NYのクラブに関する法律が刷新中 & Pacha NYC 再オープン

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2024年6月より施行の新法律により、NY商業地でのナイトクラブ営業が合法になりました。その改正に基づき、今年6月にはPacha NYCがブルックリンにて再始動。2026年1月よりNYC市長が新しい人になり、州知事はクラブに関する新法案を提案中。さらにNYが変わりそうなこのタイミングで、簡単ながら概略をお知らせします。

NYのクラブに関する法律が刷新中

1.法律改正

90年代のジュリアーニ時代、キャバレー法によりナイトクラブがどんどんつぶされ、911以降には有名クラブが全部なくなったNYC。活躍していたDJやプロモーターは活動の場をマイアミやヨーロッパに移さざるを得なくなったのは周知の事実。

キャバレー法は、パブリックな場所でのダンスを禁止。ダンスフロアを作るには「キャバレーライセンス」が必要で、特定の商業ゾーン(全体の20%程度)にしか適用されなかったため、ほとんどのクラブはそのゾーン外にあり、ジュリアーニ主導でNYPDにより強制的にシャットダウンされました。

2017年、キャバレー法撤廃に向け、Dance Liberation Networkを組織したJohn Barclay(ジョン・バークレイ)、Frankie Decaiza Hutchinson(フランキー・デカイザ・ハッティソン)、Rafael Espinal(ラファエル・エスピナル)らによる「LET NY DANCE」運動が発足。またDefected RecordsやRAが「We Dance As One」「Right to Dance」といったキャンペーンを展開します。

Mayor de Blasio Signs Legislation to Repeal the Cabaret Law

2017年、デブラシオ市長がキャバレー法を廃止する法案に署名。91年間のダンス禁止措置は終焉を迎えます。しかしゾーニング規制により、クラブ営業したいバーやレストランの大多数は、まだイリーガルな状態でした。

2024年6月6日、ニューヨーク市議会が「City of Yes for Economic Opportunity(経済的機会のためのイエス・シティ)」を可決。このゾーニング改正により、NYCはダンス行為の規制から解放され、レストラン、バー、クラブなど場所を問わず、すべての商業地区でダンスが許可されるようになりました。

※今も人数制限や消防法など、地域住民に迷惑をかけず、安全に運営するための厳しい規制があるため、どこでも勝手にクラブ営業をやっていいわけではありません。


New York City Nightlife Guide | 24 hours on Myrtle-Broadway

Bossa Nova Civic ClubのオーナーJohn Barclayによるブルックリンガイド

Sam Divine Pop Up at Joe’s Pizza, Brooklyn NY

有名ピザショップでのDJ、以前はイリーガルでした

2. Pacha NYC 再オープン

10年前まで、ハドソンリバー付近のSound Factory跡地にあったPacha NYC。Avant Gardnerというブルックリンの会社が開発・運営していた巨大アウトドア・ライブ施設Brooklyn Mirageが破産し、昨年、Pacha運営元であるFIVE Holdingsがマネジメント権を買い取って、今年6月よりPacha NYCとしてオープンすることになりました。

つまり2005年から2016年まで、いわゆるフランチャイズ営業していたPacha NYCがあったことと、破産したBrooklyn MirageをFIVE Holdingsが後を継いだこと、二重の意味で”再”オープンです。

この新生Pacha NYCは、前述のゾーニング改革により合法的に実現したものですが、実はBrooklyn Mirageが破産したのも、このゾーニング改革で大規模な改築をしないと営業し続けられなかったことによる負債が原因。FIVE Holdingsは新しい法令を遵守するために多額の改築費を投じています。

140 Stuart Ave – Brooklyn Mirage Under Construction. Photo by Alec Meeker for Bushwick Daily
Photo by Scott Enman
The lot at 140 Stewart Avenue. (Photo by Scott Enman)

アウトドアの①Pacha Outdoor Stageはキャパシティが5300人。インドアの②Great Hallが3000人、もうひとつのインドア➂Kings Hallが500~800人。①~➂まとめて1ブロックまるごと占拠しているPacha NYCコンプレックス、合計8000人超えの大規模クラブになります。

