ハウスミュージック・DJ・クラブカルチャーが好きな方におすすめの映画です。
ご紹介する作品は、おまけの「I Was Born This Way※日本公開未定作品」以外は日本語字幕版のDVDが販売やレンタルされています。「アマゾン」や「ツタヤディスカス」などで見つかりますので、探してみてください。
ハウスミュージック・DJ・クラブカルチャーおすすめ映画5選
『フランキー・ワイルドの素晴らしき世界』
(It’s All Gone Pete Tong/2004/監督:Michael Dowse/92min)
イビサを中心に世界で大人気の英国人DJフランキー・ワイルドが、ハイプな生活を送るうちにどんどん耳が聴こえなくなって一旦どん底人生に陥るものの、とある女性との出会いをきっかけにカムバックを果たすというフェイク・ドキュメンタリー映画。
原題の「It’s All Gone Pete Tong」は「It’s All Gone Wrong(全部がダメになる)」の言葉遊び。もともと1987年にTerry FarleyやAndrew Weatherallらによって創刊されたクラバー向けのファンジン『BOY’S OWN』のとある記事の中で書かれた、当時編集チームと仲良しのDJであるPete Tongを揶揄するギャグ(コックニー・ライミングスラングのノリでWrong→Pete Tongの語呂合わせ)だったとのこと。
この「人気DJが全然ダメになっちゃったら?」というダジャレを元に1本映画ができるって、しかもネタにされた本人も出演してエグゼクティブ・プロデューサーまでやってあげるって、さすがイギリス人わかってる感じです。(監督はカナダ人です)
『BOY’S OWN』はお気づきの通り、あのJunior Boy’s Ownです。最初はサッカー、音楽、ファッションから社会批判に至るまで好きなものごちゃ混ぜの、手づくり白黒コピージンのタイトルとして使われ、後にレーベル名になりました。
雑誌はデザインも内容もILLすぎて、さっぱり理解できない神レベルに到達してるんですが、All Gone Pete Tongが掲載されているページが見つかりませんでした、すみません。

Pete Tongは1960年ケント州生まれ。学生時代からDJをスタートし、70年代後半からラジオ出演。1979年に雑誌『Blues & Soul』編集部に入社、音楽ジャーナリストとしてジャズやブルーズなど当時UKであまり知られていなかったUSシーンを紹介。’83年に退社し、Polydor傘下のLondon Recordsへ転職。
ここでSteve ‘Silk’ HurleyやJesse Sandersなど、アンダーグラウンドのUSハウス・アーティストと契約するために、London Recordsからの指示で、ダンスミュージックに特化したレーベルFFRRを設立。’86年にはコンピレーション『The House Sound Of Chicago – Acid Tracks』をプロデュース。
’87年頃から、アンダーグラウンドのパーティを企画し、DJでも参加。そこでPaul OakenfoldやCarl Coxに出会うと共に、Boy’s Ownチームともパーティを企画するようになり、80年代のロンドンのクラブカルチャーを支える一人として認知されていきます。
70年代からパイレーツラジオでの活動も続けていた彼は、’91年からBBC Radio1にてEssential Selectionという番組をスタート、現在も続く長寿プログラム。2014年MBE(大英帝国勲章)受章。DJでは他に有名処だとNorman Jay、Gilles Peterson、GoldieがMBEもらってます。
90年代はCLUB DJとしてもRemixerとしても名前聞いたことないのに、Ministry of SoundsレーベルからやたらMIX CD出してる謎な人って感じでしたが、2003年から2007年までのPachaでのレジデントが本格的な海外でのCLUB DJ活動なので、それまでは活動が国内中心だったと思われます。
80年代から、イギリスでハウスならTongさんというのは、アメリカのハウスDJの間では常識だったらしいのですが、レーベルのレコード契約やプロモーションの話なので、一般リスナーは知る由もありません。
本人もイビサが決まるまでは、ほとんどイギリスから出たことがなかったと証言しており、評論家やA&Rは裏方仕事だし、ラジオDJと言われても、当時はネット未発達でイギリス国内でしか聴けない状況だったし、映画収録直前までは、イギリス以外での知名度は非常に低かったはずです。
2011年にはイビサ、2013年ごろからはLAを拠点に「All Gone Pete Tong」のイベントタイトルでCLUB DJにカムバック。内輪ウケのギャグが映画になり、それがまた知名度を高めて念願の世界進出、今や映画を凌ぐ勢いの大御所扱い。
映画冒頭に「Based on a True Story」って出てきて、このクリシェ自体が嘘なんですが、Pete Tongさんのその後の活躍を考えると「Based on a Fake Story」を地でいってます。
