Sandy Rivera(サンディ・リヴェラ)
リヴェラというラテン・ネームに聞き覚えがない人でも、Kings Of Tomorrowと言われれば覚えているかもしれない、NY出身のハウス・プロデューサー兼DJ、Sandy Rivera(サンディ・リヴェラ)。
2001年「Finally」がWMCから世界的にヒットし、Defectedからサポートを受け、グルーヴィでジャジーなトラックが得意な彼。今回は意外とキャリアの長いベテラン・プロデューサーを紹介します。
1971年1月18日、NYCのプエルトコ系家系に生まれたサンディは、スパニッシュ・ハーレムとブルックリンで育ち、幼い頃からスパニッシュ・ファンク、初期エレクトロ、ヒップホップや初期ハウスを聴いて育ちます。
とりわけ、パーカッシヴなヒップホップ・ビートがお気に入り。13歳でブロックパーティでDJをスタートし、正式にクラブに入場できる21歳になるよりはるか前から、DJのスキルを学んでいました。
17歳には自宅をクラブに見立てて入場料を徴収するDIYなイベントを企画するなど、早くから独自の活動を展開。
しかし、当時のストリートの若者たちがそうであったように、サンディもトラブルに巻き込まれ、 短期間、刑務所に入る経験をします。
そこから、ストリートの危険で過酷な生活を抜け出し、 真摯に音楽の道を歩むという決意をして、ピアノを勉強しはじめます。
1992年、21歳の時、貯金していたお金でAkai MPC、シンセサイザー、4トラックのテープレコーダーを購入。ヒップホップが好きな彼は、MPCでサンプリング主体のトラックを作るようになります。
同年、いとこのGeorge Rivera(ジョージ・リベラ)などラティーノ友達3人と共にAwesome Foursomeという4人組プロジェクトを結成。NYのインディレーベルよりファーストリリースを果たします。
Awesome Foursome – Right Now(Club Mix)(1992)
サンプリングをつなぎあわせたブレイクビーツに、オリジナルのキーボードをオン。バンバータやEric B. & Rakimの影響が見て取れます。
レコード・デビューの翌年、サンディに最大の好機が訪れます。
彼は「Full Eclipse」というヒップホップ・プロデュース・チームの一員として、のちにスターとなるFat Joe(ファット・ジョー)やBig Pun(ビッグ・パン)、さらにはブレイク直前のThe Fugees(フージーズ)らとスタジオに入り、ストリート仕込みのビーツを量産していました。
この才能に目をつけたのが、ポップス界の巨匠であり、出版ビジネスの重鎮でもあったBurt Bacharach(バート・バカラック)のスカウト陣。
サンディの並外れたプロダクション・センスを見抜いたバカラック氏は、1994年に彼と大型の楽曲出版契約(パブリッシング・ディール)を結び、経済的に全面バックアップします。
ふたりが音楽的に共同制作をすることはなかったものの、この契約で得た莫大な資金によって、サンディはフルタイムのプロデューサーへと完全移行。
スタジオ機材を劇的に進化させ、ロンドンのMN2Sというマネジメント兼ディストリビューターのヘルプにより、自らのレーベルBlackwiz Recordを立ち上げます。
レーベル名の由来はBlack Wizard(黒い魔術師)。ブラック・ミュージックの黒く魔術的なグルーヴとソウルを、より高めて進化させていくという決意が込められています。
そして、自身のメインプロジェクトとなる Kings Of Tomorrow(K.O.T.、K.ings O.f T.omorrowなど)もスタート。
過酷な環境から這い上がろうとする若きプロデューサーの野望を「明日の勝者」と表現し、自らが未来のハウス・シーンを背負って立つことを高らかに宣言していますが、最初はキングを名乗るのが恥ずかしかったのか、省略系などで表記されていました。
レーベル最初のリリースは、K.O.T.名義にて12inch「Blackscatt」「Showcase」。Victor “Snoopy” Calderone(ヴィクター・カルデロン)をA&Rに迎えており、ヒップホップテイストはまったくない、落ち着いたシンセコードと男性スキャットをfeatした、ディープハウスのトラック。
K.O.T. – Showcase(1993)
翌年には Jay “Sinister” Sealée(ジェイ・シニスター・シーレー)との共同作業で、矢継ぎ早に12inchを数枚リリース。
特にヴォーカリストStacey Alexander(ステイシー・アレクサンダー)を起用した「Black, Sinister, Science」がフロアヒット。
K.ings O.f T.omorrow feat. Stacey Alexander – Ego Trip(1994)
ジェイはニュージャージー生まれのアフリカン・アメリカン。ニューアークのハウスシーンを中心に、ソングライティングとボーカルアレンジに造詣が深く、様々なプロデューサーと仕事をしていました。
共通の知人を通して知り合い、クリエイティブ面でお互いが補い合える関係として意気投合。
コンセプト設計やドラム・プログラミングはサンディ、シンセのアレンジやリリックはジェイが担当するという黄金コンビが誕生します。
1995年、サンディ自らの手で別レーベルDeep Visionをスタート。チェルシーの人気クラブShelterも意識し「魂の救済」をダンスフロアに求めるゴスペルライクな女性ヴォーカル・ハウス。
Sabrynaah Pope – Shelter(1995)
1996年「Fade To Black」をリリース。こちらがワシントンDCから登場し世界的な注目を集めていた異才デュオ、 Deep Dishの目に止まり、翌年、彼らのサブレーベルYoshitoshiから自らの新Remixと、ヨーロッパで絶大な支持を集めていたRoger Sanchez(ロジャー・サンチェス)のRemixを加え「Fade II Black」としてリリース。
