自称正統派DJセス・トロクスラー迷語録

  • URLをコピーしました!

伝統的にハウス/テクノDJは謙虚で無口な人が多いもの。いいDJをすれば良い、いい曲を出せば良いという「語らずとも音で示すべし」の精神で、シカゴやNYやデトロイトのレジェンドたちが築き上げてきたのがダンスミュージック。

そんなハンブルなアンダーグラウンド界に2010年代、ビッグマウスDJが登場しました。元祖お騒がせハウス/テクノDJ、Seth Troxler(セス・トロクスラー)。

「ダンスミュージック純粋主義者」「クラブカルチャーのゲートキーパー」を標榜し、コアなリスナーから一定の評価を受けているものの、一方で著名EDM DJをボロクソにけなし、メディアが喜びそうな暴言を吐き続ける、まるでハウス界のカニエさんのような人。

とはいえ、2012年にはResident Advisorの年間DJ投票で1位に選ばれ、イビサのDC-10ではCircolocoのレジデントを10年近く務める、正真正銘の実力派なのも事実。

「Well Said!もっと言ってやれ!」と思う反面、常にキワいことを言ってメディアの注目を集めていないと気が済まないかまってちゃんにも見えるセスおじさん。

挑発とマッチポンプを交互に繰り出し、いつどこで何を言うと注目され、お金が儲かるか、高度に計算して炎上商法を繰り広げているようにも見える、この人の発言遍歴を集めてみました。

目次

セスおじさんの迷語録 2013〜2025

2013年12月

あいつはただの〇ッチ(@Vice)

Resident AdvisorのDJドキュメンタリー・シリーズ『Between The Beats』で一躍話題になった、Nina Kraviz(ニーナ・クラヴィッツ)さんについてのコメント。

5’30”ごろからバブルバスにつかって語るシーンがありますが、これについてRAのFBでMaceo Plex(マセオ・プレックス)さんという男性テクノDJが「露骨な性的アピールのプロモーション」 とコメントして炎上。

ニーナさんは、DJって孤独で過酷で厳しい世界だけど、音楽が本当に好きだからがんばります、的なことを真摯に語っていますが、話の内容そっちのけで「風呂入ってる」という部分だけに喰いついています。

このインテリで知られる実力派テクノDJの書き込みから、ネット上で一大論争となり、マセオさんは2013年4月、ニーナさんに謝罪する事態に追い込まれました。

ガーディアン誌をはじめとしたメディアも、マセオさんの発言を大きく取り上げ「芸術性よりも、セクシャリティを優先している」「純粋なアーティストとして失格」といった、男性DJや男性クラバーが展開するマッチョ理論を紹介。

男性中心業界における、女性アーティストへの偏見と嫌がらせの実態を浮き彫りにしました。

そして同じ年の夏、セスおじさんは自分が裸で暖炉の前に立つ、フェス(Eastern Electrics)のプロモ動画を公開。ニーナさんの風呂のパロディだと受け取られ、物議を醸しました。

さらに12月のViceのインタビュー【1】では、パロディであることは否定しつつ「お互い嫌いなんだ」とニーナさんを〇ッチ呼ばわり。フェスでCDJの接続を手伝おうとしたら断られた、握手しようとしたら「道化とは握手しない」と言われた、といった個人的な因縁を、公の媒体でぶちまけています。

シャワーやら風呂やら水着やら、R&BやポップシンガーのMVにいくらでもあるのに、どうして女性DJが風呂入ってるだけで、ここまで叩かれるのでしょうか。

しかも男性DJが自分で裸になる分には、ただのおふざけ扱い。男性DJが脱げばネタ、女性DJが風呂に入ればスキャンダルという、わかりやすいダブル・スタンダードです。

しかもこれ、RAが作ったドキュメンタリーです。「女性DJの葛藤」というパセティックなナラティブがキライなら、そのシナリオを作ったRAのディレクターに文句言ってください。

どうせあなたたち、もし風呂入ってるのがThe Blessed Madonna(当時はThe Black Madonna)さんだったら、何も言わないんですよね。

コメントの語り口調が、いかにも自分は大物DJだと言わんばかりですが、この頃から「キワいことを言うとメディアが取り上げてくれる」ということを意識し出したようです。しかも絶好調で怖いもんナシだった頃のVice【1】。

2014年5月

EDMはカルチャーじゃない(@Vice)

