ここ10年来の流行りらしい「B2B」のDJセット、つまりBack To Backでふたり一緒(もしくは3人一緒)にDJするスタイル。
ディスコ時代からの「レジデントDJ」という呼び方は、一晩その人がずっとDJする(というのを毎週やっている)という意味。ひとりで10時間でも15時間でも終わるまでやっていました。「俺様ソロ公演」の「俺様ワールド」がレジデントです。
最低でも8時間ひとりでDJできない人は、レジデントの仕事ができません。ハウスの場合、超ロングセットをひとりでやる、というのが常識でした。
いつの間に、ハウスの伝統「俺様ソロ公演」スタイルをブチ壊す、B2Bなんてセットが流行っているのか、調べてみました。
B2B DJ って何ですか?
François K b2b David Depino b2b Joey Llanos @ NYC
ラリー・レヴァン71歳の誕生日記念の放送。ケヴォーキアン(中央/71歳)はアルメニア系フランス人、David Depino(デヴィッド・デピーノ/左/71歳)はイタリア移民2世、Joey Llanos(ジョーイ・リャノス/右/65歳)はフロンクス生まれのプエルトリカン。
おじいちゃんチームの B2B2B、というよりもケヴォーキアンのDJを、あとのふたりは見てるだけですが、このおじいちゃんたちがいなかったら、若い人たちがDJだけで喰っていくなんて世の中は絶対になかったんだぞ、ということで、ありがたく拝見しましょう。
Joe Claussell b2b Danny Krivit b2b Francois K. @ London
元祖 B2B2B の「Body & Soul」3人組。この組み合わせで1996年から30年やってます。
B&Sオフィシャルでは録画していないようで、各国のファンの方が個人で撮った映像がYoutubeに上がっています。こちらはDJ Magが撮ったもの。毎回映像を残しておいてほしいところです。
※今年2026年の6月7日(日)、豊洲キラナガーデンで「Body & Soul」開催決定、チケットが発売されています。
History of B2B~B2Bの歴史と変遷
さて上記、B2Bのイメージとは何だか違う気がするふたつのセットでしたが、B2Bという言葉そのものは古くからありました。
70年代のディスコ時代、メインのDJが曲をプレイしている間に、もう一人のアシスタントDJ的な人が、次にかける曲を、ブースのうしろに置いてあるレコード箱から探していました。ふたりは背中あわせなので、これで「Back To Back」という言葉が生まれたと言われています。
パラダイス・ガラージの場合、ラリーがメインで、レコード探し係や、休憩時に交代してDJするのに、前述のジョーイ・リャノスが担当することが多かったそうです。
初期のディスコのレコードは7inchでリリースされることも多く、7inchの場合、3分半ぐらいしか収録時間がないので、トイレに行くヒマすらないですし、ガラージは土曜日15時間といった具合で超・長時間営業していたので、どんなにオープンリールを駆使しても、ラリーひとりでこなすのは無理でした。


もうひとつの起源説がヒップホップです。DJ Kool HercやGrandmaster Flashのブロックパーティ時代、メインのDJがプレイしている間、もうひとりのDJが次のレコードを探す係をして、疲れたらメインとアシストを交代していました。
当時のヒップホップは、DJがスター(MCはおまけ的な盛り上げ係か、DJが兼任)で、2枚のレコードのブレイク部分を交互に延々とかけ続けるという、非常に忙しくて集中力を要する作業をやり続ける必要がありました。サンプラーがない時代なので、人力ループ。
このターンテーブル2台を2人でシェアしながらビートを続けるタッグチーム方式の際に、Back To Backという言葉が使われたそうです。

ⒸPhotograph by Mr Henry Chalfant

ヒップホップのB2B動画を探したところ、全然ありません。サンプリングパッドなど機材の進化や、ラッパーがメインアクトになったことで、ヒップホップにはB2Bがなくなり、ターンテーブルのスキルはバトルDJに継承されたようです。
バトルDJと似ているのですが、去年から、ハードテクノやトランスで「Face to Face」、DJセット2つが対面に配置され、ふたりのDJがBPM150前後でMixしあうF2Fセットが流行りつつあります。
B2Bに話を戻すと、90年代に入り、イギリス・マンスフィールドにてSasha(サーシャ)とJohn Digweed(ジョン・ディグウィード)が出会い、一緒にパーティをスタート。’94年に「Renaissance: The Mix Collection」という共同ミックスCDをリリースし、ほぼ同時にB2BでのDJもスタート。
