サンプリングしている曲はたくさんあるものの、サンプリングされている曲が、意外と少ないのがハウス。今回は有名なハウスの曲がサンプリングされている例を紹介します。
Sampling Love ハウスミュージックの巻
Lil Louis←Madonna
Lil Louis & The World – French Kiss(1989)
誰もが知る名曲、元祖変速ハウス「French Kiss」。もともとエロい曲を作る意図はなく、女性に足のリフレクソロジー・マッサージをしていたところ、彼女の反応が強烈だったので「この声を録音してビートに乗せよう」と思ったのが発想源だそうです。
TR-808と707、Yamaha DX100のみ、シンプルな構成。変速部分は、マスターテープに録音する時、テープリールの縁に指を置いて、モーターの回転速度を落として減速。ほとんど止まった時点で、指を離して元に戻したとのこと。めっちゃアナログ。

Madonna – I Feel So Free(2026/Warner)
マドンナ様の新譜は「French Kiss」をサンプリング。他にもDonna Summer「I Feel Love」、Lil’ Louis & Josh Wink「How’s Your Evening So Far」、自曲「Into the Groove」をサンプリング。「How’s~」はFrench KissのWinxバージョンという感じのトラック。
プロデューサーは’86年のアルバム『Confessions』と同じStuart Price(スチュアート・プライス)、追加でArcaが加わっています。
7月に出るダンスアルバム『ConfessionsⅡ』のアートワークが公開されており、M/M Parisっぽいのですが、元Dazed編集長でヴァージルの後Off-Whiteを継いだIb KamaraがCD、ADはGareth Wrightonだそうです。

Robin.S←Beyoncé
Robin.S – SHOW ME LOVE (Stonebridge Mix)(1993)
もともとSylvester(シルベスター)のために書かれた曲(えっ?)が、90年にRobin Stone(ロビン・ストーン)のデビューシングルとしてリリースされたものの、鳴かず飛ばず。
2年後、スウェーデン出身のStonebridge(ストーンブリッジ、本名Sten Hallström/ステン・ハルストロム)の手に、そのトラックが渡ります。
そこでKorg M1プリセット17「Organ2」とスネア&キックを組み合わせたことで偶然生まれた、オルガンベースのRemixへと生まれ変わり、名前もRobin.S(ロビン・エス)と変えて再リリースしたところ、MTVでもラジオでもクラブでも大人気に。
便宜上オルガンベースと表現していますが、実際は独立したベースラインがなく、ベース用オルガン音とスネアとキックが同時にローエンドで鳴っている状態。ストーンブリッジさんによると、別に狙ったわけでなく、最初はプリセット16で組んであり、その後に急いで作業している時に、たまたま17にしてキックとあわせたらカッコ良くなっただけ、とのこと。
ストーンブリッジ前の売れなかったオリジナル・バージョンと、2002年のDJ Tonka Mixを見つけました。オリジナルはハウスというよりR&Bに近いBPM。トンカはいつも通りのトンカビートとピアノ。両方ともオルガンベースがないので「なんだかコード間違ってますよ?」的な、ストーンブリッジ・ジャスティス感が漂います。

Beyoncé – Break My Soul(2021)
ビヨンセ嬢 7枚目アルバム。女性賛歌とディスコ/ハウスをテーマに全曲Youtube公開された『Renaissance』からのリードシングル。
元曲のオルガンベースが全面的に使われていて、まさに現代版「Show Me Love」をやりたかったビヨンセの面目躍如ですが、Robin.Sはリリース時までクレジットされていることを知らず、まさかビヨンセに使ってもらえるなんて感謝感激とコメントしています。
全5種のOfficial Remixも公開されています。Terry Hunter(テリー・ハンター)によるRemixはハモンド・オルガン調のリフでGroovyな仕上がり。Honey Dijon(ハニー・ディジョン)さんの方はトライバル。
このビヨンセ嬢フックアップ以外にも「Show Me Love」はサンプリング元としてDavid Guetta、Janet Jackson、Daddy Yankeeなど70曲以上にクレジットされており、ハウス界のCHIC「Good Times」的な感じですが、本人はKid Ink feat. Chris Brown「Show Me」が一番お気に入りとのこと。
Barbara Tucker←Kanye West
BarbaraTucker – I Get Lifted(Go To Church Mix)(1994)
ダンサー/コレオグラファーのバーバラ嬢が、Sound Factory BarのUnderground NetworkパーティでLouis Vega(ルイ・ヴェガ)と出会い、歌もうたえるというのでシンガーデビュー作「Beautiful People」がヒット、2nd「I Get Lifted」3rd「Stay Together」と、たて続けに3枚出ました。
Strictly Rhythm Records(ストリクトリー・リズム・レコーズ)はレコードのラベルが赤色ですが、一時期だけ歌ものを「Strictly Blue」としてカタログ番号を分け、ラベルを青色にしていました。上記3枚はBlue、いわゆる“青レンガ”が一番調子の良かった時期のリリース。
「I Get Lifted」はバックコーラスにJoi CardwellとKenny Bobienが参加。12inch2枚組で発売され、A面1曲めのUN Mixが一番オーソドックスで、後発でもRemixが多数出ており、ありとあらゆるバージョンが存在します。