また、普段スタッフ用に使われる予定の④Brooklyn Hallという、➂と似たようなキャパの建物も敷地内にあり、イベント内容によっては④もオープンになります。

場所はイースト・ウィリアムスバーグ。といっても、ブッシュウィックとリッジウッドに近く、数ブロック先はもうクイーンズ。最寄り駅はL線のJefferson St。
リカーライセンスをめぐり地域住民が抗議活動を展開。ライセンスが取れなくてもオープン予定で進んでいます。

FIVE Holdingsは本社がドバイにある、高級ホテルや不動産を手掛ける企業で、2023年にPachaを買収。インド系の Kabir Mulchandani(カビール・ムルチャンダニ)が現在のCEOで、傘下となったPacha Groupは同じくインド系ドバイ在住のAloki Batra(アロキ・バトラ)が運営しています。現在発表されているPacha NYCのスケジュールは以下。

  • 6月12日(土)13日(日)Rampa(Keinemusik)& More(チケット情報はTBA)
  • 6月20日(土)Michael Bibi(チケット120ドル~、ソールドアウト)
  • 6月21日(日)Black Coffee(チケット120ドル~、ソールドアウト)
  • 6月26日(金)Masters at Work(チケット現在50ドル)
  • 6月27日(土)Planet Pride(Pride開催中の週末、外国人ヘッドライナー+ローカルDJ)
  • 7月3日(金)Vintage Culture(チケット現在90ドル)

これを見て、人選がおかしいことに気づきませんか? MAW以外はNY在住ではなく、アメリカ人ですらありません。12日と13日は主に地域住民やプレスへのお披露目パーティで、グランドオープニングはMichael Bibi(イギリス)、Black Coffee(南アフリカ)。

Michel Bibiは19日(金)バルセロナで公演があるので、それが終わったらプライヴェート・ジェットに乗ってNYに来ます。Black CoffeeはHï Ibizaの土曜レジデントですので、20日(土)イビサが終わったらプライヴェート・ジェットに乗ってNYに来ます。

プライヴェート・ジェットはチャーターなので、コマーシャルの運航便のように待機や乗り換えが必要がなく、乗る人にとっては時短で便利ですが、その高いチャーター代がチケット料金に転嫁されるうえ、無駄にCO2を排出するので、まったくエコではありません。

彼らがメインのアウトドアステージでDJしている間、併設のインドアではロンドンや南アフリカのDJなど、メインDJと関係のあるDJがプレイする予定。プライヴェート便ではないかもしれませんが、ほとんどが飛行機に乗ってやってくることが見込まれます。飛行機に乗らずとも、チャリンコやメトロで来れるDJがわんさか近所にいるというのに。

つまりこのPacha NYCは、Pacha Groupがまとめて契約した人気DJが、世界中のクラブを巡業する先のひとつ。NYという、ナイトクラブと地元DJが栄華を誇った場所でありながら、地球の裏側から外国人DJを連れてきて、その飛行機代や滞在費を全部乗せて、アリーナ級の高額チケットを売りつける箱(というか半野外フェス)です。

NYの住民や、NYのDJのためのクラブではありません。1晩120ドル払ってもいいと思っている、おサイフのヒモがゆるい観光客のためのクラブです。大富豪ヘッドライナーDJと、ドバイの本社、プライヴェート・ジェットの会社が儲かります。ブルックリンでがんばっている小箱やローカルDJは、お客さんを取られるだけで、何の恩恵もありません。

フェスのヘッドライナーが、地域のクラブカルチャーを破壊していることは今後別の側面からレポート予定ですが、そのヘッドライナーがNYで毎週末、ミニフェス規模のパーティで稼ぐのがPacha NYC。本当にクラブカルチャーの存続を願うなら、前述のJohn BarclayによるNYCガイド動画に出てくるようなクラブに行った方が、ブルックリン・コミュニティに有益です。