その後、ロンドンのMinistry Of Sound(ミニストリー・オブ・サウンド)でも、このサーシャ&ディグウィードのコンビによるB2Bがスタート。
90年代後半には、Basement Jaxx(ベースメント・ジャックス)やDaft Punk(ダフトパンク)などふたり組のハウスDJプロデューサーが登場し、ふたりがブースに並んで立っていても違和感がなくなっていたのかもしれません。


2010年、Boiler Room(ボイラー・ルーム)がU Streamでスタート。当初はローカルのアンダーグラウンドなDJのプレイを、ロンドンのスタジオからWebcamでライブストリーミングするコンセプトで、チャット機能がついていました。
この際に、Hessle AudioとYoung Turksなど、各レーベルやコレクティブが複数DJを起用するB2Bをスタート。同年Youtubeもスタートします。
翌年にはドイツからの放送もはじまり、Dixon b2b Âme、Scuba b2b George Fitzgeraldなどが放映され、B2Bがグローバルに定着。U Streamでの配信はストップし、Vimeoがスタート。
DJを至近距離から撮影するボイラー・ルームのスタイルはDJ Mix Showの定番フォーマットになると共に、B2Bというプレイもアイコニックなスタイルとして認識されるようになりました。
つまりパソコンや携帯でDJを観るようになってからB2Bが流行った、ということです。


© Dan Wilton/Red Bull Media House
元来DJブースは担当DJ以外立ち入り禁止の「聖域」でした。DJが何をどうやっているのか、お客さんが知る術はありません。しかもブースが高い位置にあったり、上階にあって、DJの頭ぐらいしか見えないようなクラブもありました。
放映専用に至近距離から撮影された映像だとDJの顔も手元も見えますし、ふたり並んでいたら、さらに画面が映えるというわけです。
CDJの使用も大きく関係しています。VinylセットでのB2Bも一応は可能ですが、相当上手な人でも、ピッチをあわせているうちに、曲が終わってしまう可能性があります。ターンテーブル+ミキサーだけだと、誤魔化しようがありません。
Body & Soulはレコード時代からB2B2Bですが、これは3人が全部のレコードを全員知っているからこそできることです。サーシャ&ディグウィードの場合はプログレッシブ・ハウスなので、1曲が8~10分と長い上に、起伏がなくブレイクが少ないので、知らない曲でも超ロングミックスが可能でした。
以下は、Web時代のB2B DJ Mixフォーマットにのっとった映像の、B2Bセットの紹介です。
Armand Van Helden b2b Jackmaster @ London
Armand Van Helden(アーマンド・ヴァン・ヘルデン)と、Jackmaster(ジャック・マスター)ことJack Revill(ジャック・レヴィル)のB2B、約2時間。
Boiler RoomベストB2Bのひとつと言われている回。大好きなアメリカンヒーローAVHと一緒にDJできるということでジャックさんは感無量だったそうです。
2015年、DJ SneakがAVHのファッションに対して「ギャングのつもりかよ、ダサっ笑」と発言し、ジャックさんが「敬意がない」と猛反撃、AVHを擁護するというSNSビーフがありました。AVHのファッションは90年代初頭のヒップホップですが、コレがカッコ良かった時代に育って、その趣味のままオッサンになっただけなので、大目に見てやってください。おたくの大将の緑モヒカンも相当イカレてます。
ジャックさんが2024年、イビサで亡くなってしまったため、この組み合わせはもう観られないということで貴重な映像。
Dennis Ferrer b2b Honeyluv @ Malta
現在ヨーロッパで大成功中のDennis Ferrer(デニス・フェラー)と、売り込み中のフィメールDJ Honeyluv(ハニーラブ)さんのB2B、約90分。
ハニーラブさんは、アメリカ・OH・クリーヴランド出身、本名Taylor Character(タイラー・キャラクター)。元カレッジバスケの選手で、海軍所属という異色の経歴の持ち主。
20分ごろに登場する男性DJはNasser Baker(ナセル・ベイカー)さん。カリフォルニア生まれのNZ育ち、プエルトリカンとアフリカンアメリカンのハーフ。デニスのレーベルObjektivity(オブジェクティヴィティ)に所属しており、この時はゲスト出演。
つまりデニス・フェラーがメンターで、教え子ふたりと一緒にDJしている、という図。デニスは後ほど出てくるマルティネス兄弟もシェルター時代から育てています。
