Joe T. Vannelli(ジョー・T・ヴァネリ)
スウィートでポジティブ、エモーショナルな歌声が、ロンドンのMinistry of Sound、リヴァプールのCream、イビサのSpaceやPacha、そして芝浦Goldのピークタイムを飾った「Sweetest Day of May(スウィーテスト・デイ・オブ・メイ)」。
5月になると聴きたくなる、このハッピーハウスアンセムを作ったプロデューサーは、そして歌っている女性は、一体誰なのでしょうか。
イタリア半島の長靴のヒールの内側、風光明媚なタラントに、1951年、Joe T. Vannelli(ジョー・T・ヴァネリ)ことGiuseppe Troccoli(ジュゼッペ・トロコリ)は生まれました。
’77年、ミラノ初の民間ラジオ局でラジオパーソナリティとして音楽キャリアをスタート。1984年コンピレーションアルバム「Mixtime 1」をEMIイタリアよりリリース。
QueenからDiana Ross、Never Ending Storyまで、ヒット曲をメドレーのようにMixしたこのアルバムは好評を博し、その後10年間、同じシリーズのアルバムリリースが続きます。
’89年、ジョーは自身のスタジオ「J.T. Company」をミラノにてスタート。’90年、JT Company名義にて「Don’t Deal With Us」をリリース。
Mr.Leeのヒップハウス「Get Busy(Hitman’s House Mix)」、Lyn Collins「Rock Me Again*6」、Korg M1ライブラリーの「Universe」をサンプリングした、ピアノが印象的なハウストラックで、レコーディングアーティストとしてデビューを飾ります。
JT Company – Don’t Deal With Us(Club Version)(1990)
’91年、自身の名義にて「Phase Out」を発表。後半にピアノが入ってくるものの、全体的にテクノ調に仕上げたプロダクション。
’93年、レコードレーベル「Dream Beat」を設立。同時に「Overnite EP Volume 1」をリリース。ボーカルはほとんど入っていないものの、ピアノやシンセがメロディアスでキャッチーなリフを奏でるトラック群が4曲入ったEP。
Joe T. Vannelli – Don’t Let Go(1994)
続けて「Overnite EP Vol.2」の後、女性シンガーCsilla(チーラ)をfeat.した「Play With The Voice」をリリース。この曲が、Nervous(ナーヴァス)よりM.A.W.のMix Ver.を加えた形でアメリカにてリリースされ、ヒットします。
翌年、NervousのサブレーベルSorted(ソーテッド)より、Paul Van Dyke(ポール・ヴァン・ダイク)のRemixを加えた企画盤「Germany Vs. USA」もリリース。
Joe T. Vannelli – Play With The Voice(MAW In Your Face Mix)(1994)
翌年より、同Csillaを起用したヴォーカルもののトラックを継続的にリリース。当時流行っていた、BPMのかなり速いトランス系テクノのトラックが続きます。
’95年、ついに「Sweetest Day of May」をDream Beatよりリリース。HarembeeことJanice Robinson(ジャニス・ロビンソン)を起用した女性ボーカルハウスの大人気曲。
自身のレーベルからリリースのオリジナルVer.は、コーラス&ブリッジの構成は後に有名になるVer.と似ているものの、ピアノがなく、オルガンとシンセが主体のシンプルなトラック。
Joe T. Vannelli – Sweetest Day of May(Joe T Vannelli Gospel Mix)(1995)
ヴォーカリストのジャニス・ロビンソンは、New Jersey出身のアメリカ人女性シンガー。バプテスト教会の牧師を父に持つ彼女は、父の教会で聖歌隊のリードシンガーを務め、自然とゴスペルを学びます。
’90年、ドイツ人プロデューサー2人+女性ヴォーカルPenny FordのSnap!というグループがヒップハウスの曲「The Power」を世界的にヒットさせ、ワールドツアーを敢行。自らのキャリアを確立するため、ジャニスはそのツアーにライブ・ヴォーカリストとして加わることにします。
そのツアー中、ヨーロッパからさまざまなプロジェクトのオファーがあり、イタリアのミラノへ移住。Robin.Sの「Show Me Love」を歌ったオーディションを経て、イタリア人プロデューサー2人組のプロジェクト「Livin’ Joy(リヴィン・ジョイ)」にヴォーカリストとして加入。そのリヴィン・ジョイが’94年に出した「Dreamer(ドリーマー)」が大ヒットします。
この「ドリーマー」はハウス・クラシックとして有名ですが、英語圏のリスナーにはリリックが印象深いことでも長年人気のある曲。この歌詞は、プロデューサーからピアノのデモトラックを手渡されて聴いていた彼女が、電車の中で思いついたということで、作詞も彼女自身が手掛けています。
Livin’ Joy – Dreamer(1994)
つまり、このゴスペル・クワイア出身でRobin.Sが大好きな、ハウスを英語で歌える、アメリカ人女性ヴォーカリストが、たまたまこの時期にミラノに住んでいて、「Sweetest~」を歌ってもらえた、ということになります。