Kings Of Tomorrow – Fade To Black(Vocal)(1996)
1997年、LA在住で、R&BシンガーBrian McKnight(ブライアン・マクナイト)の妻(当時)であり、ジェイのいとこでもあったJulie McKnight(ジュリー・マクナイト)のデビュー・シングルをプロデュース。

Julie McKnight – Rock Steady(For Those Who Like It Deep Club Vox)(1997)
また、このイギリスのレーベルSlip ‘n’ Slideから過去曲のRemix集も出るなど、ヨーロッパでのプレゼンスが拡大していきます。
それぞれがプロデュースやリミックス、DJ活動で多忙を極めていた2000年のある日のこと。 ニュージャージーのジェイの自宅兼スタジオに「Rock Steady」のヴォーカリスト、ジュリーが訪ねてきます。
ちょうど同じ時、サンディもひょっこり現れ、3人でピザを囲み、ハイネケンを片手に他愛のない話をしながらハングアウトしていたその時、 ジェイがジュリーにふと問いかけます。
「今つくっているトラックがあるんだけど、どうしてもヴォーカルを入れたいんだ。リリックはもう書き上げてあるから、ちょっと歌ってみてくれないかな?」
ジェリーはその場で同意し、たった2テイクで録音を終了。ふたりはK.O.T.初のフルアルバム『It’s In The Lifestyle』に、この曲を入れてリリース。
このアルバムは、ほとんどが過去のヒット曲かそのRemixであり、入手困難な12inchをヨーロッパにてCDリリースをした形でしたが、このジュリーが歌う新曲「Finally」を、とても気に入ったDJがいました。
MAWのLouis Vega(ルイ・ヴェガ)。
彼は、自身の主宰する「Dance Ritual」や世界中のクラブで、この曲の未発表プロモ盤をヘヴィプレイし始めます。
翌2001年、マイアミで開催された世界最大のダンスミュージックの祭典WMC(Winter Music Conference)で、その人気は頂点へ。
名だたるトップDJたちがこぞって「Finally」をプレイし、同年のWMCで「最もフロアをロックした、誰もが探している謎のアンセム」として噂になります。
この熱狂を現場で見ていたのが、当時まだ設立されたばかりの新興レーベルDefected Recordsのボス、Simon Dunmore(サイモン・ダンモア)。
彼はすぐさまサンディとジェイにアプローチし、UKおよびグローバルでのライセンス契約を結んで、シングルリリース。
Kings Of Tomorrow feat. Julie McKnight – Finally(2001)
オリジナル以外に、ルイ・ヴェガによる「Dance Ritual Mix」、Danny Tenaglia(ダニー・テナグリア)によるMixも追加。
「Finally」は全英シングルチャートで24位にチャートインするという、アンダーグラウンドのディープハウスとしては異例のメジャー大ヒットを記録します。
この曲はブリッジのコード変化に特徴があるものの、構成としてはサビにあたるわかりやすいフックが存在しません。
ヒット曲としては非常に珍しい展開ですが、この「爆発寸前でギリギリ踏みとどまる、焦らしの美学(何か足りない感)」こそが、クラウドの渇望感を煽り、フロアを異常なほど盛り上げた最大の要因なのかもしれません。
翌年、ジェイは「Finally」の成功を鑑み、自らのソロ・キャリアを追及するべくKings Of Tomorrowを去る決意をします。ルイ・ヴェガとジェリーと組み、彼自身の最大のヒット曲となる「Diamond life」を発表。
Louie Vega & Jay ‘Sinister’ Séalee feat. Julie McKnight – Diamond Life(2002)
こちらも派手なフックはないものの、ファンキーなカッティング・ギターが加わったルイのディレクションは、「Finally」のサンディによる漆黒でストイックなグルーヴと対極をなしています。
立ち上げたばかりのDefectedにとって、Finallyの成功は大きな成果となり、サンディひとりの名義となったKings Of TomorrowはDefectedの看板アーティストとして、ヨーロッパを中心にDJ活動を広げます。
またRemixの依頼も多数舞い込み、シグネチャーであるBlackwiz MixやK.O.T. Mixを量産。
2010年には、個人名義の集大成として、DJミックス、ミュージックビデオ、アンミックス音源(未ミックスのトラック群)などを詰め込んだ渾身のコンセプトアルバム『The Blackwiz Farm Album』を発表。
現在はテックハウス、ラテン、ジャズまでその音楽的領域を広げ、オールマイティなリミキサーとして最前線で活躍を続けています。
派手な世界ツアーや過度なメディア露出は行わず、スタジオにこもり淡々とクオリティの高い楽曲をドロップし続けるその姿勢は、まさに「音の職人(アルチザン)」。
今後もその手堅く美しいRemixワークを、様々なヴォーカル・ハウスで聴くことができることでしょう。
Sandy Riveraのオススメ曲
Kings Of Tomorrow feat. Haze – Dreams(2004)
Kings Of Tomorrow – 6pm(Sandy’s Blackwiz Remix)(2005)
Kings Of Tomorrow feat. April – Fall For You(Sandy Rivera’s Classic Mix)(2013)
Kings Of Tomorrow feat. Lorenzo Mancillas – Save Me(2025)
Kings Of Tomorrow – Vibes(2026)

