Claptone(クラップトーン)
時間と場所を間違えて生まれてきた男、Claptone(クラップトーン)。くちばしのついた金色のマスクと白手袋で神出鬼没するステリアスな存在は、ディープでメロディアスなハウスミュージックで世界を踊らせています。
実際この名前は、ひとりの男ではなく、ふたり(+アルファ?)によるコレクティブ・プロジェクト名。そのふざけた外見とは裏腹に、シリアスなキャリアと戦略が背景にあります。どのようにしてこのクラップトーンができたのでしょうか。
メンバーの一人は、Christoph Göttsch(クリストフ・ゴッチュ)。ドイツ北方のバルト海に面するシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州、東ホルシュタイン郡のマレンタという街に生まれます。
クリストフは90年代から音楽活動をスタート、97年「Gautsch(ガウチュ)」名義で「Wenn Sie Will / König Des Po」という7inchにてレコードデビュー。
その後も彼自身のラップを中心とした、ダンスポップやシンセポップ、ヒップホップのようなサウンドのシングル8枚とアルバム2枚を、2001年までリリース。
Gautsch – König Des Pop(1997)
2000年、デュッセルドルフのレーベルUnique Records(ユニーク・レコーズ)と契約し、「Malente(マレンテ)」名義でのリリースを開始。マレンテは彼の生まれ故郷の街の名前で、湖を持つ風光明媚な観光地として知られています。
Malente – Fertig(2000)
当初はファンクやブレイクビーツ、ポップスをマッシュアップしたような内容だったマレンテ名義は、2005年ごろから徐々にハウスやテックハウスへと移行していき、2012年まで続きます。シングル15枚以上、アルバム4枚を発表。
ドイツでは2004年、ベルリンに「Berghain / Panorama Bar(ベルグハイン/パノラマバー)」がオープン。この頃にはすでにジャーマン・テクノが全盛期だったことは想像に難くありません。
従来ダンスポップやディスコなど、ポップでキャッチーなテイストが好きだったクリストフが、それをハウスやテクノと融合していく過程が「マレンテ」のリリース過程に見られます。
Malente – I Like It(2008)
この「マレンテ」のプロダクションで「Malente & Dex」というコラボレーションが2008年に誕生。DexことDaniel Brems(ダニエル・ブレームス)こそ、もう一人のクラップトーンです。
ダニエルは’93年生まれ、ベルリンを中心に活躍するプロデューサー兼ソングライター。2007年、Markus Lange + Daniel Dexter「ShootingTigers」にてレコードデビュー。ダニエル・デクスター名義でテクノやハウスのレコードを数枚リリース。
彼も、個人名義リリースのサンプリングの中に、ヒップホップネタで有名なジャズ、ファンク、ディスコの曲が見られ、ふたりとも非常に似た趣味を持ちながら、当時ドイツで主流だったテクノを制作していたことがうかがい知れます。
Daniel Dexter – Chicago Flower(2011)
ダニエルに関しては、個人名で400以上の作品にクレジットされており、メロディと歌詞、両方でソングライティングができることが特長。Remixerとしても、Elton John(エルトン・ジョン)、Dua Lipa(デュア・リパ)、Gorillaz(ゴリラズ)などを手掛け、プロフェッショナルなスタジオワークができる人であることがわかっています。
クラップトーンのメロディアスな曲と歌詞は、ダニエルによるものですが、DJもダニエルが担当している時があり、ファンによってはマスクをつけていても、DJスタイルによってクリストフかダニエル、どちらか見分けられるとのこと。
クラップトーンの結成は2010~2011年ごろだったと言われていますが、その詳細は明かされていません。
「クラップトーン」としての最初のリリースは2011年、Exploitedよりデジタルリリースの「She Loves You」。3rdリリースの「Cream」がアンダーグラウンドヒット。
Claptone – Cream(2011)
2013年、シンガーのJawことJonathan Illel(ジョナサン・イレル)をfeat.した「No Eyes」をリリース。フェンダーローズが奏でる悲しげなメロディと、群衆の中の孤独を描く歌詞により、2013年を代表するヒット曲となります。
Claptone feat. Jaws – No Eyes(2013)
以降もヴォーカルを中心とした、メロディアスなディープハウスのトラックをリリースし、ヒット曲を擁するアルバムも3枚制作。クラップトーンの名前がダンスシーンに知れ渡り、同時にその特異なDJスタイルでも話題になっていきます。
「クラップトーン」のコンセプトのひとつとして、アーティスト個々ではなく「音」そのものにフォーカスしたコレクティブ・プロジェクトということで計画され、複数の都市で複数のクラブで、同じ日に出現するというミステリアスな戦略があります。
同じ日に3カ所で出演していたというファンの証言があり、クリストファーとダニエル以外に、ふたりが信頼するDJを雇って、同じ覆面を被ってプレイさせていた可能性が高く、今もなお詳細がわかりません。
2025年12月31日のニューイヤー・イブのイベントでも、チリとメキシコ、同時にクラップトーンが出演しており、今でもそのコンセプトは変わらず続いています。
そして彼らのヴィジュアル戦略として、DJ時は顔をマスクで覆うというものがあります。この鳥のくちばしがついたマスクは「ペスト医師のマスク」と呼ばれています。
もともと17世紀にペストが大流行した時、医師がくちばし部分にバラ、ミント、ミルラなどの芳香性のハーブを詰め、病気の原因と考えられていた悪臭を濾過し、感染を防ぐためのマスクだった(実際にはあまり効果はなかった)とのこと。
「クラップトーン」は、DJ出演時、このマスクと白い手袋をしており、森から現れた神話上の「異次元の獣」をイメージ。幻想的で神話的なイメージと、カーニバルを思わせる凝った演出のDJが好評を博しています。
また2016年には「クラプトン・イモータル」をスタート。これはふたりのマスク姿の人物がステージ上で共演する特別なライブショー形式で、ふたつの場所に同時に存在するというアイデアを遊び心たっぷりに表現したもの。
そんな奇抜なDJスタイルとは裏腹に、クラップトーンのリリースするトラックはずっと変わっていません。
彼らのメロディアスなヴォーカルハウスは、2010年代に主流となるJamie Jones(ジェイミー・ジョーンズ)のHot Creation(ホット・クリエイション)や、Topic(トピック)に代表されるメランコリーハウスの原型となっていながらも、90年代のハウスを思わせるアンダーグラウンドでオーセンティックなテイスト。
派手なドロップやマッシブなサブウーファーの鳴りが主流の現在のダンスミュージックの中で、クラップトーンの出すシンプルな曲が売れ続けているのは、ミステリアスなヴィジュアル戦略とは関係なく、彼らが普遍的なメロディと歌詞を届けているからに違いありません。
クラップトーンが、テクノ全盛期であるはずの2010年のドイツで生まれ、2026年になった今でも新譜を出し続け、DJで世界的な人気を保っているのは、オーセンティックなハウスミュージックファンにとって、ありがたいことと言えるでしょう。
Claptoneのおすすめ曲
Claptone – United(2015)
Claptone – Hearbeat(2015)
Gregory Porter – Liquid Spirit(Claptone Remix)(2015)
Claptone feat. Nathan Nicholson – Under The Moon(2018)
Claptone & Mylo – Drop The Pressure(2020)

