Pioneer DJとDenon DJといえば、多くのDJから信頼と尊敬を集め、すばらしい品質のDJ機器を製造していることで有名です。
その両者のフラッグシップモデルであるPioneer DJ CDJ-3000とDenon DJ SC6000は、DJにとって最重要アイテムといっても過言ではありません。
特にPioneer DJはDJ機材に関して世界のトップシェアを誇り、ほぼすべてのクラブやフェスティバルでPioneer DJの機材を見かけることができます。
圧倒的と言える功績に他のブランドの参入は不可能に近い状態であり、クラブやオーガナイザーはDJブースで他のブランドの機材で固めるというリスクを冒すことはありません。
しかしながら、Denon DJはその対抗馬として着実にDJたちの信頼を得て来ており、近年すばらしいプロダクトをリリースしています。
今回のレビューではPioneer DJのCDJ-3000とDenon DJのSC6000を比較し、メリットとデメリットを明確にすることで、DJの環境に応じてどちらがベストなのか考えてみたいと思います。
音質比較では聴き比べが出来るようにしていますので、自分の耳とダンスで確かめてみてください。
信頼性と手頃な価格?
あなたならどちらを選びますか?
では、いってみましょう!
スペック比較
まずはスペック比較からですが、特筆すべき点はその価格差です。
定価だと約13万円の差があります。
DJ用途で考えると2台必要ですから、26万円の差が生まれることになります。
周波数特性はCDJ-3000の「4 – 40000Hz」に対して、SC6000が「22–22,000Hz」となっています。
CDJ-3000が内部オーディオ処理に32bit floatを採用していることも気になる部分ですね。
スペック比較 | Pioneer DJ CDJ-3000 | Denon DJ SC6000 |
---|---|---|
価格 | 330,000円 | 198,000円 |
サイズ | 329mm × 453mm × 118mm | 320mm × 462mm × 152mm |
重さ | 5.5kg | 5.8kg |
ディスプレイ | 9インチ(シングルタッチ) | 10.1インチ(マルチタッチ) |
USB | 1x USB 2.0 | 3x USB 2.0/3.0 |
ハードディスク | × | ○ |
SDカード | ○ | ○ |
ファイルシステム | FAT FAT32 exFAT HFS+ | FAT32 exFAT HFS+ |
DJソフトウェア HIDサポート | rekordbox、Serato DJ、Traktor、djay | Engine Prime、Serato DJ、Virtual DJ |
LANポート | ○ | ○ |
wi-fi対応 | × | ○ |
ストリーミング | Beatport、Dropbox/Google Drive(CloudDirectPlay) | Beatport、Tidal、Soundcloud、Dropbox |
DAC | Asahi Kasei DAC AK4490EQ | Asahi Kasei DAC AK4413EQ |
内部オーディオ処理 | 96kHz/32bit float | ? |
デジタル出力 | 96kHz/24bit | 96kHz/24bit |
周波数特性 | 4 – 40000Hz | 22–22,000Hz |
全高調波歪率 | 0.0018 %以下 | 0.0015 %以下 |
主要機能比較
CDJ-3000、 SC6000共にDJプレイに必要な機能は全て搭載されています。
大きな違いとしてはSC6000ではデュアルレイヤー機能により、1台で2曲同時再生が出来ること、本体のみで楽曲解析やプレイリスト編集が出来ること、そして、エフェクターが内臓されていることです。
機能のアップデートはDenon DJの方が活発な印象を受けます。
主要機能比較 | Pioneer DJ CDJ-3000 | Denon DJ SC6000 |
---|---|---|
連携ソフトウェア | rekordbox | ENGINE DJ |
再生 | シングルレイヤー | デュアルレイヤー |
テキストサイズ変更 | ○ | ○ |
波形表示 | Blue/RGB/3Band | 3Band |
並列波形表示 | ○ | ×(レイヤーの並列表示は可能) |
BPMシンク | ○ | ○ |
Key Sync/Key Shift | ○ | ○ |
Vinylモード | ○ | ○ |
逆再生 | ○ | ○ |
パフォーマンスパッド | Hot Cue | Hot Cue、Loop、Roll、Slicer |
Hot Cue | 8個 | 8個 |
Auto Beat Loop | ◯ | ◯ |
Beat Jump | ○ | ○ |
スリップモード | ○ | ○ |
プレイ中の楽曲先読み | Touch CUE | × |
本体のみで楽曲解析 | × | ○ |
セーフティー | エマージェンシーループ | フルトラックバッファリング |
エフェクター | × | Touch FX |
ビジュアル演出 | PRO DJ LINK LIGHTING | STAGE LINQ |
音質比較
CDJ-3000とSC6000の音質の違いに興味がある方は多いと思います。
果たして価格差ほどの違いはあるものなのか?
