DJミックスのトランジションにおける、ボリュームフェーダーの操作はミックスにおいて非常に重要な要素です。
しかし普段、DJは次の曲のフェーダーを上げる時、あまり意識せずに感覚でフェーダーを上げることが多いと思います。
意外かもしれませんが、よくある直線的なフェーダー操作は、踊れるミックスという観点から言えば、あまり有効ではないかもしれません。
今回は、かなりマニアックで実験的要素が強いですが、あえてそのブラックボックスとなっているミックス時のボリューム操作について検証してみようと思います。
検証用のDAWはAbleton Liveを使用し、課題曲として以下の曲を使用しました。
Aの曲 Tobtok – Prelude
Bの曲 Disclosure – Moonlight
比較を分かりやすくするため、EQ、フィルターなどは一切使用せず、ボリュームのオートメーションのみを行い、AとBの曲が8小節で切り替わるように操作しています。なお、楽曲のキーが合いすぎると違いが分かりづらくなるため、ここではキーに関しては考慮しておりません。
ダンスフロアでのミックスを念頭に置いた踊れるボリューム操作ということにフォーカスを当てていますので、是非ダンスしながら聴き比べてみてください。(椅子に座りながら静的に聴くと違った印象になるかもしれません。)
線的ボリューム操作
直線的に上げる
DJミキサーのフェーダーを直線的に上げるのは一般的な方法です。DJがミキサーを使って普通にフェーダーを上げていくと、多少の差はあっても、だいたいは直線的な操作になると思います。この方法は確かにスムーズかもしれませんが、踊るという観点でいうとまだブラッシュアップ出来る余地がありそうです。
直線的バリエーション
こちらは緩やかに立ち上がり、少しずつ傾斜が変化するバリエーションです。直線的なボリュームの上げ方と多少の違いはありますが、大きな差と言えるほどではありません。
階段的ボリューム操作
階段的に上げる(オンビート)
「ドン、ドン、ドン、ドン」というオンビート(表拍)のキックに合わせて、一拍ごとに階段状にボリュームを上げていく方法です。キックによるマスキング効果(?)によって、直線的なボリュームの上げ方よりも踊りやすい印象です。
階段的に上げる(オフビート)
オフビート(裏拍)のハイハットに合わせて、4拍ごとに階段状にボリュームを上げていく方法です。オンビートとの比較のために動画をアップしましたが、個人的にはあまり良い印象ではありません。オンビートでボリュームを上げていく方が踊れると感じます。
階段的に上げる(指数関数的)
オンビートに合わせて、4拍ごとに階段状にボリュームを上げていき、なおかつ、終点に向かって指数関数的にボリュームが大きくなるように操作をしています。よりスムーズに繋がっていますが、序盤はあまりミックス感がなく、後半部分でのショートミックス的なアプローチになってしまうため、若干今回の趣旨から外れるかもしれません。
曲のアクセントに合わせたボリューム操作
ここでお話しするアクセントとは音の強さのことではなく、音のノリ(グルーヴ)におけるタメと言いますか、一小節内における音の軸となる拍のことを指しています。
Aの曲Tobtok – Preludeは、一拍目にアクセントがあります。
Bの曲Disclosure – Moonlightは、二拍目にアクセントがあります。
これを念頭に置いて頂く必要があります。
一拍目のアクセントに合わせて上げる
先に流れている曲のアクセントに合わせてボリュームを上げることで、スムーズさではやや劣りますが、よりダンサブルなミックスを実現しています。
Aの曲Tobtok – Preludeは一拍目のキックにアクセントがあるので、小節ごとの一拍目に合わせてボリュームを上げています。
ここでは8小節でのミックスだったので、一小節ごとの上げ幅が大きく、少し精細さに欠けていますが、16小節以上などのロングミックス時においては、一小節ごとのボリュームの上げ幅が小さくなりますので、よりスムーズかつダンサブルな結果をもたらすことが想像して頂けると思います。
曲のアクセントに合わせたボリューム操作の注意点として、先に流れている曲のアクセントに合わせてボリュームを上げることが大事だということです。
AとBの曲を入れ替えて一拍目のアクセントに合わせて上げる
試しにAとBの曲を入れ替えて、B→Aとミックスして、同じように一拍目に合わせてボリュームを上げてみると、先ほどと印象が変わり、踊りづらくなっていることが感じられます。
これは、先に流れているBの曲Disclosure – Moonlightが二拍目のクラップにアクセントがある曲のため、一拍目のキックに合わせてボリュームを上げると、身体が感じているアクセントの位置と認知的な不協和が起こるためのです。
そう考えると、曲のアクセントに合わせたボリューム操作というのはやや上級者向けの方法かもしれません。なぜなら、曲のアクセントの位置を間違えて把握してしまうと、有効とは言えない結果に繋がるからです。
AとBの曲を入れ替えて二拍目のアクセントに合わせて上げる
では、B→Aとミックスして、先に流れているBの曲Disclosure – Moonlightのアクセントがある二拍目に合わせてボリュームを上げてみるとどうでしょうか?
一拍目に合わせてボリュームを上げた場合と比べて、スムーズで踊れるミックスになっているのが分かります。
Bの曲Disclosure – Moonlightがミックスが完了するギリギリまで身体のリズム感を支配しているため、二拍目のアクセントに合わせて次の曲のボリュームを上げることで、擬似的なリズムを作り出し協和させているためです。
まとめ
ボリューム操作の方法だけでも結構印象が変わることに驚かれたのではないでしょうか?
踊れるミックスという観点から言えば、直線的なフェーダー操作以外にも有効な方法があり、個人的には細かく刻んだフェーダー操作を行うよりもオンビートに合わせて操作するほうが、より踊れるミックスであると感じました。
また、少し難易度の上がる方法となりますが、アクセントの位置に合わせてボリュームを上げるということは非常に有効な方法だと思います。
ただし、ここで述べたことは、ダンスにフォーカスを当てたボリューム操作であるため、ビートレスな曲や、ビートが強く感じられない曲では、より直線的なフェーダー操作の方が有効な可能性が高いということを付け加えておきます。
また、人によって感じ方はそれぞれですので、全く逆の印象を持った方がいても不思議ではありません。自分のオリジナルなボリューム操作方法を研究してみてはいかがでしょうか?