Kanye West feat. Post Malone and Ty Dolla $ign – Fade(2016)
傑作『Yeezus』後の7枚目『Life of Pablo』に収録されているサンプリングてんこ盛りトラック「Fade」。アルバムタイトルが何回も変わったり、大統領選に出ると言い出したり、プッツン系が再発してきた頃にリリースされました。
制作時にいあわせたプロデューサーによると、リック・ルービンのシャングリラ・スタジオに、カニエ本人が「I Get Lifted」以外にも、Hardrive「Deep Inside」、RARE EARTH「I Know I’m Losing You」Mr.Fingers「Mystery of Love」のサンプルネタを持ってきたとのこと。事前にキックとスネアのラフトラックが作ってあり、シャングリラでサンプルを足していったそうです。
Hardrive「Deep Inside」は実質的に「Beautiful People」のRemix版で、バーバラ嬢のフックにIndiaさんのコーラスを足したトラック、Strictly Redからリリースされたもの。
カニエさん、奥さんとうまくいってなかったんでしょうか、全体的に悲壮感がただよって、リリックも“愛が消えていくのがむなしい”という内容。この後、リリースツアー中さらに奇行に走り緊急入院するハメに。
この頃はUniversal/Def Jamがバックについており、憶単位のクリアランス用予算が組まれ、サンプリング許諾はプロのリーガルチームがクリアしてくれていたので、ガンガンにサンプリングしていました。
現在カニエさんはUniversalの後ろ盾がなくなり、新譜『Bully』のサンプリングはオリジナルアーティストから断られ、トラックを作り直す、トラックリストから消えるなど問題が発生。
サンプリングを断られる以外に、イギリスをはじめ数か国から入国拒否・ライブキャンセル・延期される事態も発生中。日本では今の奥様の服装が露出度が高すぎるというので、東京ドーム2回公演がご破算になりました。まさかのビアンカトラップ。
これは数年前にアップされたSunday Serviceの模様、Cajmere「Brighter Days」をプレイ。「シカゴ出身なんだからハウス好きで当然」「ハウスアルバム作って!」とコメントが寄せられています。今となってはカニエさんがアリかナシかというだけで倫理観を問われますので、気軽に「ハウス作って!」とは言いづらい状態。
David Morales←J.Balvin & Skrillex
David Morales – In De Ghetto(1993)
David Morales(デヴィッド・モラレス)による、ジャマイカンアーティストとのコラボプロジェクト「The Bad Yard Club」のアルバム『The Program』より2ndシングル。
1stシングルの“イーニミーニマイニモー”というフックが印象的なダンスホール調「Gimme Luv」がビルボードのダンスチャート1位を獲っていますが、2ndのシンセリフが特徴的なラガハウス「In De Ghetto」もヒットし、後にCrystal Watersのボーカルを加えたバージョンが出ました。
「The Bad Yard Club」はDefMix後のプロジェクトですが、実質モラレスのソロデビューアルバム。当時の「Remixマシン」というイメージを払拭し、ソロアーティストとしての地位を確立するべく、オーセンティックなNYハウスから離れて、ジャマイカ録音のラガハウスにチャレンジしたそうです。
モラレス様は、2018年に設立したレーベル兼スタジオも「DIRIDIM」というジャマイカンな名前にしたのですが、このBad Yard Club以外にレゲエなリリースがない割には、ジャマイカ大好き。

