DJやプロデューサーのキャリアを支える新しい番組「DJ & Producer Union」の初回が、Apple Podcasts、Spotify、YouTubeで公開されました。
電子音楽の業界団体Association for Electronic Musicのポッドキャスト「Industry Insider」から生まれた新シリーズです。
初回は、アーティストとブッキングエージェントの関係を取り上げています。
ホストは、Lex Lucaの名で活動するAlex Kenningです。
かつてRadio 1でラジオプロデューサーとして長く働き、現在はDJ・アーティストとして活動しながら、同団体の理事会でアーティスト枠の席に就いています。
ゲストはAnalog AgencyのAlex Montoyaで、会員向けのライブ収録をもとにした約40分の対談です。
Montoyaのキャリアは、2001年ごろにマドリードでパーティーを開く友人たちへアーティストを薦めていたところから始まりました。
スペイン国外のフェスティバルへは行けなかったため、ネットで音楽を掘ってはデータベースにまとめ、知人に紹介する日々だったそうです。
2003〜2004年ごろには地元のアーティストと小さなバーでイベントを始め、その後マドリードのタレントバイヤーのアシスタントとして働くようになります。
当時は連絡手段がメールやファクスしかなく、スペインのプロモーターと海外のエージェントの間には言葉の壁もあったといいます。
海外のエージェントから「スペインでもう1公演見つけて、週末をまとめて回れないか」と頼まれるうちに、自分でエージェンシーを開こうと考え、2009年に独立しました。
現在はパートナーのエージェンシーと合併したAnalogで約60組のアーティストを扱い、Joseph Capriatiのマネジメントも担当しています。
Sónar期間中にLucianoを迎えてバルセロナの駅を借り、告知なしで開いたイベントは、当時YouTubeで話題になりました。
ニューヨークのタイムズスクエアでの大型イベントも、本人が振り返った仕事のひとつです。
対談で最初に強調されたのは、「エージェントは需要を作らない」という点でした。
エージェントの役割は人脈を使って機会を広げることで、実際にブッキングを生む力はアーティスト自身にあると説明しています。
1日の始まりにメールを開くと際限なく対応に追われるため、まず担当アーティストの予定を確認し、新しい音源や映像を求めて、その情報をプロモーターへ届けることから始めるそうです。
プロモーターが求めているのは映像やコンテンツ、新しい曲で、出せる材料がなければ「どこでもいいから出たい」と言われても動きようがないと話します。
メールに使う時間は1日2時間ほどで、残りはプレイリストやSoundCloud、Spotifyでの新人探しと、ブランドを次の段階へ進める方法を考える時間に充てています。
ほかのエージェントを競争相手ではなく仲間と考え、連絡先や手法を教え合っているという話もありました。
では、アーティストはどの段階でエージェントを探せばいいのでしょうか。
Montoyaが見るのは、自力で地元での露出や作品を積み上げてきたかどうかと、何より本人の姿勢です。
未発表曲を200曲抱えていたり、良いレーベルから作品を出していたりしても、姿勢が合わずにエージェンシーを転々とし、最後はゴーストプロデュースに行き着いた例を見てきたといいます。
長い時間がかかる前提で、オープニングの枠や、経費だけが出る出演もこなしながら少しずつ積み上げることが大切だと話しています。
SNSについては、自分自身は気にしないものの、プロモーターから届くのはSpotifyやTikTokの画面写真で、フェスティバルが出演枠と引き換えに最初に求めるのもSpotifyの数字だと明かしました。
年間100本の公演があってSNSがないアーティストなら喜んで迎えると前置きしたうえで、それでも「好き嫌いに関係なく、このゲームには参加するしかない」と語っています。
TikTokのフォロワーが5,000人のベテランが、100万人の若手との差を大手プロモーターに指摘され、自分のチャンネルを始めた例も紹介されました。
Analogには毎週100件ほどの所属希望が届き、最初に確認するのは出演本数だそうです。
エージェンシーの取り分は出演料の10〜15%で、残りの85%はアーティストが受け取ります。
そのため、収入のない段階で「自分に投資するためにギグが必要だ」とエージェントに迫るのは順序が逆だとし、アーティストは自分のブランドに投資する会社だと考えるべきだと話しました。
契約後の最初の半年は、航空券代だけで露出のための公演を組み、エージェンシーは手数料を一切受け取らないこともあるそうです。
対談では、エージェントとマネージャーの違いにも話が及びました。