Viceの記事『Dance Festivals are The Best and Worst Places in The World』(ダンスフェスは世界で最高で最低の場所)。本人が執筆しています【2】。

彼の主張は「ダンス・フェスティバルとクラブ・カルチャーは別物である。ダンスミュージックに情熱や敬意を持っている真のクラバーからしてみれば、現在のダンス・フェスは9割がゴミであり、EDMは音楽ではなくお金のためだけに存在している。クラブ文化を衰退させているフェス中心のEDMは、カルチャーではない」というもの。

EDMは、エレクトロニックミュージックとダンスカルチャーの本質について、深い誤解を生んでいる。EDMはRidiculous(愚か)で信憑性のない人々によって作られた、愚かな音楽だ。(@Vice)

この主張自体は至極真っ当で、現在も進行中の現象を如実に表しており、共感できる部分があります。が、ここに個人攻撃とも言える、アグレッシヴなディスを混ぜ込んでいます。

「Aviciiが体調不良で緊急入院した時、看護師にひどい対応をした。超人気EDM DJたちの異常なスター気取りには本当に腹が立つ」

「Steve AokiはDJ中にしょっちゅう曲を止めて、ステージ上を跳ねまわり、『これが俺の新曲!来週発売だ!』と言って次の曲をかけていた。お前はDJじゃない、ギャラをもらいすぎの、才能のないクソ野郎だ」

名指しでAviciiさんとSteve Aokiさんを批判。批判の対象が音楽と関係ありません、曲やミックスの内容を批判すればいいのに。

他の部分が大変良いだけに、このとんちかんなパートの存在が全体の品格(本人が大事だと説いている)を損なっているような…。

Viceは後日、Laidback Lukeさんという方による反論テクストを掲載【3】しており、それによると「EDMは立派な文化です」という内容。

また彼はAviciiさんやSteve Aokiさんとお友達で、どちらもナイスガイだし、仕事に対して熱心な、才能あふれる人たちだと擁護しています。

Steve Aokiさんはもともとお金持ちの家の出身なので、お金のためにDJする必要がなく、元バンドマンのパフォーマーということを知らないと、彼のステージングが理解できないかもね、とのこと。またセスさん執筆記事のコメント欄に

「去年のLifeフェスで、セス・トロクスラーが90分間ステージで何もせず、2万ユーロ稼いでいたのを見なければ、この記事に賛同していた。彼が酷評しているひどいEDM DJたちよりも、彼のほうが努力が足りない。」

という書き込みがありました。2013年、アイルランドのLifeというフェスで、セスさんがDJらしいテクニカルなMixをほとんどせず、テキトーなプレイリストを流していたことを指しているそうです。これは手厳しい批判。

かけている音楽がハウスかテクノかEDMかという前に、人様からお金をもらうプロのDJとして、いかがなものか、と。

同じ年の11月、この指摘を裏付ける事件が勃発。

2014年8月

「ここでプレイしたいDJは1000人いるんだ」「俺たちはその1000人じゃないけどね」(@Burning Man)

ロボット・ハートのスタッフに言われたセリフに、セスさんとCraig Richardsさんが返した言葉です。この発言のいきさつは、本サイト「バーニングマンでDJする方法」をご覧ください。セスさんが怒って仕事放棄したために、DiploさんとSkrillexさんという、これまたEDM稼ぎ頭のDJがとばっちりを受けるハメになりました。

つい数か月前のViceで「ダンス・フェスの9割がクソ」と言い、本来のダンスカルチャーの多様性を体現する数少ないすばらしいフェスとして、バーニングマンを挙げていました。

アナタ5月にバーニングマン大好きって書いてましたよ?どうして8月には「そうじゃない」になるの?

この急激で真逆の態度は、どうやらバーニングマンのロボット・ハートのスタッフが、かなり威圧的な態度を取ったことが原因にあったようです。(※2014年のバーンは8月25日~9月1日の開催)

普段クラブで好き勝手しているセスさんからしてみたら、友達いっぱい連れてきて何が悪いんじゃいと思ったようですが、過酷な砂漠で超高額サウンドシステムを長年管理・運用しているベテランスタッフは、ルールに従わないヤツを問答無用でブロックしました。

ライブ系の裏方スタッフ(舞台監督、設営、音響、照明など)は軍隊のように厳密な指示系統に基づいて仕事する、思いっきり体育会系人種。規則に従わず事故るとリアルに人が死ぬ可能性があるので、厳格なのは仕方ありません。

