Grant Nelson(グラント・ネルソン)
「あの頃は、本当に楽しかったよ。午前中はハウスのトラックを作り、午後にはハッピーハードコアのトラック、夜にはジャングルかドラムンベースのトラックを作っていた。同時に複数の仕事をしていて、ロンドンで本当にいろんな事が起こっていたんだ。」
UKガラージ誕生前夜を思い出し、その無節操な多作ぶりを楽しげに語る巨漢のオジサン。
彼こそが「UKガラージの生みの親」と必ず定冠詞のつく、イギリス・ロンドン在住のDJ兼プロデューサーGrant Nelson(グラント・ネルソン)。スピードガラージや2ステップで名の知れたこのDJを、何となく敬遠している人もいるかもしれません。
聴かず嫌いはもったいない、グラントのハウスのプロダクションは至極正統派で、M.A.W.やMike Delgadoのファンなら馴染みのある、バウンシーでキレのいいリズム隊と、グルーヴィなベースラインに乗せた、軽快なキーボードやエモーショナルなピアノリフがメイン。Remixも絶対にハズさない仕事人で、膨大な量のゲストワークが存在します。
彼のRemixだけで、2時間でも3時間でもDJできるほどリリース量が多い上に、別名義を多用するため、その全貌を紹介することは困難ですが、一曲でも多く聴けば、その音の親しみやすさに、さらなる興味を覚えることでしょう。
グラント・ネルソンは1971年、英国エセックス生まれ。学生時代はお笑い担当で、人を楽しませることが大好きだった彼は、9歳のころ、音響工学に目覚めます。
両親のステレオ・システムから、2台のHi-Fiスピーカーを別々に組み立て、マイク内蔵のカセットデッキの前に、スピーカーを並べて配置して録音したり、祖父の古ぼけたオープンリールのテープレコーダーを引っ張り出したり…。
機材と音のマジックに取りつかれた彼は、様々なレコードから取ってきた一部やスクラッチを組み合わせ、新しい音をつくることに夢中になります。
13歳の誕生日に、KORGモノ・ポリのシンセサイザーを買い与えられたグラントは、独学でそれを弾けるようになり、学校の友達とバンドを結成。バンドの晴れ舞台は、全校生徒の前でPet Shop BoysやJody Watleyのカヴァーを数曲披露した時。彼はこの演奏体験が「とても気に入った」といいます。
16歳となったグラントは、すでに70年代のディスコ、80年代のソウルや初期ハウスのレコードをコレクションしており、それをDJで聴かせるために、自らパーティを企画。個人のパーティやイベントにも招聘されるなど、地元の人気者になっていきます。
1990年の夏の間、ジャージー島の有名クラブでDJの仕事をして帰ってきたグラントは、機材を集め、遊び感覚でアルバム1枚ぶんのトラック群をつくります。それを聴いた彼女から、レコードレーベルに送るよう説得され、彼は渋々そのデモテープを、テクノレーベルであるKickin’ Recordsに送りました。
数日後に連絡が来て、すぐに契約。’91年、Wishdokta(ウィッシュドクター)名義にてシングル「Evil Surrounds Us」をリリース。4トラックのテープレコーダーと安い機材で作った、この奇妙キテレツな、スクラップのマッシュアップ・ハードコア・テクノは、すぐにチャート入りし、カルト的な人気を獲得します。
Wishdokta – Evil Surrounds Us(1991)
その後もハッピー・ハードコア界隈で何枚か12inchをリリース。ダンスシーンで頭角を現すうち、Kiss FMの創始者の一人でありDJのGeorge Power(ジョージ・パワー)と出会い、ハウスミュージックのレーベル「Nice ‘n’ Ripe Records」を始動することになります。
1993年、ファースト12inch「Intergration – Volume One」をリリース。’96年にレーベルを離脱するまで、グラントはスタジオに閉じこもり、ひたすら制作の毎日を送ります。
24hr Experience – Jazz From The Heart(1994)
1995年、長年のパートナーであるKate Rossと共に、ハウスとUKガラージのレーベル「Swing City Records」をスタート。
1997年、グラントはBump & Flex名義にて「Long Time Coming」リリース、全英ダンスチャート3位を記録。この後もBump & Flexとして、合計5回のチャート入りを果たします。
James Brown – Funk On Ah Roll(Bump & Flex Mix)(1999)※JBの2Step Mix
同時期、バーミンガム出身のジャマイカ移民二世、Dubtronix(ダブトロニクス)名義でジャングルのDJ兼プロデューサーをしていたJeremy Sylvester(ジェレミー・シルヴェスター)が、ロンドンに移住。Nice ‘N’ Ripeで新しいアーティストを探していたグラントは、すぐにジェレミーとの契約に至ります。