パイレーツラジオDJ→音楽ライター→メジャーレーベルA&R→クラブ系レーベル設立→地元クラブDJ→国営ラジオDJ→映画→世界的クラブDJ→MBE。わらしべ長者並の出世でございます。誰が一番スゴイって、そりゃ最初にギャグ作ったBoy’s Ownクルーっしょ、R.I.P. Andrew Weatherall。
映画はPachaやAmnesia、Manumission(閉店)などイビサの有名クラブで撮影、Pete Tongの他にNorman Cook(Fatboy Slim)、Carl Cox, Tiësto、Paul Van Dykなどがカメオ出演。
サントラはDay(ゆっくり系)とNight(はやい系)をテーマにした2枚組で、808STATE、Orbital、Deep Dishなど収録されてます。
真っ青な空と海と白い砂浜とキレイな夕焼け、個人的にはCafe Del Marな音楽が流れててほしいところですが、今や世界中のDJとクラバーが集まる聖地ですので、ぜひコレ観てイビサ行った気分になってください。
『Hang The DJ』

(1998/監督:Marco & Mauco La Villa/90mins)
Junior Vasquez、Danny Tenaglia、Carl Cox、Roger Sanchez、Claudio Coccoluto(イタリア人ハウスDJ)のほか、ヒップホップ系では収録時若干16歳のA-Trak、Red Alert、DJ Qbert、Mix Master Mike(Invisibl Skratch Piklz!!!)、あとKevin AvianceとFuturaも出てくるDJドキュメンタリー映画。
90年代、学費稼ぎに飲食バイトしていたイタリア系カナダ人の双子兄弟が、深夜お店に来るお客さんからDJやクラブに関するダークな噂話を聞くうちに、それならDJ本人に直接聞いてみたらいいんじゃないか、ということになったのがきっかけ。
クランクインは1996年10月、Larry Levanの追悼イベントが行われていたワシントンD.C.のクラブNation(正式名称The Capitol Ballroom)でのJunior撮影とのことです。同年6月7日に「If Madonna Calls」が出てジャストに話題沸騰中だったタイミングです。
そもそもクラブ音楽に全然興味ない映画学生が、どうしてインタビュー嫌いで有名なJunior様にアポ取れたのか不思議で仕方ありません。初っ端からハードル高すぎやしませんか、めっさ性格悪くて怖い人ってイメージしかありません。
タイトルはThe Smith『Panic』の「♪Burn down the disco/Hang the blessed DJ/Because the music that they constantly play/It says nothing to me about my life」つまり、「ディスコを燃やせ、人気DJを吊るし上げろ、やつらがかけてる音楽に何の意味もない」という歌詞から取ったもの。
「DJは今世紀におけるベートーベンやモーツァルトである」と監督自ら仮定しておいて、正直「DJなんて楽器弾かずに他人の音楽かけてるだけのヤツが、なんでスーパースター気取りなワケ?」ってあからさまな非難を映画で代弁させてる嫌味な感じなんですが、今やEDMのDJがスーパースターなこのご時世、「楽器弾いて歌ってるやつがスーパースターなれんの?」ってことに、さらには「人間が作った音楽なんて聴く価値あんの?」ってことに将来なるのかもしれません。
出演者の中で馴染みのない名前のCut Killerという方は、フランス人のヒップホップDJで、Mathieu Kassovitzの実質デビュー作『憎しみ(La Haine)』に出てきます。2Pac『JUICE』のフランス版って感じの名作なので、サグな人は観てください。
『24 Hour Party People』
(2002/監督:Michael Winterbottom/117mins)
マンチェスターブームとは何だったのかを、Factory Record社長Tony Wilsonの回顧録を元に描いたイギリス映画。
1976年、客が42人しかいなかったSex Pistolsのライブに来ていた若者たちが、貧しい地方都市だったマンチェスターをどう新しい音楽ムーブメントの震源地にしていったかを、ドキュメンタリー風に撮ってます。Ian CurtisといいPeter Savilleといい「根がパンク」って破滅か破産の運命なんでしょうか。
タイトルはHappy Mondaysの曲名から。
クラブ好きとしては、マンチェスターのロッチデール運河沿いにあったクラブ『Haçienda』のエピソードが必見ですが、当時もう建物が取り壊されていたのでセット撮影です。
Haçiendaオープン40周年を記念したBBC制作の『The Haçienda… The Club That Shook Britain』というドキュメンタリーあるので、好きな方はそちらもどうぞ。Oasisの人が出てます。
