今回はここ数年、有名DJが出演するようになった、得体の知れない謎イベント「Burning Man(バーニングマン)」でDJしたい人のために詳細を調べてみました。
それでは、全然役に立たないDJロンリープラネット [ネヴァダ編] です。
バーニングマンでDJする方法
バーニングマンとは何か
まず最初に、アメリカ・ネヴァダ州のブラックロック砂漠で行われているバーニングマンは、1986年にサンフランシスコで20人でキャンプファイヤーをやったのがスタートの、いわば巨大な焚火イベントです。
現在8万人まで来場者数が増えていますが、バーニングマン10原則を知らない人は参加してはいけませんし、そもそも音楽フェスではありません。
お値段は今年2026年のチケットが575ドル、車両パス150ドル、税金や手数料100ドル、合計約825ドル。これにレンタカー、テント、食料、水、キャンプ用品やサバイバル用品の購入費を加えると、一人最低2000~2500ドル。どれだけケチったとしても、数か月ぶんの給料まるごと軽く飛ぶ、脅威の高額イベントです。(※JP-USの渡航費は除く)
このバーニングマン内で近年、Robot Heart(ロボット・ハート)やMayan Warrior(マヤン・ウォーリアー)でのDJが注目されています。
ロボット・ハートは、George “Geo” Mueller(ジョージ・ミュラー)がファウンダー、NY/香港ベースのサウンドシステム・コレクティブ。

Edward Natividad(エドワード・ナティヴィダッド)をリードデザイナーとしてデザインされた70年代のイギリスのバスに、巨大なサウンドシステムを積んでおり、ネヴァダのブラック・ロック砂漠を背景に、ディープハウスやテクノを日の出でプレイするスタイル。
ロボット・ハートではLee Burridge(リー・ブリッジ)の2014年のDJが、いまだに「バーニングマン史上ベストパフォーマンス」と言われており、映像や音源が残っています。
Lee Burridge @ Robot Heart(Burning Man 2014)
他には中東ルーツのDJデュオBedouin(ベドウィン)やテクノのJan Blomqvist(ヤン・ブロムクヴィスト)が常連。過去にはMajor Lazer、Diplo、Carl Cox、The Martinez Brothersが出演しています。
マヤン・ウォーリアーは、Pablo Gonzalez Cid(パブロ・ゴンザレス・シド)がファウンダー、CDMXをベースとしたクリエイティブ・コレクティブ。数千個のハイテクレーザーやLEDに覆われた、マヤやアステカをテーマとしたデコラティブカーを制作するアーティスト集団。
こちらではKeinemusik(カイネムジーク)、Monolink(モノリンク)、RÜFÜS DU SOL(ルーファス・デュ・ソル)といったDJやミュージシャンが出演しています。ロボットハートとマヤン・ウォーリアーはコラボレーションがよくあり、DJが被っていることもあります。
2022年、カイネが大ヒット曲「Your Voice」をリリースした1週間後、マヤンにて伝説となるサンライズDJを披露。
その後、マヤンが長い年月をかけて作り上げてきたサウンドシステム搭載のアート・カーが、2023年、メキシコまでの輸送中に火事にあい消失。マヤンは新しいアート・カーを作る資金調達のために、ファンドレイジング・ワールドツアーを行います。
このツアーにカイネはたびたび出演し、マヤンは最終的に3Mドルを調達、2024年には新しいアートカーを完成させます。つまりカイネムジークの大躍進と、マヤン・ウォーリアーの再生が同時に進み、一緒に世界的知名度を獲得していきました。
Keinemusik – Mayan Warrior(Burning Man 2022)
ほかにもMAXAやBiPolar Expressなど、DJが出演するコレクティブのサウンドシステムはたくさんあります。
バーニングマンの特殊事情
バーニングマンの特徴は「お金を使ってはいけない」ということ。したがって、有名でも無名でもDJは全員ノーギャラ。バーニングマンが好きということで、無料出演しています。
現地まで行かないといけないので、お財布的には大幅なマイナス。忙しいDJはプライヴェートジェットに乗って来て、自腹で3万ドル以上使います。
