Rare Groove(レア・グルーヴ)とは何か?
クラブシーンの最新チャートの大部分はエレクトロニックなサウンドで構成されていて、そういった環境にどっぷりと浸っているわたしたち。
みなさんは、レア・グルーヴというと、どのようなサウンドをイメージするでしょうか?
バンドが奏でる古めかしい音楽?
ヒップホップアーティストたちが高値で取引しているレアな音源?
日本の映画のサントラ?
いずれも正解と言えそうです。
現在、レア・グルーヴという言葉は様々な文脈で使用され、あいまいで統一した使用例はありません。もはや、レコードショップやクリエイターなど、使用する側が自身のイメージに沿って任意に使っているような状況さえあります。
そんな掴みどころのない概念ではありますが、狭義的・核心的な部分にフォーカスすれば、レア・グルーヴとは「黒人音楽がベースになっているダンサブルな生音で、かつ、リリース当時は正当な評価を受けていなかった楽曲」と定義でき、具体的なジャンルとしては、ソウル、ファンク、ジャズなどが基本になります。もちろん、視点を拡げれば、ロック、ラテン、ボサノヴァ、民族音楽など、その他のジャンルと融合することは多々あります。
ここでは以上の定義によりつつ、その歴史や周辺情報をご紹介させていただきます。普段のエレクトロニックなサウンドとは異なる世界観をお楽しみください。
レア・グルーヴの歴史
レア・グルーヴという用語は、1980年代のイギリスで生まれました。
その当時、イギリスのFM局のDJであったNorman Jay(ノーマン・ジェイ)は、自身の番組、その名もザ・オリジナル・レア・グルーヴ・ショウを担当していました。
ノーマン・ジェイは幼少期からDJを始め、ニューヨークで最も勢いのあるクラブDJを呼んでイギリス公演を企画するなど、プロモーターとしても活躍しました。その数々の功績が認められ、DJとして初めてエリザベス女王から直々に叙勲を受ける快挙を成し遂げたイギリスDJ界のレジェンドです。
ザ・オリジナル・レア・グルーヴ・ショウの番組内では、新譜とビンテージのレコードを流していました。前者はリリース前のものであったために、後者は廃盤になっていたために、それぞれレアな音源でした。
特に、廃盤になっているレコードというのはリリース当時に売上が振るわなかったということを暗に示すものですが、ジェイがそれらのレコードを再評価して放送することにより、命を吹き返した楽曲ということになります。こういった再評価という行為がレア・グルーヴ・カルチャーの真髄といえます。
この番組は当然のことながら非常に話題を呼び、そこで流された楽曲のジャンルを「レア・グルーヴ」と呼ぶようになったのです。
1980年代後半になると、シーンはさらに加速していきます。
アメリカのヒッピホップ・アーティストやイギリスのクラブDJたちが、レア・グルーヴのサウンドをさらに求めるようになったのです。
ヒップホップのシーンではサンプリングという手法によって、リリースされた楽曲の一部または全部を再利用してトラック・メイキングを行いますが、そのサンプリング・ソースとして過去の音源をディグするようになりました。
一方、イギリスのクラブDJたちは、当時流行していたトラックのみでのプレイには満足できなくなり、新たなトラックを獲得するために、いわば温故知新のごとく過去の音源をディグしました。
いずれにしても、そこでのトラックのチョイスはそのアーティストにとって使えるかどうかということであり、曲の知名度やアーティストのそれは全く問題にしませんでした。このようにして、世間一般の規定の評価とは異なる、クリエイター側の視点で楽曲が再評価されはじめたのです。
その結果、現在ではよく知られたアルバムの中でもマイナーとされていた曲や、忘れ去られていたような曲、ヒットシングルのB面などがレア・グルーヴとして捉えられるようになり、その範囲は、ノーマン・ジェイのラジオ番組のときのようにレアな音源だけにとどまらず、入手が容易なレコードまで拡大されています。
日本でも、1960年~1970年代の邦楽、たとえばソウル、クロスオーバーなどもレア・グルーヴ、または和モノとして人気を博していることはよく知られている事実です。
ノーザン・ソウルとの関係
レコードの再評価という観点でいうと、そのカルチャーはすでにイギリスで根付いていたといえます。
そのカルチャーの原点は「Northern Soul(ノーザン・ソウル)」というムーブメントになります。
