ハウスはハウスのプロデューサーが作るもの。他ジャンルのアーティストがハウスをやってみるケースは少ないものの、果敢にトライする人がいます。今回はハウス・プロデューサーにハウスRemixを依頼したわけではなく、自らハウスを作った人を紹介します。
意外なアーティストのハウストラック
Timbaland(ティンバランド)
これからは作曲もAIの時代だ!と言っておいて、AIで作ったトラックが他人の曲から無断借用されていたことが判明し、叩かれていたティンボさん。去年リリースのAIアーティストが全然売れないまま、今年突然NYの若い子とハウスを作り、MWCの時期にあわせて公開しました。
Aluna, Will Sass & Timbaland – Houseboy(2026)
いかがでしょうか。MWCやUltraで無視され、Resident Advisorで酷評されていました。
そもそもなぜハウスなのか謎ですが、数年前、David Guettaに「キミが作っていた音はトランジションとビルドアップを使ったEDMの原型だ」とほめられたのと、ここ数年、Fred Again..やJohn Summitがスタジアムをソールドアウトにしているので「四つ打ちにヴォーカルループを乗っければ儲かる」と思った、とのことです。何なんですかそのハウス界をナメきった発想(怒)。
Tom Misch(トム・ミーシュ)
レイドバックしたメロディで人気のギタリスト、Tom Misch(トム・ミーシュ)。ハウスが好きで、2022年から「Supershy」というハウス・プロジェクトをやっています。
Supershy – Too Late I Had Fallen(2023)
Larry HeardとDaft Punkがお好きだそうで、なるほどといった感じのBPM120のハウス。Supershyはたくさんリリースがあり、全部それなりに良いのですが、本業のギターとくらべると俄然知名度が低いです。Supershyというぐらいなので、誰にも知られずこっそりと、好きなことだけしていたいのかもしれません。
Quietstorm(クワイエット・ストーム)
90年代から、東京ヘッズが絶大な信頼を寄せるリアル・リビングレジェンド・ヒップホップDJのQuietstormさん。桑田つとむ名義でハウスをリリースしています。
桑田つとむ – This Is My House(2009)
初期 Idjut Boys(というよりもQuakerman)のようにダビーで、DJ HarveyやAndrew Weatherallが好きそう。これは知られざる秀作。
Fingers Inc「Can You Feel It」’88年ヴォーカルVer.をサンプリング。Eddie Amador「House Music」や Roland Clark「I Get Deep」の原型と言っていい、牧師さんが説教しているようなスピーチは、Chuck Robertsという人が担当。この名曲にはリアル牧師のM.L.キング「I Have A Dream」もサンプリングされています。
Fingers Inc「Can You Feel It」(1998)
他にもJBなどヒップホップで人気のサンプリングソースがMPCでチョップされて組み合わされており、同じくMPCが好きなKenny DopeやMoodymannにも通じるところがあります。プロフィールを調べたところ、シカゴハウス創世期にイリノイに住んでいたそうです。
この方、四半世紀ほど前に某デザイン事務所で数回お見かけしたのですが、当時DJだとは知らず、デザイナーのアシスタントさんだと思っていました。ごめんなさい。今考えると、あの飯倉片町の倉庫は中目黒薬局の出張所的な扱いだったようです。2019年にドレッドをばっさりカットしたそうで、たぶん会っても誰だか判別つきそうにありません。
Bad Bunny(バッド・バニー)
新譜では、サルサなどプエルトリコらしい新機軸を打ち出してきたバッド・バニーさん。レゲトン時代の特大ヒットアルバム『Un Verano Sin Ti』にハウスが1曲だけあります。アルバム発売から随分経ってから、以下のビデオが突如公開されました。
Bad Bunny – Neverita(2022)
アルバム8曲め、BPM122のシンセポップ。チープでダサすぎるため、逆にカッコ良く見える謎のビデオですが、これはプエルトリコ・メレンゲ界のスーパースターElvis Crespo「Suavemente」のビデオへのオマージュ。
Elvis Crespo – Suavemente(1998)
黄色の着ぐるみはオリジナル。ポケモン(???)にしてはひどい出来ですが、日本のみなさま、笑って許してやってください。バニーちゃんは日本が大好きなんです。
Thom Yorke(トム・ヨーク)
初期 Boiler RoomでのDJが伝説と化しているThom Yorke(トム・ヨーク)。昨年、Mark Pritchardとコラボアルバム『Tall Tales』をリリースし、全編に渡ってエレクトロ/テクノです。
Mark Pritchard & Thom Yorke – This Conversation is Missing Your Voice(2025)
BPM126、ハウスというよりテクノポップ。以下は最近のライブの模様。
Thom Yorke – Live at Sydney Opera House
大学生時代、後にBasement Jaxxの片割れになるFelix Buxtonと一緒にDJをやっていました。ロックで有名になったものの「同じことは二度とやらない」という真のアーティスト。ジャンルは関係なく、あえて言えば「トム・ヨーク」というジャンル、何をやっても許される稀有な人。
Danny Brown(ダニー・ブラウン)
デビュー時から、何回かキャラチェンジしているダニー・ブラウン。今回は「ジム狂いのポップスター」というペルソナで、7枚目アルバム『Stardust』を制作。BPM124の、90年代ハウス風トラックがあります。
先週公開されたビデオ中のコレオグラフは、デトロイトのJitというダンスで、リバイバル中のシカゴGhetto Houseの流れを組むもの。
Danny Brown – Lift You Up(2026)
なかなか良い出来。今年出演していたシカゴのElevator Musicで、この曲がラストだったので、本人もお気に入りのようです。
どうしてヒップホップのラッパーが、ガチハウスを作れるのか不思議ですが、調べたところ、ダニーのお父さんはSamuel Brown Jr.といい、デトロイトでハウスDJをしていたそうです。DNAにデトロイト・ハウスが織り込み済み。お父さんは去年亡くなったそうで、もしかしたらお父さんに捧げた曲なのかもしれません。
初期ミクステ時代から「一風変わったおバカキャラのラッパー」で、Fool’s GoldからWarpに移籍し、エクスペリメンタルなトラックが多く、ヒップホップファンから色モノに見られがちな彼ですが、ようやく謎が解けました。ラッパーがハウスを作ったのではなく、ハウスっ子がラッパーになったのでした。お父さんがハウスDJだなんて、そんな恵まれた人、現役ハウスDJにだっていません。超ズルい。
以上です。マドンナ様やガガ様も、最近ハウス調ダンスポップのトラックをリリースしていますが、RAやPitchforkのクリティックはすべからく「ダンスポップとしては秀逸かもしれないが、クラブのダンスフロアでは絶対かからない曲」という締め。
音楽制作ソフトや視聴Appリコメンデーションのアルゴリズムに乗っ取った、人気のマイナーコード進行やステレオティピカルなリリック、30秒に収まるキャッチーなフックが量産されまくり、ダンスポップやメロディックなEDMは、もはや大量生産の工業製品と化しています。ティンボさん失敗作の原因は、このアルゴリズムの踏襲に他なりません。
いくらプログラミングが上手だろうが、有名な歌手を使おうが、アルゴリズムを解析しようが、純粋にハウスが好きな人が作らないと、ハウスファンが納得する曲にならなさそうです。