MAWやPrideは、NYで営業したいFIVE Holdingsのリップサービス。法律改正に尽力した人々は当然ながらPacha NYCを歓迎していませんので、その懐柔作戦です。NYのDJもブックしますよ、チケットはワーキングクラスでも買える価格です、だから行政や地域住民やプロモーターのみなさま、営業の邪魔しないでくださいね、というわけです。

そしてFIVE Holdingsがこの場所の権利を買い、改装を急ピッチで進め、スケジュールを公開しているのには理由があります。6月13日から、NYでWORLD CUPがスタートするからです。サッカー観戦のために数千ドルを飛行機やスタジアムチケットやホテル代に費やしている人たちにとって、120ドルのクラブ代など安い雑費。RampaやMichael BibiやVintage Cultureのブッキングは、この時期にドイツ人やイギリス人やブラジル人のサッカーファンが大量にNYに滞在していることを見込んだものです。

サウンドシステムは以下。

  • ①Pacha Outdoor Stage(Cap5300):d&b audiotechnik GSL/KSL series
  • ②The Great Hall(Cap3000):d&b audiotechnik
  • ➂The Kings Hall(Cap500~800):KV2 Audio

Brooklyn Mirage時代は、①にKV2 Audio(チェコ)の世界最大VHD5.0 を吊っていましたが、これだと近隣住民に迷惑がかかる恐れがあるため、d&b audiotechnik(ドイツ)の床置きシステムに差し替えたとのこと。

3. 知事と市長が交代

歴代リベラルで、デモクラッツが強いブルー・ステイトNY。

NY州の知事は、イタリア系二世政治家アンドリュー・クオモのスキャンダルを経て、初女性知事であるアイルランド系Kathy Hochul(キャシー・ホークル)が2021年より務めています。

NYCの市長は、リパブリカン”クラブ処刑人”ジュリアーニの後、911で評価の高かったブルームバーグ、あまり人気のなかったデブラシオ、スキャンダルで急速に支持率が低迷したエリック・アダムスを経て、2026年1月1日より、ウガンダ生まれインド系ムスリムのZohran Kwame Mamdani(ゾーラン・クワメ・マムダニ)氏の任期がスタート。

※広大なNY State(州)の代表が知事で、その端っこにある5boroughsのNY City(市)の代表が市長です。

デブラシオがキャバレー法を撤廃、アダムスがゾーニングを刷新。キャシー・ホークル女史とマムダニ氏も、引き続き、クラブカルチャーに寛容な路線を取っています。

キャシー・ホークル知事は今年に入り「Dancing by Default」法を提案。現在は調整期で、今年9月スタートを目標としています。このリカーライセンスに関する法案が最終決定されれば、レストランでのダンスを事実上禁止していた州の規則は、正式に廃止されることになります。

マムダニ氏が推し進めているCity of Yes for Economic Opportunityは、もともとスモール・ビジネスやホーム・ビジネスのオーナーを支援するプログラム。NYCのダイバーシティとサステナビリティを発展させ、コミュニティのボトムアップを図る意図で、ナイトクラブもその対象となりました。

「City of Yes for Economic Opportunity」

以上です。PachaはNYの次にアジア進出を狙っていますが、香港かマカオではないかと言われており、日本に来る気配はありません。でもPachaでなくとも、もしこのビジネスモデルが日本に来て、ローカルでがんばっている日本人オーナーのクラブや日本人DJが駆逐されてしまっては大変困ります。

こんな小さい極東の島国に、そんなことは起こりえないと思いますか?

今年白馬で開催されていた冬フェスは、チケットが非常に高かったのですが、オーストラリアの旅行会社が企画しており、オーストラリア人のスキー/スノボ客を目当てとしたフェスでした。スキー場やホテルなど地場産業にも多少のおこぼれ売上があったかもしれませんが、基本はオーストラリアの会社が儲かる仕組み。ラーメン一杯数千円のニセコを目指し、次は白馬がターゲット。

日本に来る観光客目当ての外資企業が、クラブに矛先を向ける日は、そう遠くないかもしれません。

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