エージェントはツアーの専門家で、カレンダーが埋まれば仕事はほぼ終わりです。
1月の時点で12月まで予定が埋まり、あとはフライヤーの確認だけという年もあったといいます。
マネージャーはチーム全体をまとめる立場で、リリースやイベントのマーケティング、スポンサー、SNS戦略、チケットの売れ行きまで責任を負う「オーケストラの指揮者」のような存在だと説明しています。
所属にマネージャーは必須ではないものの、出演料の相場について現実的でないアーティストも多く、間に入る人がいた方が話が早いと勧めていました。
最近はプロモーターが素早い返事を求めるため、アーティストがスタジオにこもって2日返信しないだけでオファーが他へ流れることもあるそうです。
Analogが所属アーティストを選ぶ基準は、音楽が自分たちの人脈や所属アーティストに合うかどうかです。
テクノやテックハウスに強いエージェンシーのため、ヒップホップやEDMのアーティストから声がかかっても、商業的な大型イベントへ送り込む力はないと判断して断っているといいます。
新人を見つける経路で最も多いのは、所属アーティストやヘッドライナーからの推薦で、フェスティバルやレジデンシーのプロモーターから名前が挙がることもあります。
3〜4年前はTikTokやInstagramのリールでの拡散が大きく影響した時期もありましたが、今は音楽そのものがより重視されていると話しました。
反対に、すぐに相手にされなくなる行動として挙がったのは、酔ってバックステージに入り込んで音源を渡すことや、IMSやADEのような業界イベントで会話中の相手にしつこく割り込むことです。
自分を「ガレージに止まったフェラーリ」にたとえ、契約すれば億万長者になれると売り込むようなメールも届くそうです。
代わりに勧めているのは、音源のリンクと短い自己紹介を添えたシンプルなメールやInstagramのメッセージで、Montoya自身もできるだけすべてのメールに返信しているといいます。
今のヘッドライナーも5〜10年前は新人で、いずれ引退する以上、エージェンシーにとって次の世代を探すことは欠かせない仕事だという言葉もありました。
理想の所属アーティストは、自分の役割を果たし、問題が起きても冷静に話し合える人です。
緊急でもないのに夜11時に電話をかけてこないなど、相手の時間を尊重できることも条件に挙げています。
逆に、曲を出さず、プロモーターにも会わずに不満だけを言うアーティストとは、大きな収入をもたらすとしても距離を置くようにしているそうです。
アーティストの側から見て避けるべきエージェントについても、具体的な目安が示されました。
まず確かめたいのは、所属アーティストの顔ぶれと実績、そして自分に時間を割いてもらえそうかどうかです。
IMSやADE、マイアミといった業界の集まりに顔を出さず、メールを送るだけのエージェントも勧められないとしています。
プロモーターから「オファーを送って10日たっても最初の返事すら来ない」と苦情が届くようなら、それは大きな危険信号です。
出演料と手数料をすべて受け取り、1か月後にアーティストへ支払うエージェンシーにも注意が必要で、エージェンシーが受け取るのは手数料だけになっているかを確かめるよう勧めています。
最後に、半年以内にエージェントとの契約を目指すアーティストへ向けた3つの助言が語られました。
1つ目は、発信を止めないことです。
週に1時間ほど他のアーティストの投稿を調べ、反応の大きい投稿を参考に1か月分のコンテンツを予定に入れておけば、毎朝何を投稿するか悩まずに済むと話しています。
最後の投稿が6月で止まっているプロフィールも多く、「僕らはテレビのチャンネルのようなもので、1か月同じ画面ならフォローを外す」と、プロモーターの見方を代弁しました。
2つ目は、すべての活動をできるだけ多くの人に届くようにすることです。
例に挙げたのはJoseph Capriatiの新作で、2か月かけてマーケティングを準備したそうです。
プレスリリースや広告に加え、Beatportと話してバナー掲載を取り付け、約30のプレイリストにも売り込んだといいます。
オープニングの出演でもフライヤーを用意してもらい、ゲストリスト5枠をプレゼントする企画を開けば、次にその街へ来るときにはフォロワーが増えているという具体的なアイデアも紹介されました。
3つ目は、我慢強く続けることです。
AwakeningsやSónarなどのフェスティバルに何年も断られ続けたMontoya自身が、のちにそうしたフェスティバルからのオファーを一部のアーティストのために断る立場になった経験を語っています。
エージェントが受け取る返事も9割は「ノー」で、そのたびに止まっていたら20年前に仕事を辞めていたといいます。
他のアーティストを批判するより、コラボレーションを重ねてコミュニティを作ってほしいという言葉で、初回の対談は締めくくられました。

