モジュラーシンセ」がフロアや制作スタジオを席巻。さらにミキサーの領域では、Pioneer DJなどのフェーダー型が主流の市場に対し、名機UREIやBozakの系譜を汲む「ロータリーミキサー(アイソレーターを搭載し、ボリュームをノブでコントロールする極めて音楽的なミキサー)」が新興・独立系メーカーの手によって現代的にアップデートされ、至高の音響を求めるDJたちの間で絶大な人気を誇っています。

また、彼らのプレイをリスナーへと届ける「配信環境」のメディア・インフラも劇的な進化を遂げてきました。

かつてはカセットテープに録音された「ミックステープ」が手から手へと渡り、それがCDへと変わり、2000年代後半からはSoundCloudやMixcloudといったクラウド型プラットフォームへのアップロードが主流となりました。

そして、2010年にロンドンで産声を上げた「Boiler Room(ボイラー・ルーム)」の登場が、すべてのゲームチェンジャーとなります。ブースの後ろや周囲にクラウドを配置し、DJの卓越した手元やフロアの生々しい熱気を「映像(動画)」として可視化したプラットフォームは爆発的な人気を獲得。配信の主軸は「音を聴く」から「空間を視る」へとシフトし、テクノロジーの高速化に伴って、高画質なリアルタイム・ライブストリーミングへと完全な進化を遂げました。

この動画配信やプラットフォームの成熟を経て、ダンスミュージックの生態系は、2021年以降はVR領域へも拡大しました。

そして現在、「AI(人工知能)を交えた新たな試行錯誤」という、エキサイティングながらも課題に満ちた転換期を迎えています。

音楽ストリーミングサービスや配信プラットフォームにおいては、AIによる超高精度なパーソナライズ・レコメンデーション機能がリスナーのディギング(音源探求)のあり方を根本から変えており、膨大なアーカイブの中から個人の趣向に完全に最適化されたミックスや楽曲が秒単位で提案される時代になりました。

楽曲生成AIの登場や、自立型AIエージェントとDAWの連携は、DJやプロデューサーたちの間で大きな議論を呼んでいます。テキスト(プロンプト)を入力するだけで、瞬時にそれらしいハウスやテクノの輪郭を持ったトラックが生成されるスピード感は脅威です。

現代のエレクトロニック・ミュージック・シーンは、AIという「新たな素材」を前に、それをいかに飼いならし、まだ見ぬ未知のグルーヴへと磨き上げるかという、人間のクリエイティビティが試される新たな職人芸の時代へと突入しているかもしれません。

新世紀のハウスミュージック・プレイリスト

Tiësto & Don Diablo – Chemicals (feat. Thomas Troelsen)

Solardo – Tear It Up (Oliver Heldens Extended Mix)

Love Regenerator, Steve Lacy – Live Without Your Love

Gorillaz – We Got The Power (Claptone Remix)

Bicep – Aura

Just Kiddin – Pray

Akabu – Ride The Storm ft. Linda Clifford (Saison Remix)

Eminence – Give It Up (feat. Kathy Brown) Dr Packer Remix

Jean Tonique – What You Wanna Do

Romare – All Night

COEO – DON’T OHO (COEO EDITS)

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