今回、以下のセットアップでアナログ出力から録音を行いました。
DJミキサー : Pioneer DJM900NXS2
出力ケーブル : Mogami 2534
再生ファイル : 44.1kHz/16bit WAV
録音フォーマット : 96kHz/24bit
まずは、再生機からDJミキサーへの接続をそれぞれの付属ケーブルを使った音を聴いてみます。
※96kHz/24bitではファイルサイズが大き過ぎるため、全てのファイルを320kbpsのmp3に変換しています。
比較用原曲ファイル
CDJ-3000 (付属ケーブル使用)
SC6000 (付属ケーブル使用)
通常、ケーブルには特定の周波数が上がったり、下がったり、でこぼこしていたりと、各々に周波数特性があります。
それぞれの付属ケーブルでの比較の場合、周波数特性に違いがあるので、正確な比較とは言えません。
なので、次に比較条件を揃えるため、再生機からDJミキサーへの接続をそれぞれの付属ケーブルではなく、よりフラットなMogami 2534を使用して聴き比べてみます。
耳で聴くだけでなく、揺れたりダンスしたり身体でも感じてみてください。
比較用原曲ファイル
CDJ-3000
SC6000
どのような印象でしたか?
厳密に言うとMogami 2534はほんのわずかばかり高域が減衰するケーブルなのですが、それぞれの付属ケーブルよりはフラットになっていることが分かります。(音の好みはまた別の話なので、付属ケーブルの方が好みの音という人はいるでしょう)
CDJ-3000は周波数帯域が上下共にSC6000よりも広く、輪郭がくっきりして全ての周波数がバランス良く出力されている印象です。
しかし、32bit floatは24bitと比べると音の芯をとらえにくいため、グルーヴの変化とまではいきませんが、ややグルーヴが鈍くなっています。
一方、SC6000は精細さはCDJ-3000より劣りますが、音に安定感があり、グルーヴは非常にナチュラルです。
音の解像度、周波数バランスでいえばCDJ-3000、音のノリ、グルーヴ感でいえばSC6000の方が優れていると言えそうです。
ただし、分析的に集中して聴いた場合の話なので、一般的なリスニングでは気にならないレベルの違いかもしれません。
連続して聴くと分かりやすいので、下記の例では4小節ずつ原曲と入れ替えて再生しています。
ダンスしながら聴くとグルーヴ感の違いも認識しやすいです。
4小節ずつ原曲とCDJ-3000を入れ替えた例
バランスが非常に良く、終始ほぼ周波数のイメージは変わりません。グルーヴに関してはCDJ-3000に入れ替わった際にやや失速が感じ取れます。(ダンスまたはエアードラムしながら聴くと分かりやすいです)
4小節ずつ原曲とSC6000を入れ替えた例
SC6000に入れ替わった際にほんの少しだけハイエンドが減衰し、解像度が落ちたことが感じられます。グルーヴに関しては終始ほぼ変わらずナチュラルなまま。
テストに使用した曲 Murphy’s Law & Guy Mac – Loki (Original Mix)
世の中には12bitサンプラーの音が好きという人もいれば、48kHz/24bitの音が好きという人もいます。
最終的には音質は好みの問題なので、このぐらいのレベルになると、どちらが優れているとはハッキリと言えなくなってきます。
個人的にはCDJ-3000が「32bit float」と「24bit」を好みに応じてユーザーが設定画面から切り替え出来るようになればイイのになぁと思いました。
CDJ-3000の優れている点、イマイチな点
CDJシリーズは品質が素晴らしく、機材に問題があったと言う話はほとんど聞いたことがありません。
そのため、世界中のクラブ、DJからの信頼が非常に厚く、圧倒的なシェアを持っているのです。
この普及率の高さが、どこのクラブでも同じ環境でDJプレイが出来るという安心感につながっています。
ユーザーはrekordboxと連携することで便利さとDJプレイの質の向上が望めます。
Pro DJ Link接続でTouch CUE機能によって再生中のトラックをプレビューすることができるようになったのも便利ですね。