「お金を使ってはいけない」は簡略化した表現で、本来は「Gifting Economy」を基本とし、何の見返りも期待しない、無私のギフトによって成り立つ経済圏の街を砂漠で9日間やってみるというのがバーニングマンの根本思想。
DJがプレイするお礼として、Burner(バーナー、バーニングマンの参加者)は踊る以外に、Trinkets(トリンケット/手作りのネックレスやブレスレット、その年のテーマを刻印したレザーパッチ、砂よけマスクなど小さなギフトを意味するバーニングマン用語)をDJにプレゼントしたり、水やスナック類の差し入れ、ボランティアでコレクティブのサポートをしたりします。
バーナーはあらゆるものを自前で用意し、砂嵐が吹き荒れる砂漠で9日間サヴァイブする必要があるのですが、セレブやテック系のお金持ちは、そんなツライことはしません。
プライベート・ジェットやヘリコプターに乗って来て、事前にお金を払ってベンチャー・キャピタリストやイベント・プランナーなど御用聞きにTurnkey Camp(ターンキー・キャンプ)、もしくはPlug-and-Play(プラグ&プレイ)と呼ばれるエスクルーシブなシェルターキャンプを用意させて滞在。
灼熱砂漠のなか冷房の効いたRV内で寝たり、プライヴェート・シェフが作る料理を食べたり、シャワーも浴びられるようになっていて、メインの土曜夜のパーティを中心に2~3日だけ滞在して帰ります。
Googleの創業者であるLarry Page(ラリー・ペイジ)とSergey Brin(セルゲイ・ブリン)は昔から参加しているバーニングマンの大ファンであることは有名ですが、Elon Musk(イーロン・マスク)も20年以上前から参加しているベテランバーナー。
他にもAmazonのJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)、FBのDustin Moskovitz(ダスティン・モスコヴィッツ)、UberのGarrett Camp(ギャレット・キャンプ)、Open AIのSam Altman(サム・アルトマン)といった「テック・ビリオネア」たちがバーニングマンに参加しています。
こういうシリコンバレーの人たちが、昔はわかりませんが、今はプラグ&プレイを作らせ、優雅に過ごしてサクっと帰ることは、想像に難くありません。
この、セレブなお金持ちだけが知る「公然の秘密」はコアなバーナーから大批判を浴び、運営サイドはお金を払って作らせる高級キャンプを禁止しはじめました。

出演するDJたちも、9日間のスパルタな自給自足サヴァイバルではなく、自分が出演する時だけ来て、2~3時間DJしたらすぐ帰る人が多く、バーニングマンの原則に違反しています。
ロボットやマヤンは、特殊なアクセスパスやロジスティックス・ルートを利用可能で、毎回巨大なシェルターテントを建て、水や食べ物、クーラーのきいたRVも完備しており、DJたちはその「ゲスト」ということで、何の準備もしてこなくても快適に出演・滞在できるそうです。
ロボットやマヤンは昔からずっとバーニングマンの「住民」であり、人気の名物コレクティブなので、そんな老舗に「DJだけ特別扱いするな!」とは、バーナー歴が長い人ほど言いづらいです。
バーニングマンで起こった珍事
2014年、ロボット・ハートに出演したDiploさんとSkrillexさんが、あまりにコマーシャルなEDM曲「Turn Down for What 」をやったためブーイングを受け、最終的にDJブースを乗せたバスから追い出される事態が発生。
このWikipediaにも載っている話だけ読むと「バーニングマンでは派手なヒット曲をかけてはいけない」と共に「EDM DJはNo Thank you」という結論になります。
しかし、この伝説的逸話には前説があり、実はDiploさんとSkrillexさんはピンチヒッターでした。
ロボットは事前にSeth Troxler(セス・トロクスラー)をブッキングしていたのですが、あまりに大勢の取り巻きを連れてきて、DJブースのあるバスに全員乗ろうとするので、ロボットのスタッフが取り巻きを止めます。
するとセスが怒り狂い「ここでプレイしたいDJは1000人いるだろうが、俺たちはそうじゃない!」と言い放ち、DJしないまま帰ってしまいました。
その時、すでに自分の出演時間を終え、そのへんでダべっていたのがDiploさんとSkrillexさん。超満員のお客さんを目前にして、セスが勝手に去ってしまい、DJブースは無人、音が止まりそうでスタッフが困っていたので、このふたりがヘルプで出てくれることになりました。
