ハウスミュージックから発展した、イギリス生まれのジャンル、UKガラージ(スピードガラージ/2ステップ/ベースライン)。そこから変異したダブステップとグライム。現在リバイバル中のUKガラージを中心に、歴史と代表曲を3回に分けて紹介します。
パラダイスガラージで流れていたラヴリーなハウスが、ディアスポラのストラグルをラップするハードコアなグライムになるまでの、ストーリー・オブ・ブリット・アンダーグラウンド。
- ①ミニストリー・オブ・サウンド
- ②スピードガラージ
- ➂UK産スピードガラージ
- ④2ステップ
- ⑤UKGアーティストの登場
- ⑥ベースライン
- ⑦ダークガラージ
- ⑧ダブステップ
- ⑨グライム
- ⑩現在進行形のUKG
⑩現在進行形のUKガラージ
常にUKチャートにヒット曲を送り込んでいるUKガラージですが、2020年以降、再燃(ルネッサンス)と言われ、世界的トレンドに踊り出ました。
現在は「New UKG」や「NUKG」と呼ばれ、スピードガラージ、2ステップ、ベースライン、さらにテクノまでを横断・統合した、新しい音へと進化中。ここでは主要アーティストとヒット曲を紹介します。
UK Garage ep.3(UKガラージ特集3)
Sammy Virji(サミー・ヴィルジ)

今年来日を果たし、説明不要のSammy Virgi(サミー・ヴィルジ)。目下UKGで最も注目されている、インド系イギリス人DJ兼プロデューサー、本名Samuel Bashir Virji.(サミュエル・バッシャール・ヴィルジ)。
1996年ロンドン生まれ。12歳の頃からGarage Bandでダブステップを作りはじめ、ミュージシャンであるお父さんにLogicの使い方を教わり、ニューカッスルでの大学生時代はベースラインを制作。2020年ごろからUKGに移行し、UKGルネッサンスの台風の目となります。
彼の特徴はベースライン由来のローリング・ドラムに、2ステップのスキッピーなリズムを乗せたもの。
グライムのラッパーをFeat.した曲もあり、スピードガラージから細分化したすべての歴史的要素を、最新のデジタル・コンプレッション技術で一本に束ねたプロダクションが、彼の代名詞となっています。
Summy Virgi – If U Need It(2023)
Tems, Sammy Virji – Me & U(Sammy Virji Remix)(2023)
Interplanetary Criminal(インタープラネタリー・クリミナル)

1993年マンチェスター生まれ、Zachary “Zach” Bruce(ザカリー・ブルース)によるソロプロジェクト名、インタープラネタリー・クリミナル。
学生時代、イギリス北部のボルトンやリヴァプールで流行った、BPM145〜150前後のハードコア・テクノや「Bounce/Donk(ドンク)」から影響を受けます。
マンチェスターで大学に入学した後、リーズに移住し、有名レコード店 Tribe Recordsに勤務、ローファイ・ハウスに傾倒。2016年よりインタープラネタリー・クリミナルをスタートし、徐々にスピード・ガラージやベースラインへとシフト。この時期はアグレッシヴなアンダーグラウンド・トラックが中心。
2022年、プロデュースしたEliza Rose(エリザ・ローズ)のB.O.T.A. がメジャーシーンで大ヒット、UKチャートNo.1でダブルプラチナを獲得。その一方で、クラブ向けのダークでハードなトラックも手掛け、DJではジャンルを横断してテクニカルなMixスキルを見せる、スーパープロデューサー。
Eliza Rose – B.O.T.A. (Baddest of Them All)(2022)
Gorgon City B2B Interplanetary Criminal
このKINDRED(キンドレッド)という、ロンドンのど真ん中にあるブック&レコードショップ兼ラジオ放送局によるDJ Mix配信は、ローカルでアンダーグラウンドなDJが毎週火曜に登場。ライブMCが入ることもあります。
現在250局以上が稼働し、世界一ラジオ局が密集するグレイター・ロンドンで、Rinse FMがグライム/NUKG広告塔だとしたら、KINDREDは新人発掘の場所。ロンドン美術館やFabricと提携し、物販の資金で運営している100%インディペンデント局。
防犯カメラのような画角ですが、最新のロンドン・アンダーグラウンドシーンを知りたい人はぜひ定期的にチェックしてみてください。
Conducta(コンダクタ)

