Black Coffee(ブラック・コーヒー)
南アフリカ発、アフロハウスの立役者。衝撃のデビュー作から20年経った今、プライヴェート・ジェットで世界中を飛びまわるDJ活動の傍ら、ディープでスピリチュアルなトラックを発表し続けるBlack Coffee(ブラック・コーヒー)。
ハウスミュージック発祥の国から8000マイル離れた、南アフリカ・ダーバンに生を受けたこのアフリカンが、説明不要の大スターになるまでの物語は、意外とシンプルながら、少しビターでハーシュ。
過去ハウス・レジェンドたちが誰も獲ったことのない、米国グラミー賞ベスト・ダンス・アルバム部門での受賞は、まさに快挙であり、彼の不屈の精神と母国への貢献が結実したスウィートな成果だと言えるのではないでしょうか。
ブラック・コーヒーことNkosinathi Innocent Maphumulo(ンコシナティ・イノセント・マフムロ)は、1976年、南アフリカの南東部沿岸、第三の都市ダーバン郊外のウムラジに生まれます。生後、南方のウムタタに移り、そこで幼少期を過ごします。
ウムタタは、ネルソン・マンデラの故郷であるクヌ村から約30kmの、人口約10万人の小都市。ネルソン・マンデラは1964年より投獄され監禁の身であり、本国南アフリカはもとより、世界中で反アパルトヘイトと、彼の解放を求める運動が起こっていました。
1990年2月11日。27年間の獄中生活を経て、ネルソン・マンデラ釈放のニュースが世界中を駆け巡ります。首都ケープタウン市庁舎のバルコニーから挨拶をした時には、約10万人の聴衆が彼の釈放を祝いました。
国中が祝祭気分漂うなか、彼の住む地域でも多くの人が集い、釈放を祝う集会が開かれ、マフムロも参加していたその時、一台のミニバス・タクシーが突然突っ込み、人々をなぎ倒します。彼は九死に一生を得たものの、将棋倒しの衝撃で左腕に重症を負い、3か月の入院生活を送ります。
治療にはげむものの損傷がひどく、彼は13歳にして左腕に不自由を抱えることとなります。現在も右腕だけでDJする彼は、その理由を、この運命の日の事故を、2017年まで公表せず、苦痛の種として心に抱え込んでいたといいます。
高校卒業後、ダーバンの大学にてジャズ研究を専攻。卒業後に同級生2人とソウルバンド「SHANA」を結成、数枚のアルバムを制作します。その後、DJ活動をしながら、ソロにて自作のレコーディングをはじめました。
2002年、アフロハウスのコンピレーション『DJ’s At Work』に自作のハウストラック「Happiness」が収録されます。さわやかでダンサブルなトラックに、男性ボーカルが印象的なこの曲は、南アフリカのハウスシーンに一気に知れ渡ることとなります。
この曲では、現在のアフロハウスを特徴づけている、アイコニックなシェイカー使いや、ジャジーで洗練されたフィーリングがすでに感じ取れます。
Black Coffee – Happiness
転機が訪れたのは2003年。Red Bull Music Academyの南アフリカ代表に選ばれたこと。この時の申請用紙にあったDJネームを書く欄を見つめ、彼は当時つきあっていた彼女と、普段お互い呼び合うニックネームを思い出します。彼女の名はBrown Sugar、そして彼の名はBlack Coffee。
2005年、1stアルバム『Black Coffee』を自身のレーベル「Soulistic Music(ソウリスティック・ミュージック)」よりリリース。
反アパルトヘイト活動家であり黒人ミュージシャンであるレジェンドHugh Masekela(ヒュー・マセケラ)と共演した、1975年リリース曲「Stimela(スティメラ)」のRemixは、アフリカ大陸全土に向けて、アフリカン・アイデンティティの重要性を伝えています。
Black Coffee – Stimela
2007年、2ndアルバム『Have Another One』。2009年、3rdアルバム『Home Brewed』リリース。タイトな4 On The Floor(4つ打ち)は変わらずに、南アフリカのヴォーカリストたちを起用し、よりシンプルで洗練された音づくりに、いよいよ世界中のハウスミュージックファンが、注目し始めます。
またレーベル「Soulistic Music」でも、次々と新人を発掘しアルバムをリリース、南アフリカのハウスシーンを盛り上げていきます。
Black Coffee – Wathula Nje
この後も続けてアルバムをリリース。CoachellaやUltraなど有名野外フェスティバル、Panorama BarやBoiler Roomに出演、2015年にはワールドツアーを実施。年間150回を超えるDJ出演をこなしていきます。
2017年、Drakeのアルバムに、自身がプロデュースした楽曲『Get It Together』にて参加。シンプルなビートに、ピアノとJorja Smithの歌声が響く、清涼感のあるトラック。翌年にはDavid Guettaのアルバムに、シンガーDelilah Montagu(デリラ・モンタギュー)をfeat.した「Drive」にて参加。
世界のトップクリエイターとの仕事でも、普段とまったく変わらず、淡々としたハウスミュージックのシンプルなビートを披露しています。
Drake – Get It Together(feat. Black Coffee & Jorja Smith)
2021年、アルバム『Subconsciously(サブ・コンシャスリー)』が Best Dance/Electronic Album部門にてグラミー賞を受賞。初ノミネートに初受賞という快挙を成し遂げます。
2025年にはBillie Eilishのプラチナ・ヒットシングル「CHIHIRO」のRemixを担当。南アフリカのジャズ・ミュージシャンNduduzo Makhathini(ンドゥドゥゾ・マカティニ)の幻想的なピアノが、彼女のヴォーカルを引き立て、アフロハウスのミニマリズムを追及したマスターピースと称賛されました。
Billie Eilish – CHIHIRO(Black Coffee Remix)
2026年現在、DJ MagazineのTop DJ 100では、Carvin Harrisに次ぐ17位。EDMやテックハウスのDJが独占するランキングの中で、ディープなアフロハウスをリリースしているハウスDJは稀有な存在と言えるでしょう。
レーベル運営で経済的にも成功した彼は、音楽と教育を通じて地元の慈善団体を支援し、また自身の会社を通じて若手起業家を支援するエンジェル投資家としての顔も持ちあわせます。
世界を飛び回るジェットセッターDJでありながら、決して故郷である南アフリカへのフィードバックを忘れません。
アフロハウスとして語られることの多いブラック・コーヒーですが、自分のつくる音を、トライバルやアフリカンだと意識したことはないといいます。ジャズが好きな人でも、ソウルが好きな人でも入ってこられる、シンプルで間口の広い音楽が作りたい、と。
そんな彼がパソコン1台だけで作り始めたD.I.Y.音楽が、ハウスミュージックだったことは、まさにハウスファンにとって、神の祝福とでも言うべき幸運だと言えるのではないでしょうか。
Black Coffeeのおすすめ曲
Black Coffee feat. Toshi – Buya
Black Coffee – We Are One
Black Coffee & Nathan Adams – Afraid Of The Dark
Monique Bingham, Black Coffee – Deep In The Bottom (of Africa)