つまり彼らはもう自分の仕事は終わっていたにも関わらず、急きょお手伝いで再度ブースに立つことになったので、ギャグでヒット曲をかけただけです。自分の出演時には、バーニングマンに合うアンダーグラウンドでアーティスティックな選曲をしていました。
彼らは親切に手伝ってあげた(のが裏目に出た)のであって、悪いのはDJせずに帰ったセスおじさんです。普段EDM DJの傲慢さをボロクソにけなしまくっているくせに、その「自称ハウス・ピュアリストDJ」が傲慢な態度で、プロフェッショナルとしてあるまじき仕事放棄をお客さんの目の前でやってのけました。
ギャラが現金でもらえないので、友達全員を連れてきて、最大限のゲスト待遇を受けてギャラとオフセットしようとしていたことは明らかです。
一人最低2000ドルかかるイベントに、たくさんゲストを連れてくる時点で「お前どうなのよ?」ですが、さらに怒り散らしてDJしないで帰るとは、一体どこまで傲慢なんでしょうか。この人にEDM DJを批判する資格はありません。
さて、このバーニングマンにDJ出演する方法ですが、3パターンあります。
1.Renegade Set
まずはRenegade Set(レネゲイド・セット)をやる方法。全部自前で用意して、自分でDJすることをレネゲイド・セットと呼びます。バーニングマンにはオープンキャンプにレネゲイド・エリアがあり、DJを披露するバーナーが多数います。
砂漠の荒野にはコンセントなどないので、ソーラーパネルを持ち込んで電源とし、Deep Cycle AGMやLithium LiFePO4といったバッテリーに充電、機材につなぐのにインバーターでDCからACに変換する必要もあります。
多くの自前DJは、このような機能がオールインワンになった「Solar Generators」を使っています。
DJ時の最大の敵は砂嵐で、ネヴァダ砂漠のアルカリ性の砂がCDJなど機材に入り込むと30分も経たないうちに壊れるので、防塵防砂のためのプロテクターが必須。また多くのレネゲイドDJは、ゴルフカートやバイクを利用した「アートカー」を作り、バッテリーと2個のスピーカー(省エネタイプが望ましい)を乗っけています。
イニシャルで2000ドル以上かかるのに、こんな普段使わない機材を買っていたら、給料数か月ぶんどころか、1年ぶんぐらい持っていかれそうです。もし家宝のMacやCDJが砂で壊れたら…。想像したくもありません。
2. Collective Route
もうひとつは、前述のロボット・ハートやマヤン・ウォーリアーといったコレクティブのプロデューサーやディレクターと仲良くなって、出演させてもらう方法。
ロボットもマヤンも、オフィシャルYoutubeチャンネルにて2024~2025年の映像を大量に出したため、今年以降の出演競争率が高そうです。
2014年のセス・トロクスラーの時点で、出演したいDJが1000人いたのだとしたら、今はもう1万人以上の希望者がいるかもしれません。有名大学の入試より狭き門。
アンチ・コマーシャルなバーニングをDJ自身のPRに利用する時点で本来アウトですが、逆に老舗コレクティブが多くの「ゲスト」を招き、アフロハウス・ブームに乗っかるような恰好でPRに力を入れ、オンラインや出張公演でのマネタイズを意識するようになりました。
この流れだと、さらに有名DJがたくさん出演する音楽フェスのような方向に行く可能性が高いと思われます。


3. Domestic Route
最後は、日本のバーニングマンにDJで出るという方法。2026年もありますので、概要に従って参加してみるという手があります。日本のバーンに出れば、本国ネヴァダに出演する近道にもなります。
行ってみたいけど、アメリカまで飛行機で飛んで、現地でレンタカーを借りたり、水や食料や自転車を買ったりするのはハードルが高すぎると思う人は多いらしく、経験者を中心に、ヨーロッパ各国でもスピンオフが開催されています。
ちなみにバーニングマンの原則のひとつに「痕跡を残さない」というのがあります。仮設トイレは数が少なく常に混んでおり、自分のテントから遠いことが多いのですが、そこらへんでテキトーにして野良猫のように砂でチャチャっと隠すのは罰金がチャージされる違反行為。
大多数のベテランバーナーは口の広いポリタンクを持参して尿を入れて保管し、持ち帰る(大はどうするのでしょうか)ということです。