ナイジェリア出身の両親の元、ブリストルに生まれたConducta(コンダクタ)ことCollins Nemi(コリンズ・ネミ) 。
幼い頃から90年代のR&B、ニュー・ジャック・スウィング、ヒップホップなどを聴いた後、イギリスの伝説的なガラージ・レイヴ「Sun City」や「Garage Nation」の録音テープ、グライムのミックステープを熱心に聴き、ブラック・ブリティッシュ・ダンスミュージックへと傾向。
同じナイジェリアンで尊敬するSkepta(スケプタ) の名前の響きからコンダクタと名付け、音楽キャリアを本格化させるためにブリストルからロンドンへと拠点を移します。
2019年、ラッパーAJ Traceyを起用した「Ladbroke Grove」がイギリス国内でトリプルプラチナムを獲得する歴史的大ヒットを記録。同年、新世代のUKガラージを発信する自身のレーベル「Kiwi Rekords」を立ち上げ、 UKGルネッサンスの基礎を形づくったといってもいいコンダクタ。
現在は新人発掘に力を入れながら、自身ではジャンルにこだわらず、R&Bやジャングルなど縦横無尽にリリース中。
AJ Tracey – Ladbroke Grove(2019)
MPH(エム・ピー・エイチ)

こちらも昨年来日していた、カンタベリー生まれのMPHことMyles Fairbairn(マイルズ・フェアバーン)。MPHはMiles Per Hour、日本でいう時速のこと。
楽曲プロデュース時のコンセプトは超ハイファイ・サイエンス。異常にクリアな音質とポップなコード。クリスタルのようにキラキラなメロディラインとレザーシャープな切れ味のハイハット、極限までクリアにチューニングされたシンセベース、超高解像度の音像分離で、スピードガラージや2ステップを構築。
MPH – One Sixty(2024)
MPHさんがリリースしている、このUKFというレーベルは、若干14歳だったLuke Hood(ルーク・フッド)さんが、大好きなD’n’Bのトラックを紹介するために2009年に作ったYoutubeチャンネル。2012年にはダブステップの爆発的人気を背景に1ミリオンViewを達成。
2010年からコンピのリリースをはじめ、2019年にはレーベルをスタート。ロゴのマルの色でジャンルを分けており、●黄緑色が174BPMのD’n’B、●青色が140BPMのダブステップ、●赤色がUKGなどそれ以外のベース・ミュージック。3つとも大人気チャンネル&レーベルで毎週新曲が出ています。
●紫色はDJ Mixで、●緑色はライブストリーム。現在はPilotというサブレーベルもあり、メディア・コングロマリットのAEI Musicと提携。
以下は10周年記念映像、故郷サマセット、フロームの麦畑にて、トラクターに乗って登場する創業者ルークさん。いかにもイギリスらしい田舎町の素朴なお兄さんですが、ベース界の超重要人物。
James Blake(ジェイムス・ブレイク)さんが流行っていた2010年頃まで、D’n’B、ベースライン、ダークガラージ、ダブステップ、グライムなどサブ・ベースに特化した音楽をひっくるめてベース・ミュージックやUKベースと呼んでいましたが、2020年頃からUKGが盛り返してきて、今はあまりベースと言わなくなりつつあります。
Bakey(ベイキー)

ロンドン生まれ、現在リーズをベースに活動しているBakey(ベイキー)ことFreddie Baker(フレディ・ベイカー)。幼い頃からジャズ、ソウル、ファンクなどブラック・ミュージックに親しみ、Stevie WonderやErykah Baduが好きだったという彼。
学生時代、UKラップとグライムにハマり、Logicで自作トラックを制作、Sound Cloudに投稿するようになります。17歳の時、BNC Javenの「Cookie」が初ヒット。大学就業のためにロンドンを去る前に、彼の実兄であるBreaka(ブレイカ)がエレクトロ音楽を彼に紹介したことで、グライムからUKGへとシフト。
ブロークンビーツやグライムと、UKGをマッシュアップし、エクスペリメンタルなリズムとダークで無骨な音で、アンダーグラウンドの支持を集めています。2023年にはDJ Magにて新人賞を受賞し、2025年には待望のデビューアルバム『Tribute』をリリース。
Bakey – Take It Further (2020)
Bakey – Senses(2023)
Oppidan(オピダン)