人数制限があったのなら、スタッフの指示に従わず逆切れしたセスさんに非があります。一緒にいたJamie Jonesさんは大人対応、DJしてから帰りました。

この事件には相当カチンと来たようで、2011年からバーニングマンに出演していたにも関わらず、突然ディスりはじめます。

怒ったというよりも、2012年にRAの年間Best DJに選ばれ、バーニングも数年出て、そのあたりの客層へのアピールは十分獲得したので、ギャラの出ない仕事を切った、という見方もできそうです(2018年には本人も「ギャラはゼロ」と発言)。

2014年11月

あんな不愉快なクソ野郎どもに、付き合っているヒマはない(@Mixmag)

「クソ野郎ども」は、ロボット・ハートの人たちのことです。これはPulse Radioのインタビューでの発言をMixmagが報じたもの【4】。同じインタビューでは、直前の10月にAmsterdam Dance Event(ADE)のキーノートで語った「EDMとアンダーグラウンドは別物」という主張を、さらに掘り下げています。

俺たちのシーンは完全に別物で、これからも別々であるべきだ。コミュニティも、最終的な目的もまったく違うのだから。(@Mixmag)

EDMとアンダーグラウンド・ダンスミュージックは根本的に別モノだから一緒にするな、と言っています。EDMブームがなかったら、90分のテキトーDJで2万ユーロ(前述のコメント欄の話)稼ぐことは不可能です。

一緒にされたくなかったら、キャパ200以下の個人オーナーのクラブにだけ出てください。EDMブームで膨らんだダンスミュージック市場の恩恵を受けている人が言うことではありません。

清廉潔白な音楽至上主義を掲げつつ、自分だけセレブ対応を求め、気に入らなければ仕事を放棄。ダブル・スタンダードどころか、トリプルやフォース・スタンダードの領域。

2015年10月

よく政治家を殺す空想をするんだ(@DMY)

この時期はオバマさんが大統領でデモクラッツが政権を取っていたのですが「邪悪なリパブリカンを排除するために、優秀な暗殺者が必要」と発言。

Mix CD発売のタイミング、インタビュアーがロンドンの彼の自宅を訪れる冒頭からはじまるインタビュー【5】の最後の質問ですが、もうアメリカに住んでいませんし、デモクラッツ政権下でここまでリパブリカンを叩く必要もありません。

そもそもインタビュアーの質問は「もし死刑囚になったら、罪状は何で、最後の食事は何にしますか?」という、Last Meal(最後の食事)を絡めたお遊び質問(英語圏ではクラシックな質問)なのに、罪状として政治家の暗殺を挙げています。

キルとかマーダーとか、アメリカ人でもドン引き。さすがにデモクラッツの多い音楽界や音楽ファンの間でさえ、この発言はエクストリームだと批判を浴びました。

ちなみにLast Mealは、それ専門のYouTubeチャンネルもあるぐらい有名な質問で、長い間、バイブルのLast Supper(最後の晩餐)が由来と思っていたのですが、それよりもっと前の古代ギリシャやローマ帝国で、死刑囚に豪華な食事を出していたのが起源だそうです。

2018年5月

本当の問題は、プラグ&プレイや、今のオリガルヒ的な消費のあり方。そういう人たちがイビサにもバーニングマンにも来て、体験そのものを変えてしまう(@IMS Ibiza)

イビサで毎年開かれる業界カンファレンス、International Music Summit(IMS)のパネル討論『Black Rock City x Ibiza』での発言【7】。

お金持ちが大金を払って、冷房付きRVやプライベート・シェフ完備の高級キャンプを用意させる「プラグ&プレイ」について問われ、Pachaは今やVIP席がダンスフロアより大きい、ロボット・ハートのような場所ではVIP以外はバスに乗れない、と富裕層文化を批判しています。

んんんっ?でもアナタ、同じパネルで「去年はプラグ&プレイのキャンプに泊まった」って自分で言ってましたよね?友達のキャンプだからって豪華なキャンプの恩恵に与っておいて、そんなこと言う資格、あるんですか?