24Hourの映画本編は、画面暗いしフラフラしてて、とにかく観にくいんですが、実はこれ撮影監督がRobby Müllerです。ヴェンダースとかジャームッシュやってる手持ちカメラ得意な人ですが、ウィンターボトムはこの1本だけ。
おそらくラース・フォン・トリアー『奇跡の海』『Dancer In The Dark』あたりを観て起用したっぽく、画が似てます。ウィンターボトムは音楽の使い方がうまくて、戦争映画でStone RosesとかR.E.M.かかったりするので、ロック好きなら全部観てください。
ちなみにHappy Mondaysにはダンス担当のBezという、楽器弾けなくてステージで踊ってるだけなのに、なぜかボーカルよりも人気っていう不思議なメンバーがいるんですが、数年前にイギリスのTV番組「MasterChef」セレブ版に出てました。
Bezさん随分手つきが危なっかしくてハラハラしましたが、一応ルバーブ・クランブルだのミンティ・マッシィ・ピーだのThe Great Britishな料理が出来上がっててホっとしました。
『Party Monster』
(2003/監督:Fenton Bailey・Randy Barbato/99mins)
90年代初頭のNY、パーティモンスターと呼ばれた伝説のパーティ・プロモーターMichael Aligの半生を描いた、実話に基づく映画。マコーレー・カルキンがゲイ役で、クロエ・セヴィニーやマリリン・マンソンも出演して当時話題になりました。
正直なところ、音楽映画としても、オカマ映画としても、ドラッグ映画としても、NY映画としても成り立っておらず、カルトと呼ぶには中途半端で、何ともフォローしようがありません。脚本も撮影も演技も衣装も全部がうまくいってないダメ映画です。それでも書くことがあるので紹介させてください。
映画の主人公のモデルとなったMichael Aligは1966年インディアナ生まれ。大学就学のためNYに来てFITに編入、Keith Haringの彼氏と出会ってクラブ通いするようになり、Danceteriaというクラブでホールとして働くうちに、パーティプロモーターとして頭角を現します。
1988年、NYの大箱クラブLimelightのオーナーPeter Gatienに雇われパーティを企画。これが好評を得てGatien氏が経営する他のクラブ、The Palladium、Tunnelなどでもパーティを開催するようになります。
やがてドラッグの乱用と人格障害による奇行が表れはじめ、強引とか目立ちたがり屋のレベルを通り越して「キレるとヤバいヤツ」になっていき、最終的にはルームメイトと一緒に、LimelightでプッシャーだったAndre “Angel” Melendezさんを殺害、有罪判決を受けます。
この事件の顛末をAlig氏と親しかったJames St. James氏が回想録として書いた『Disco Bloodbath』が、映画の原作本になってます。
Alig氏は裁判後に刑務所に収監され、釈放後は絵を描いたりイベントプロモーターで食いつなぐも、結局フェンタニルのODで2020年に死去。原作著者のJames姉さんは映画公開後もTVコメンテーターやポッドキャストでご活躍されているそうです。
クラブオーナーのGatien氏は脱税の罪がもとで国外追放され、地元カナダに戻ってまた巨大クラブを作るものの、現在はリタイア生活。この追放措置は今振り返ると、当時NYC市長だったジュリアーニの陰謀というか、見せしめだったと思われます。あの頃、NYのクラバーの間では「Fu*kin’ Giuliani」が口グセでした。
タイムラインを考えると、このAlig氏のドラッグ絡みの殺人事件をきっかけに、ジュリアーニの「NYキレイにしよう」的なQuolity-of-Lifeキャンペーンが加速し、Gatien氏などクラブオーナーが逮捕され、クラブがどんどんつぶれ、最終的には大バコが一軒もないという悲惨な状態になり、有名DJやプロモーターはマイアミに移住するか、もしくはロンドンやベルリンやイビサに出稼ぎに行かざるを得ない状況になってしまいました。
ジュリアーニが市長な以上、遅かれ早かれ結末は同じだったと思われますが、それにしても殺人事件はさすがに「クラブってヤバくね?なくした方がよくね?」ってメディアや世間からの援護射撃が勢いづいたのは間違いなく、まじFu*kin’ Aligなワケです。
※ジュリアーニ就任時期にNYの治安が大幅に向上し、外国人でも安全に旅行できるようになったので、一概に悪いとは言えません。昔はヨカッタというのは簡単ですが、今だって(いつだって)NYは十分楽しいので、行きたい人はぜひ行ってください。
『Berlin Calling』
(2008/監督:Hannes Stöhr/109min)
ベルリンを中心に世界中を飛び回る超人気ドイツ人DJが、ストレスとプレッシャーからドラッグにハマるようになり、やりすぎて頭おかしくなって、彼女兼マネージャーの女の子に強制的に精神病院に入れさせられます。