J.Balvin with Skrillex – In Da Ghetto(2021)
バングラ歌謡をサンプリングしたWilly Williamのフランス語トラック「Voodoo Song」がFBでバズっていたのを見つけ、まったく同じトラックをスぺイン語で歌っただけの「Mi Gente」が特大ヒット、レゲトン界のプリンスから世界的大スターへとステップアップしたJ.Balvin(ジェイ・バルヴィン)。
そんな美味しいとこだけ持ってく「頂き男子」がまた頂いちゃったのが、モラレスまんま使いのSkrillexプロデュース「In Da Ghetto」。タイトルもBPMもほぼ一緒。サンプリングされたのが相当うれしかったようで、モラレスご本人様からコメントが出ています。
どうやらこのコラボ、In De Ghettoサンプリングのアイデアは、SkrillexさんではなくTainy(タイニー)のようです。タイニーはDaddy Yankee、Bad Bunny、Ozuna、Anuel AAなどのヒット曲を手掛ける、プエルトリコの超有名レゲトン・トラックメイカー。
2000年、プエルトリコのDJ Nelsonが「Party en El Getto」というレゲトン曲でIn De Ghettoをサンプリングしており、それを聴いたタイニーが思いついたのではないかとのこと。じゃあSkrillexさんは一体何をしたんでしょうか。
DJ Nelson – Party en El Getto(2000)
Tego Calderónのデビューアルバムが2002年、N.O.R.E.「Oye Mi Canto」が2004年なので、2000年の曲となると、まだプエルトリコ警察がレゲトン狩りをしており、レゲトンがリテラリーにイリーガルでアンダーグラウンドな音楽だった創成期。もちろんモラレス様に許可を取っていないダマテン使用。
この使い方(1’52″~)からすると、最初はタイニーがDJ Nelsonを参考にBPM100前後に減速してレゲトン・トラックをつくり、それをSkrillexさんがモラレス様のオリジナルに近づけて127までピッチアップしハウスに戻した、という順番だったのかもしれません。
Madonna←Bad Bunny
Madonna – VOGUE(1990)
Junior Vazques(ジュニア・ヴァスケス)がレジデントだったSound Factory全盛期、このクラブの常連客だったマドンナがSFのダンサーから2人を選んでビデオに出演させ、ハウスミュージックとVOGUEING(雑誌VOGUEに出てくるようなキメキメポースで踊るダンス)を一躍有名にしたヒット曲。
これ自体にサルソウル・オーケストラやMFSBなどディスコクラシックがサンプリングされています。
6年後、マドンナとジュニアは『If Madonna Calls』で決別しますが、「もしも」ではなく、実際にジュニア姉さんの留守電に入ってたメッセージを勝手に使ったら、マドンナ様が激怒した(ので後々差し替えた)という大事件がありました。そもそもSound Factoryに出演する予定だったのに来なかったマドンナ様が悪いです。マドンナ様よりもプライドの高いおネエを怒らせてしまい、マドンナ様SF出禁命令が世界中に布告されるという、悪夢のような復讐の曲が作られました。

Bad Bunny – VOU 787(2023)
日本でのテスト公演が終わったバッド・バニーさん、5枚目ソロアルバム『Nadie Sabe Lo Que Va a Pasar Mañana(Nobody Knows What Will Happen Tomorrow)』からのラテントラップ。
どこがサンプリングなのかパっと聴いてもわかりませんが、オリジナルの冒頭シンセをピッチ半音上げ、ストリングスみたいなウワモノ感覚で、終始キーンと鳴らしているレイヤーです。このイントロパート、先のビヨンセ嬢「Break My Soul」のマドンナfeat.バージョンでもサンプリングされていました。
リリックは「もし俺が女だったら雑誌のVOGUEに出てくるモデルちゃんだな。マドンナとかリアーナみたいにゴージャスで、レゲトンと2パックが大好きで、カルティエとかブランド物ブリンブリンさせて、ダイエットのためにアボカドトーストとか食べて。でも英語は絶対しゃべらないYO」と、スパングリッシュで言っています。
いわゆる典型的おバカトラップのクリシェ「お金、ブランド物、女の子」をまんまやってる感じに一見みえますが、そこに「VOGUE」が直接&メタファーとして入ってきます。
タイトルのVOUは英語のYOU、787はプライベートジェット機のモデル番号かつプエルトリコの市外局番。つまり俺様は大金持ちで超オシャレで、パンツはくヒマないほどモテるけど、英語はキライなプエルトリカンだと。
マドンナのVOGUEがグリンゴ文化の象徴だとしたら、文字列を記号に置き換え無効化し、音はちょん切って薄くペラペラにのばしてからフワっと乗せて、メインディッシュであるスペイン語のガーニッシュにしてやれ、と。あくまでアメリカ文化に敬意と称賛は示しつつ、ラティーノなめんな、ということです。
そもそもラティーノは英語の歌を聴きませんので、サンプルとタイトルとリリックが全部リンクしていることに気づいている人がどれぐらいいるのか疑問です。何と言ってもアルバムワースト1~2位を争う低視聴回数。お高いクリアランスフィーを払ったにも関わらず、ラティーノは元ネタを知らず、英語圏の人はスペイン語のリリックが分からず、バニーファンには難易度が高すぎたようです。
後日談として、パリ・オリンピックを記念してヴァンドーム広場で開催された雑誌VOGUE主催のファッションイベント「VOGUE WORLD」で本人がこの曲を歌い、本家本元からお墨付きが出ました。めでたしめでたし。
ナレーションはカーラ・デルヴィーニュ
実は全然わかっていないというSNLコント