ちなみに同じパネルで、バーニングマンのギャラは「ゼロ」だとも語っています。やはりギャラの出ない仕事だったようです。

2019年7月

かつて自由で気ままだったイビサを、UshuaïaやHï Ibizaが高級化し、ラスヴェガスのような場所にしようと計画している。客層まで変わってしまった。(@Billboard)

DC-10のCircolocoで10年レジデントを務め、新しくLivestreamのプロジェクトを始めることになった時のインタビュー【6】。いかに自分がやっているパーティが、正統派なダンスミュージックをやっているかを主張しています。

Ushuaïa、Hï Ibiza、Playa Soleil、そして2025年オープンしたUNVRSは、いずれもフランス人のYann Pissenem(ヤン・ピセナム)率いるThe Night League(ナイト・リーグ)の系列で、地元イビサの名家Matutes(マトゥテス)家と組んで運営されています。

この人はDJ MagのTop100 Clubsのランキングに入ることに固執しており、アグレッシヴな広告展開で上位を独占。2026年はUNVRSが初登場1位でした。

つまりセスおじさんは、DC-10(スペイン人のLara兄弟が創業)はナイト・リーグ系列とは違うと訴えていますが、イビサのスケジュールをチェックする人ならわかるのが、セスさんは頻繁にHï Ibizaにも出演しているということ。

このインタビューではDC-10のオーナーにリップサービスしつつ、オレはアンチハイプなアンダーグラウンドDJなのだと言いながら、一方で普通にライヴァルクラブにも出演しています。

UshuaïaもHï IbizaもUNVRSも、チャラいEDMばっかりかかっているナンパ箱、ではありません。

世界中から旬の若いDJを呼んできて、レジェンドたちと組み合わせ「ラグジュアリーかつ本格派」のイメージが保てるように、ブッキングマネージャーが調整していることは、ラインナップを見れば明らかです。

1万人収容のクラブ、UNVRS(ユニヴァース)

ナイト・リーグ系はVIPサーヴィスの料金が高く、お金持ち観光客向けのビジネスに力を入れています。

1つのグループがイビサの大箱ビジネスで圧倒的なシェアを握っている状態は異常で、これはこれで問題ですが、そっちからも収入を得ているセスおじさんに何か言う資格はありません。

ちなみにセスさんはTop100 DJランキングに大反対しており、自分には絶対投票しないようファンに呼び掛けています。これ、ランキング批判を自分の宣伝に利用しています。

有名DJが大枚叩いてランキングのために広告展開するのを批判しておいて、自らのSNSのトラフィック数を無料ゲット。

2025年10月

手伝ってくれたら、時給10ユーロあげます(@インスタ)

集中豪雨で水浸しになり、多くの住居が床上浸水の被害を受けたイビサ。

セスさんのスタジオも水没し、インスタにて地元住民に対し12,000枚にも及ぶ貴重なレコードの救出と清掃を手伝ってほしいと呼びかけ、時給10ユーロを提示【8】。

大切なレコードが水に浸かったのは、本人にとっても大災難です。

時給を明記する時点で、ボランティアを募っているわけではないので、真っ当なオファーな気もします(日本円にしたら時給1770円です)が、この投稿に批判が集まります。

1回のギグで高額のギャラを稼ぐ人気DJであるにもかかわらず、地元住民に最低賃金に毛が生えた程度の時給で、自身の貴重なコレクションを救出するための重労働をさせようとしている、という反応が寄せられました【9】。

イビサはスペイン圏内で最も生活費の高いエリアのひとつ。外国人DJや外国人観光客が大勢つめかけたおかげで、何もかもが観光客価格になり、本土とはかけ離れた物価になって、レントはいまだ上がり続ける一方。時給10ユーロでは到底生活できません。

富裕層の消費文化を批判しつつ、自分は高額ギャラを稼ぎ、いざ困った時は低賃金で他人に手伝わせようとする態度に、クラバーがツッコミを入れたようです。「コイツありえない」と思いながら、多くの人がインスタを見るので、結局セスさんが勝ち。

以上、セスおじさんの迷語録、笑っていただけましたでしょうか。

炎上も含めてセスさんの芸風。言っていることには一理あることも多いので、DJとしてのプレイと発言は分けて楽しむのが正解かもしれません。

文中、お下品な表現があり申し訳ありません。セスさん本人はCuntsとかAssholesとかFuckinとかShitとか、いろんな単語を使い分けていますが、日本語にするとだいたい全部「クソ野郎」です。日本語には英語ほど罵倒語のバリエーションがないので、うまく訳し分けられません。日本人に生まれてヨカッタ。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次