Oppidan(オピダン)こと Isobel “Izzy” Fielding(イゾベル・フィールディング) はノース・ロンドン生まれ、現在ブリストルで活動している女性プロデューサー。
9歳の頃、アコースティックギターを弾きながら歌った曲を録音し、CD-Rに焼いて学校のクラスメイトに売っていたという早熟な彼女ながら、学生時代にダブステップやベースラインを聴くようになり、アコースティックからエレクトロへと移行。
本格的に音楽プロデュースを学ぶため、故郷のロンドンを離れてブリストルにある名門音楽学校 dBs Institute of Musicへ進学し、サウンドエンジニアリングを専攻。
正規の音楽教育に裏打ちされた、グルーヴィでソウルフルなメロディセンスと安定したプロダクションで、ハッピーでエネルギッシュなフロアアンセムを作り出し、親友のBakeyと対極をなしています。
Sammy Virji – Shapes(Oppidan Remix)(2020)
Oppidan – Mr.Sandman(2023)
Royal Intention(ロイヤル・インテンション)

ほぼ毎週のように新曲をアップし、TiktokとSportfyで急激にリスナーを増やしているRoyal Intention(ロイヤル・インテンション)ことHayden Roberts(ヘイデン・ロバーツ)。2000年、リーズ生まれのベッドルーム・プロデューサー。
両親の家に置いた空気注入式ベッドの上で、靴箱をマウスパッド代わりに使い、古くて遅いPCと壊れたTV画面をモニターにして全楽曲を制作しているという、D.I.Y.精神を体現する25歳。
流行のゴリゴリ・ベースではなく、初期スピードガラージに近いローファイでポップな音。
Royal Intention – Here for You(2025)
UKGを取り巻く環境
新世代ベッドルームUKGプロデューサーである、Pinkpantheressさん(現在25歳)のインタビューを聞いていてわかるのは、イギリスに住んでいると、赤ちゃんの時から、テレビでBassment JaxxのMVが流れ、国営ラジオからスピードガラージのメロディが聴こえ、お母さんの部屋に昔のダブステップのレコードが転がっており、近所のパブに行くとベースラインが爆音で流れている環境が、ごく一般的なこと。
何せロンドンオリンピック開会式でUnderworldが音楽監督、閉会式でFatboy SlimがDJ、Tomatoが政府のコンサル仕事をやっている国。ブリット・エレクトロは国を代表する最高の芸術・国家的クリエイティブという認識です。
アメリカのSuper Bowlに出るのはラッパーや人気シンガー。DJが主役になることはありません。つまりイギリスがアメリカに勝てるのはエレクトロだ、DJカルチャーだ、という国を挙げての大プッシュ。BBCラジオに出ることは、NHKラジオに出ることと、全然意味が違います。
そしてプレステやガラージバンドなど、子供向けのオモチャで気軽に音作りをスタートする人が多いこと。そもそもアタリもゲームが有名な会社で、当時流行りつつあったPCでの音楽制作のため、試しにMIDIスロットを入れてみただけ。開発者が思いも寄らなかった方法で、オモチャが音楽制作に転用されることは驚くにあたりません。
またアメリカのメジャービッグ3に独占されている状況と違い、イギリスでは中規模やインディレーベルが多いのも特長。ディストリビューションだけを低価格で担当してくれる会社が数社あるので、世界的に有名なアーティストでもインディペンデントを保ち、メジャーやAIジェネレイトの言いなりになる必要がなく、クリエイティブの自由を100%保てる環境が整っています。
エレクトロ音楽がヒップホップやロックよりも人気のあるイギリスでは、UKGはクラブ限定のマイナー音楽ではなく、ごく普通にテレビでもラジオでも流れている歌謡曲のような存在。
クラブに行けない年齢のキッズは、昼間Pinkpantheressを聴き、夜はSammy Virgiの配信をチェック、お父さんのパソコンからくすねたFLで曲を作り、メジャーもアンダーグラウンドも自作も全部ごちゃまぜで聴いています。
その影響力はキッズやアンダーグラウンドに留まりません。近年のメインストリームを見渡すと、世界的なメジャー・トップアーティストたちが、2ステップや現行UKGのフレームワークを採用したヒット曲を連発しています。
Ed Sheeran feat. Lil Baby – 2step(2022)
PinkPantheress feat. Central Cee – Nice To Meet You(2023)
PinkPantheress – Illegal(2025)
Sammy Virji x Skepta – Cops & Robbers(2025)
Disclosure, Leon Thomas – Deeper(2025)
Jorja Smith – What’s Done Is Done(2026)
ハウスのDNAから始まり、社会規制や機材の進化を経て、お子さまのオモチャからメジャーチャートの頂点まで姿を変え続ける「ストーリー・オブ・ブリット・アンダーグラウンド」。その進化の系譜は、今この瞬間も止まることなく続いています。