Disclosure b2b Mochakk @ Paris
不思議な場所でDJしている、Discloser(ディスクロージャー)とMochakk(モシャキ)さんのB2B、2時間半。
ディスクロージャーはイギリス出身のGuy(ガイ)とHoward(ハワード)によるLawrence(ローレンス)兄弟のUKガラージ/ハウスデュオ。このフェスではガイさんのみ出演。
モシャキさんは本名Pedro Maia(ペドロ・マイア)。ブラジル・サンパウロ州ソロカバ出身で、スケーター兼ハウス/テックDJ。黒髪の方がペドロさんです。
場所は、パリ北部にあるル・ブルジュ空港。オルリーやロワシーよりも古い空港で、現在はプライヴェート・ジェットやビジネス機のみ発着、航空ショー開催などで利用されていて、一般の飛行機は来ないそうです。その空港の一部を使ったのが、このフランス国立航空宇宙博物館の駐機場「A380 Stage」。ドローンが映えるスケール感。
バンピーなスウィングビート、グルーヴィーなベースライン、90年代後半のロンドンな音がします。この日はガイさんの誕生日だったそうで、場所といい、選曲といい、マジックアワーの消えていく光量といい、大変雰囲気の良いB2B。
この映像を撮っているCercleは、派手なロケーションでのDJ Mix映像で大人気となったフランスのコレクティブ。去年より、新機軸の「Cercle Odyssey」というインドアDJプロジェクトに大金を投じているものの、視聴数が伸びません。この数年で似たようなコンテンツが急増し差別化が難しく、かといってインドアDJは視聴者が見たいものではなかったということで、試練の時を迎えています。
Barry Can’t Swim b2b Salute @ Sydney
Barry Can’t Swim(バリー・キャント・スウィム)さんと、Salute(サルート)さんのB2B、3時間。2025年のコーチェラでは2manydjsと一緒に4人でB2B2B2Bしたそうです。それこそToo Many DJs。
バリー・キャント・スウィムさんは本名Joshua Spence Mainnie(ジョシュア・スペンス・メイニー)、エディンバラ出身のスコティッシュDJ。一度聞いたら忘れられない名前ですが、バリーというのは、実在する本当に泳げない友達の名前で、単に軽いジョークとしてDJネームにしただけなのに、こんなに有名になってしまって自分自身が一番驚いた、ということです。
サルートさんは本名Felix Nyajo(フェリックス・ナイジョ)。ナイジェリアンの両親のもとにオーストリアのウィーンで生まれ、現在はマンチェスターをベースに活動中。
ふたりとも昨年末、Ninja Tuneと契約、つまりレーベルメイトのB2B。従来のNinja Tuneのイメージと対極の派手派手ハッピーチューン。ふたり楽しそうに飛び跳ねていて、モラレスやジュニアなど、見た目からして怖そうな筋肉ムキムキのオッサンが険しい顔でDJしていた時代とは隔世の感があります。
Marco Carola b2b Jamie Jones @ Düsseldorf
Marco Carola(マルコ・キャローラ)さんと、Jamie Jones(ジェイミー・ジョーンズ)さんのB2B、約4時間。
マルコさんはイタリア人で、レーベルMusic Onオーナー。イビサDC10で最も人気のあるイベント「Circoloco(チルコロコ)」のメインDJを長年務めたイタロテクノ/テックハウスの影の功労者。ジェイミーさんはカーディフ出身のウェールズ人で、レーベルHot Creationのオーナー(現在LA在住)。泣く子も黙るテックハウスの売れっ子DJ兼レーベルオーナー、最強タッグ。
先ほどのディスコふたり組によるキラキラDJと対照的に、パーカスとベースにフォーカスしたローリング・テックで、淡々黙々としています。ヴォーカル・サンプル程度は乗っているものの全体的に音数が少なく、ドロップも抜け感重視。「踊るのにメロディなんかいらねえ!」と言っているようなDJ。
B2Bと何の関係もないのですが、扇子(せんす)を持っている人が何人か映っています。マイアミやイビサのDJ動画でも扇子を持ってる人をよく見かけるのですが、外国のクラブで扇子が流行っているそうです。パチパチ鳴らすのがカッコいいんだとか。ガイジンちゃんたち、扇子は楽器ではありません、あおぐだけにしてください。
Diplo b2b Green Velvet @ Brooklyn
Diplo(ディプロ)さんとGreen Velvet(グリーン・ベルベット)のB2B、1時間。
ディプロさんはレゲエの人というイメージが強いのですが、ジャンルを問わないマルチジャンル・プロデューサー。DJでは派手で壮大なテックハウスが中心。