さあ果たして彼はDJ復帰できるでしょうか?というシノプシスの、いわゆる「カタルシス的ナラティブの典型」を鼻であざ笑うコメディ映画。
その昔、Trainspottingが公開された時、宣伝コピーが「陽気で悲惨な青春映画」だったんですが、それに近いものを感じます。世の中の大多数はドラッグなんて関係ないクリーンな人生送ってるんで、そもそもこんな状況、全然共感できません。
だいたい、この本名マティアスさんというドイツ人DJ、DJネームがIckarus(イカロス)っていいます。そのまんまじゃねーか、と。
ギリシャ神話「イカロスの翼」がどんな話かリマインドすると、Long story short、迷宮に閉じ込められた父親とイカロスが、鳥の羽をロウで固めて背中にくっつけて飛んで逃げるんですが、イカロスの方が太陽に近づきすぎてロウが解けて墜落死する、という話です。
世の中的には、慢心してるとイタイ目みますよっていう警句ということになってます。でも実際のところ、イカロスは別に高飛車な性格だったとか悪いことしたとかじゃなく、単に自作の翼で飛んでるのが楽しすぎて高くアガりすぎて死んだという「陽気で悲惨」な人です。
さらに言うと、そもそも迷宮に閉じ込められたのは、お父さんもイカロスも悪いことはしておらず、お父さんの雇い主である王様の極悪非道が原因なんですけれど、ギリシャ神話って勧善懲悪モノとか聖書じゃないので、神様が不倫するとか自分の子供を喰うとか、現代人からしてみたら不条理極まりない話がエンドレスに続きます。
神話の世界じゃなくても世の中不条理だらけなので、何が起こっても「まあいいか」って、ドライに生き切るのが賢明なわけで、この映画はそういう意味で「イカロスくん、ご苦労様」なスラップスティック不条理コメディです。他の登場人物も全部クリシェなんで、本気にしないでください。ヘンなものを摂取しなくても音楽は楽しいです。
あとタイトルがThe Crashです。あの有名なジャケットの写真、The Palladiumで撮影されたって知ってました? The PalladiumはUnion Sq.近くにあった大箱クラブで、前述のLimelightオーナーのPeter Gatienが経営してた時、LarryやJuniorがDJしてます。

でも1927年に建てられた時は映画館で、60年代にパンク・ロック系のコンサートホールになり、’85年にクラブになったそうです。コンサートホールだった時にThe Crashのライブがあって、あのギターぶち壊す写真が撮られたとのことです。
’85年、Stadio54のオーナー2人が鳴り物入りでコンサートホールからクラブに改装したんですが、その時、なんとわが日本が誇る、磯崎新大先生が改装デザイン担当です。バブリーです。お金持ってます。80年代だし。
7階建てのビルの中に、各階趣向の違うサブフロア、吹き抜けのメインフロア、豪華VIPルーム2つとかあって、Keith HaringやJean Michel Basquiat等の作品が展示販売してあったんだそうです。バスキアって本物飾ってたんでしょうか、今だと1枚でもとんでもない額だと思うんですけど。
あとJunior様が就任する時、自分専用ブースをDolce&Gabbanaにデザインしてもらったそうです。日本だとサブブランドD&Gのロゴが多用されすぎて、あんまりいいイメージないのですが、NYではおネエ御用達だったんでしょうか。
というわけでバブルの権化みたいな箱ですが、動画あったので貼っときます。
映画の話に戻ると、主役の人が「BPitch Control所属アーティストPaul Kalkbrener」という、本職DJの方だそうです。
この「BPitch Control」というレーベル名にピンと来て「あ、俺レコード持ってるわ」という方は、楽しく観れると思います。そんなの聞いたこともありませんっていうオールドスクールなGenXには多少厳しいかもしれません。
おまけ『I Was Born This Way』※公開未定
(2025/監督:Daniel Junge、Sam Pollard/100min)
Carl Beanによるダンスクラシック「I Was Born This Way」をめぐるドキュメンタリー映画。Tribecca Film Festival 2025にてプレミアム上映されたばかりで、公開未定です。
プレスリリースによると、黒人かつクィアとして育った幼少期から、1977年ディスコヒットにより全米ビルボード10位に輝いたゲイアンセム「I Was Born This Way」をリリースするまでの音楽キャリア、そして音楽業界を離れ、マイノリティのためのAIDSプロジェクトや教会を設立するまでの、知られざるCarl Beanの人生に迫ります、とのことです。
トレイラーから察するに、本人のライフストーリー再現部分はアニメーションで制作していて、合間にインタビューや記録映像が入るようです。Lady Gaga、Questloveなどがインタビュー出演。この時期公開ってMAGAへのカウンター。
この映画、すっごいおもしろそうじゃないですか? 早くどこかの配給会社さん、買い付けお願いします。