8万人が立ちションして砂で隠し、そこに太陽が照り付けると、とんでもないニオイになるので、そういう罰則・罰金があるそうですが(お金を使ってはいけないのに、運営スタッフに払う罰金は現金のみ)、こっそりしている人は多く、しかも全員9日間シャワーできずにデオドラントや香水でごまかすので、現場はあらゆるものが混然一体となった、ものすごい特殊なニオイが充満しているんだとか。
トイレや炊事場が完備されている川べりのキャンプ場に行くのとは、全然違うレベル。尿ポリタンクや異臭ごときで萎えるメンタル弱めな人に、バーニングマンは向いていません。
2000ドル払って過酷な自己責任サヴァイバルに耐えるマゾ的な集団自己啓発イベントであって、有名DJをみて楽しむ音楽フェスや、ロードトリップ+キャンプを想像して行くと、痛い目にあいます。何かあっても地元警察や救急車がすぐ助けてくれるような状況でもありません。
ここ3年連続、死者が出ています。人が死んでもまだやっているということは、主催者は責任とりません、勝手に死んだヤツが悪い、ということです。
実際、バーニングマンのチケットの裏面には「このイベントに参加することで、あなたは重傷や死亡のリスクを含むあらゆる危険を自己責任で受け入れるものとする」という免責条項が明記されています。そこらへん腹くくれる人だけバーニングマンに行きましょう。
まあ人間、どれだけ生命保険をかけても、毎年健康診断に行っても、家から出ないで危険行為を避けても、誰だって最後は死ぬし、そもそも生きてることに何の保証も保険もないので、その「人生すべて自己責任なのだ」という現実を極限状態で覚醒するのが、バーニングマンといえます。
覚醒したところで、イーロン・マスクみたいなお金持ちになれるかどうかは、わかりません。
ピラミッドとバーニングの接点
さて、前回のピラミッドと今回のバーニングマン、対極的なヴェニューですが、出演者が被っています。
これはKeinemuzikやBlack Coffee、ThembaといったDJや、Monolink(モノリンク)、Acid Pauli(アシッド・パウリ)、WhoMadeWho(フー・メイド・フー)といったピラミッド/バーニングマン出演のアーティストたちが、オープンエアの砂漠地帯で映える「Desert Tech」というサブジャンル名で呼ばれ、人気になったことがひとつ、理由としてあります。
デザートテックは特定の音を指していませんので、単なる雰囲気の問題ですが、砂漠→アフリカ→アフロハウスといった連想も相まって、オーガニックなイメージがウケているそうです。
また「お金を使ってはいけない」はずが、実は恐ろしくお金のかかるバーニングマンにわざわざ参加するリッチでニッチなお客さんは、好きなDJが出演するなら中東やアフリカにも行く可能性が高く、ベンチャー・ライフスタイルやファクトリー・ピープルといった中東のイベント会社が、バーニングマンを参考にドバイやピラミッドにDJをブッキングしているという側面もあります。
実際、ピラミッド前のイベントは、80~150ドル前後の普通チケットに加え、250~500ドルのVIP、ラウンジやバックステージを使える2,000~10,000ドルのスーパーVIPといった富裕層を狙ったチケットが用意されています。
所得の低い大多数のエジプト人にとって80ドルは大金で、地元民は普通のチケットすら買えません。明らかにドルやユーロを持っている観光客向けの価格設定です。
「Exit Egypt 2026」ではオール・インクルードのトラベル・パッケージ・チケットが発売されており、フライトやホテル、ホテルから会場までの移動シャトルバスやプライヴェートカー、VIP席やそのテーブル・サービスまで含めた至れり尽くせりのプレミアムチケットもあるそうです。
最弱通貨の円を使っている日本人にとっては、まったく浮世離れしたお話ではありますが、広い世の中には、このようなチケットを買うお金持ちのジェットセット・クラバーもいるらしいです。
どうせ、どこでどのように聴いたってDJプレイそのものは同じですので、思いたったらすぐトイレに行ける自宅で、ピラミッドDJやバーニングマンDJをYoutubeで観て楽しみましょう。
来月のDJロンリープラネットは、1ドル160円するご時世に、海外なんか行ってられるか‼という学生DJやリーマンDJのために、日本国内某所でDJするための方法について探ります。