グリーン・ベルベットことCajmereは出番が少ないです。ほとんどディプロさんしかDJしていないように見えます。ディプロさんは他にもB2Bをやっていますが、いつもこんな感じで、自分の時間だけやたらと長いです。何なんですかこの失礼な人は。カジミア先輩の方が断然業界歴長いんだぞ!!と言いたい。
The Martinez Brothers b2b Loco Dice @ London
The Martines Brothers(マルティネス・ブラザーズ)と、チュニジア系ドイツ人DJのLoco Dice(ロコ・ダイス)によるB2B、4時間もあるのに4M回視聴されている人気の回。
マルティネス・ブラザーズは、パラダイス・ガラージの常連ダンサーだったお父さんが初代マネージャーという、DJ界におけるマイケル・ジャクソンのようなプエルトリカン兄弟。さらにマグレブ系の元ラッパーも足して、3人並ぶとB-BOY三兄弟です。3人ともイビサでのレジデントが長く、実力はお墨付き。
マルティネス兄弟は、ジェイミー・ジョーンズさんとのB2BがいくつかYoutubeに上がっていますが、特に2014年Boiler RoomのB2Bセットが神回と言われています。
Four Tet b2b Fred Again.. b2b Skrillex @ NYC
それぞれ大人気3人のスーパーDJトリオ「Pangbourne House Mafia」による、The Lot RadioのTimes Sq.出張版 B2B2B。これに遭遇したニューヨーカーは超ラッキーだったに違いありません。普段、高額チケットを買わないと見られない人たちが、3人一緒に無料で見られるゲリラPop-Upだったからです。
2025年、DJで一番高額なギャラを取ったのはFred Again..さん、1.3ミリオンドル、1.89憶円。月収や年収ではありません、フェス1回の出演料です。カルヴィン・ハリスを超えました。ウルトラ・ハイ・デマンドながら、スケジュールが空いている時、突然カジュアルな場所にサクっと出演する気前の良さが人気の秘密。
このTSqゲリラライブの時も、2万席が4分で売り切れたMadison Sq. Garden出演がメインで、別の日にブルックリンやマンハッタンの小さいクラブで B2B2B していました。
Roger Sanchez b2b Hugel b2b Claptone @ CDMX
ハイテンションなラテンテック1時間、Roger Sanchez(ロジャー・サンチェス)b2b Hugel(ユーゲル)b2b Claptone(クラップトーン)。
場所がメキシコというのもあって、一番ラテン濃度が高いのはロジャー様、ユーゲルさんも得意なラテンテックで攻めています。クラップトーンさんはあまり出番が廻ってこなくて、主にダンス担当。
ロジャー様はB2Bがお気に入りらしく、いろんな組み合わせの回が上がっています。昔、トッド・テリーと一緒に一回やっているのですが、トッド・テリーはそれ以降、一度も誰ともB2Bしていないので、ロジャー様がイヤだったのか、B2Bがイヤなのか、両方ともキライです。
ユーゲルさんもB2Bが多め。先月新曲でFrench Montanaをfeatするという奇策に出ており、コーチェラにはSnoopも呼んで、間違った方向にセルアウトしている気がしてなりません。
B2B出演が一番多いのはクラップトーンさん。この覆面は中の人がふたり(もしくはそれ以上)いて、一人でやっているDJよりも単純計算で2倍出演できるので、B2Bも多くて当然。この回はDaniel Brems(ダニエル・ブレームス)さんが担当。
さて、いかがだったでしょうか。
当初のサーシャ&ディグウィードのような実験的なケミカル・リアクションを狙うB2Bよりも、プロモーション的なB2Bが多い印象でしたが、それはそれで知らない人のDJを聴くいい機会。オンラインだけでなくフェスでもB2Bが増えており、このトレンドはまだまだ続きそうです。
ただし、やはり単独の「俺様ソロ公演」で数時間聴かないと、そのDJの実力はわかりません。レコード時代から活躍しているDJがB2Bを嫌がるであろう理由も、ここにあると思います。8時間でも12時間でも一人でできるのに、なぜ他人に邪魔されなきゃいけないのか。ギャラも減額になる可能性もあるし。そんなのプロとして許せません。
そもそも「他人のレコードかけてるだけ」なのに、マンキューソやラリー・レヴァンやフランキー・ナックルズの「俺様ワールド」が成立したからこそ、ハウスという音楽がクラブミュージックとして成長しました。「俺様ソロ公演」の「俺様ワールド」こそがハウスの醍醐味であることに変わりはありません。
「仲良しこよしワールド」のB2Bは、ほどほどにしておきましょう。