グラントとジェレミーは2ステップのオリジネイターと言われ、Nice ‘N’ Ripeは2ステップを含むUKガラージのレーベルとして有名になります。また、少しずつ名前が認められ、アメリカからRemixの依頼も来るようになります。
Frankie Knuckles feat. Adeva – Walkin(Grant Nelson s Divine Gospel Remix)(1999)
1999年、グラントがプロデュースとRemixを担当した、イギリス発の多国籍バンドNegrocanによる「Cada Vez」を、自身のSwing City Recordsよりリリース。このラテンジャズハウスは世界中で大ヒットし、各国チャートで1位を獲得すると共に、合計200万枚を売り上げます。
Negrocan – Cada Vez (Grant Nelson Carnival Club Mix)(1999)
2006年には Solu Musicの、KimBleeをfeat.した「Fade」のグラントRemixがヒット。これは’01年に、フランソワ・ケヴォーキアンのWave Musicからオリジナルが出ており、KimBleeはBody & Soul のシンガーとして出演していたヴォーカリスト。
Solu Music feat. Kimblee – Fade(2001)※Waveから出たSoluのオリジナルバージョン
Solu MusicはNZ出身NY在住の2人組ユニットで、この初回リリース時は売れなかったものの、Ministry of Soundがライセンスを買い、グラントにRemixを依頼してリリースしたところ、ヒットします。
この新Remix曲はMinistryによる販促ビデオがありますが、出演している水着の方々はもちろんKimさんではありません。あたかも「KimBlee」という名の4人組アイドルグループが歌っているように見えます。このビデオには当のKimさんもSoluの2人もグラントも、さすがにケヴォーキアンも、ビックリしたのではないでしょうか。
Solu Music feat. Kimblee – Fade(2006)
2013年、ドキュメンタリー映画「Rewind 4Ever」に出演。UKガラージの登場と発展をインタビューから検証するこの映画で、グラントは多くの仲間と共に、そのシーンのパイオニアとして語っています。
Rewind 4Ever : The History of UK Garage(Official Trailer)
2019年からはインターネットラジオ「Housecall」をスタート。ハウスミュージックやUKガラージを聴く人が、90年代から相変わらず、古い曲ばかり聴いていることを嘆いたグラントが、パイレーツラジオのディレクターの協力のもとに立ち上げた、ハウス専門のラジオ局です。
若手アーティストのフックアップと、もちろん古い曲も一緒にかけるこの「Housecall」は、スタートから徐々に認知度が広がり、何回もシステムをアップデートする必要に迫られるほどリスナーが増加、現在でも月に2回を放送する人気番組。
グラント本人が、エセックス&ロンドンらしいブリティシュ・アクセントでディスクジョッキーとして曲を紹介してくれる、アッパーでゴキゲンなプログラムです。
以前はAtari 1040STにてCubaseを使用していたものの、現在はMac ProにLogic Proの組み合わせで、レコーディングをすべてその中で完結する方法で、楽曲制作をしているとのこと。
「いつも同じサウンド、同じ曲、同じアレンジだと、音楽は衰退してしまう。だから常に進化していなくてはいけないんだ」。グラント・ネルソンは、今までのリリースから得た膨大な知識をなるべく忘れるようにして、毎回新作に取り組んでいるといいます。
全校生徒の前でPet Shop Boysを演奏した日から、世界中からRemix依頼がくる有名プロデューサーになるまで、彼はいつも少しいたずらっぽく、そして人を楽しませることが好きな、エンターテイナーであり続けているのでしょう。
Grant Nelsonのおすすめ曲
Grant Nelson & Richard Purser – Purser Sensation One(1991)
Jamiroquai – Too Young To Die (Grant Nelson Remix)(1992)
Indo – R U Sleeping(Grant Nelson Mix)(1996)
Grant Nelson & Brian Tappert present The Soul City Experience – Let’s Do It (Retroactive Mix)(1997)
Solu Music Feat. Kimblee – Fade(Grant Nelson Big Room Remix)(2006)
Grant Nelson – Spellbound(2007)