ジャニス・ロビンソンは、リヴィン・ジョイのメンバーとして’96年にも「Don’t Stop Movin’」がヒット。その後もStonebridge(ストーンブリッジ)やJunior Vasquez(ジュニア・ヴァスケス)とのコラボ、David Morales(デヴィッド・モラレス)と共同作のシングルを数枚リリースするなど、ハウス・プロデューサーから愛されるシンガー。
2018年、50歳でふたりの娘がいる彼女は、イギリスの有名なタレント発掘番組に突如出演。現在はスコットランド在住で、彼女のクリエイティブ人生を辿る伝記映画の企画が進んでいるとのこと。
The X Factor UK 2018 S15E01
「Sweetest Day of May」も、ジャニスが作詞を手掛けています。5月はイタリア語で「Maggio(マッジョ)」、春から夏に移り変わるタイミングで、バラが咲き乱れ、母の日を盛大に祝い、結婚式が一番多い月。イビサを始めとした夏のクラブがオープンするのも5月です。
アメリカでは「Sweetest Day」は10月で、恋人や家族にキャンディやバラを贈る、いわば第二のバレンタインデーのような日。この「大切な人のことを思い出し感謝する日」と地中海の初夏のムードを混ぜ合わせ、普遍的なラブソングでありながら、楽しかった過去を思い出させるような、ノスタルジックなリリックです。
「Sweetest Day of May」はヨーロッパではPositiva、アメリカではTribal Americaがライセンスし新Remixにてリリース。一番有名なものはGreed’s Euphorik Vocal MixというVer.。
これはイギリス人プロデューサーGreed(グリード)がRemixした、ピアノ+コーラス合唱が入るドラマティックな展開のもので、アップリフティングなバージョン。
ドイツ人プロデューサーデュオの「Knee Deep」によるRemixもよく聴かれており、こちらはベースラインが特徴的で、夏のビーチが似合うグルーヴィなバージョン。
GreedによるRemix Ver.がMinistry of SoundやGoldでピークタイム・アンセムとなり、世界的にヒットしたことで、ジョーは国際的に知名度が急上昇し、イタリア国外でのDJ活動が増えていきます。
’99年、スペインのイビザ島Pachaにて、イタリア人DJとして初めてDJ Awardsを受賞。他にもAmnesia 、Ministry of Sound、Cream、Wallなど世界中の著名クラブに出演。Love Parade、Tomorrow Landなどフェスティバルにも招聘されています。
2000年秋より、ハウスミュージックを中心としたイベント「Supalova」を開始。夏や年末のホリデーシーズンに行われるこのスペシャルイベントは、DJ以外にもさまざまなミュージシャンやダンサーが集うスタイルで好評を博し、コンピレーションCDも大ヒット。イベントとCD Mix共に、現在でも続いています。
Supalova The Movie
90年代後半からはRemix依頼も殺到し、Giorgio Moroder、New Order、Timbaland and Missy Elliot、Thelma Houston、Danny Tenaglia、David GuettaなどのRemixワークを担当。
また1stリリースの「Don’t Deal With Us」の冒頭など、何曲かに入っている、彼自身のバリトンボイスの声が好評で、Lotto、Fiat、Kappa、Levi’s、AxeなどのTVCMにてナレーションを担当しています。
2020年には、イタリア・ミラノに、スタジオやDJスクールを含む複合施設「Sound Faktory」を設立。パンデミック中は、イタリア全土を64カ所めぐるライブDJシリーズ「Joe T. Vannelli Live on Tour」を配信。2020年には自伝『God Is A DJ』を出版、同名アルバムをリリース。
Sound Faktory Creative & Music Hub in MIlan
めまぐるしく移り変わるヨーロッパ・クラブシーンの中で、ミラノをベースに確実な地位を築いてきたJoe T.Vannelli。今は若いDJと新しいレーベルを立ち上げたり、新しいイベントを開催するなど、後続の育成にも余念がありません。
80年代はイタロディスコ、アンビエントのイタロハウスが有名だったイタリア。’89年Black Box「Ride on Time」の世界的ヒットにより、徐々にイタロハウス=ソウルフルな女性ヴォーカルを特徴とするようになり、ジャニスの「Dreamer」とジョーの「Sweetest Day of May」がそれを決定づけました。
現在はラテンテックで頭角を表す若いイタリア人プロデューサーが続々と登場。今後も、彼につぐ次世代のイタロハウスDJやプロデューサーが出てくることを期待しています。
Joe T. Vannelliのおすすめ曲
Joe T. Vannelli Project feat. Vlynn – Do You Feel What I’m Feeling(1992)
Joe T. Vannelli Project – Sweetest Day of May(Greed’s Euphorik Vocal Mix)(1995)
Joe T. Vannelli Project – Sensation(2025)
※Loleatta Holloway「Love Sensation」をサンプリングした1997年発売曲の2025年リマスタリング版
Joe T. VannelliのおすすめDJ
※ロックダウン中、イタリア全土で撮影され全64回まで続いたDJ Liveシリーズの初回。自宅屋上で撮られたもの。