また、現在再生中の曲と次の曲を並列して波形表示が出来るようになったので、ビートのズレが視覚で分かり、よりビートマッチングが簡単にできるようになりました。
マイナスな点としては価格が高過ぎることです。
もちろん、廉価版や自宅用に使える他の選択肢が用意されているのは分かっていますが、フラッグシップモデルとはいえ、もう少し価格を抑えて欲しいというのは皆が思うところでしょう。
SC6000の優れている点、イマイチな点
最大の利点はなんと言っても価格が安いことでしょう。
また、SC6000はCDJ-3000と比べると機能が豊富です。
たとえば、1台で2曲同時再生出来るデュアルレイヤー機能はすばらしいです。
SC6000を2台用意するのも良いですが、別売りのLC6000(定価69,800円)を使えば、2つのプラッターで1曲ずつ操作出来るようになるので、本格的なDJセットを安く構築することができます。
あとは、CDJ-3000ではエマージェンシーループ機能があり、USBが途中で抜けたりした場合、直前の1小節でループが作られ音を止めることなく緊急時を切り抜けることが出来ますが、SC6000の場合はエマージェンシーループの代わりにフルトラックバッファリングがあり、楽曲読み込み時にRAMに一曲まるごと記憶され、USBが途中で抜けたとしても曲の最後まで再生することが出来るようになっています。
スタンドアローンで楽曲分析、プレイリスト作成などが出来るのも特筆すべき点ですね。
ちょっとしたビートのズレをプラッターを触って修正するのではなく、ボタンを押して修正できるピッチベンドボタンというのもあり、これが意外と便利です。
イマイチな点として、クラブでの普及率の低さがあります。
そのため、クラブでのプレイを考えるとDJライブラリを別途rekordboxでも作る必要があったり、余計なひと手間がかかります。
これはPioneer DJのシェアが圧倒的すぎるので、仕方ない部分ではありますね。
どちらを選ぶ?
DJ市場にはこの2つ以外にも選択肢はたくさんありますが、この2つの中から選びたいという場合は何を基準に選べば良いでしょうか?
価格、好みの音質、機能、クラブで使用時の互換性、DJライブラリとの連携、プレイする内容、使用場所など、判断材料は多岐に渡ります。
例えば、パフォーマンス重視のアスリート的なプレイをするDJであれば、Pioneer DJ CDJ-3000を選ぶべきかもしれません。
なぜなら、なるべく本番と同じような環境で何度も練習を繰り返すことで、本番でミスをすることなく安定したプレイをすることが出来るようになるからです。
また、クラブやDJバーのオーナーの場合も、品質、信頼性やスタンダードといった点からCDJ-3000を選ぶべきでしょう。
一方、オーソドックスなミックスと選曲で踊らせるタイプのDJならば、Denon DJ SC6000でも良いかもしれません。
SC6000とCDJ-3000は基本的な機能やレイアウトなどが非常に近いので、クラブでCDJシリーズを操作する際にもすぐに適応出来ます。
ただし、CDJとの連携を考えると、楽曲解析、グリッド調整、Hot Cueの設定などはrekordboxで行う必要がありますので、そのあたりは自分なりの工夫が必要となります。
また、ネット配信であったり、仲間内のパーティーでのみ使用など、クラブを主なプレイの場所としていない場合もSC6000にアドバンテージがあるでしょう。
まとめ
Pioneer DJとDenon DJはDJ機器業界でベストなメーカーであり、正直CDJ-3000、SC6000のどちらを選んでも間違いはないです。
自分がDJとして何を目指し、どういったプレイをするかによって変わってくるのかもしれませんね。
ご紹介したスペック、機能、音質比較などが少しでも参考になれば幸いです。
今回の記事を執筆するにあたり色々と調べてみて、Denon DJの製品は非常に高品質、多機能であると感じました。
コスパがかなり高いです。
また、機器の品質の高さは言うまでもなく、あらためてPioneer DJのすごさと強さがわかりました。
ある程度の競争が生まれる方が新たなイノベーションにつながると思いますので、Denon DJも含め、他のDJ機器メーカーが今後シェアを広げ、DJ業界全体がさらに盛り上がるといいですね。