ノーザン・ソウルについて簡単に説明すると、1960年代後半にイギリス北部の労働者階級でカルト的に流行したダンスムーブメントの中で好まれていたモータウンを始めとする60年代のアメリカのソウルミュージックのことです。
間違いやすい点として、ノーザンソウルは”アメリカの北部”の音楽を指すのではなく、”イギリスの北部”で流行したソウルミュージックだということです。
未来に希望を見出せない若者たちが、ソウルミュージックで踊ることで鬱屈を発散するというパーティーで、流れる音楽の特徴としては、アップテンポの7インチシングルであり、アメリカでは見向きもされなかったようなマニアックなレコードといったところです。
ダンスにも特徴があり、手拍子やストンピング、ブルース・リーさながらのハイキックを繰り出すなどの運動量の多いムーブが用いられました。
このシーンの象徴的なエピソードとして、ノーザンソウルのDJはいかにレアで踊れる曲をプレイするかに情熱を燃やしていて、自身のかけているトラックを他人に悟られまいと、レコードのアーティスト名や曲名を隠してプレイしていたといいます。これは「カバーアップ」と呼ばれていて、違うレコードのラベルを上から貼って隠していました。
ノーザン・ソウルのDJはレアな音源を探しにアメリカまで買い付けに渡り、7インチをディグしては、本国で披露していました。
レア・グルーヴのカルチャーでも、トラックのレア度が重視される側面がありますが、1970年代のイギリスで既にそのような価値観が存在していたということは驚くべき事実です。
ビンテージレコード入手のすすめ?
ところで、レア・グルーヴにカテゴライズされているレコードは高値で取引されることが多いと思いませんか?
レコードショップに行くとジャケットが表示された状態で数万から数十万円という値段で堂々とディスプレイされているビンテージレコードを目にする機会があります。
これはそのレコードの取扱いの過程が影響しています。
1960~1970年代のアメリカでは、リズム・アンド・ブルース(R&B)、ソウル、ファンクなどの新しいブラック・ミュージックが生まれました。また、その動きに触発され、既存の音楽であったジャズもそのエッセンスを取り入れ、ジャズ・ファンク、フュージョン、クロスオーバーと枝分かれした時代でした。
そこでのスターはご存知、ジェイムズ・ブラウン、スライ・ストーン、ファンカデリックたちです。
世間は彼らに影響されたアーティストであふれかえり、そういったアーティストは次々に新譜を出しましたが、多くのアーティストはヒットを生むことなく、忘れ去られていきました。
その後、1980年代になると、先程説明したように、ヒップホップ・アーティストやDJが彼らの音楽を再評価し、自己の表現の中に取り込んでいきました。
リリース当時ヒットしていなかったということもあり、レコードの流通数は非常に少ない反面、再評価によってクラブシーンでの需要が増加した結果、今では高値で取引されているのです。
あまりに人気となったビンテージレコードはリイシューという形で一般のリスナーでも入手することができるようにもなっています。
もはやそういったレコードをビンテージと形容するのは、適切ではありませんが、とにかく、そういったレコードはアナログ、データにかかわらず入手しやすいので、まだレア・グルーヴに馴染みのない方は、そういった楽曲からこの世界を深掘りしてみてはいかがでしょうか。
キーパーソンと楽曲
レア・グルーヴはトラック単位で把握されることが一般的で、アーティストは実に様々です。ただ、共通した何かがあるのも事実です。
そこにはプロデューサーや影響されたアーティスト、プレイヤーの存在があります。ここでは、そんなカルチャーのキーパーソンと楽曲をお示しすることとし、みなさんのレア・グルーヴの世界を広がりのあるものにしていただこうと思います。
JB関連
JBことJames Brown(ジェイムズ・ブラウン)は黒人音楽史になくてはならない存在ですが、その名を冠したJ.B.’sは彼のバックバンドであり、1970年代に活躍しました。
メンバーの入れ替えはありますが、チェックすべきはベースのブーツィー・コリンズ(のちにP-Funkで活躍)、ドラムのジャボ・スタークス(JBの最もファンク色の強い時期のビートを刻んだ)、オルガンのボビー・バード(JBとともにボーカルを担当)、サックスのメイシオ・パーカー(ソロとしても活躍)、トロンボーンのフレッド・ウェズリー(J.B.’sのリーダーとしてアレンジを担当)らが在籍していたことです。その構成メンバー一人ひとりが後世に多大な影響を与えました。
彼らの名義のアルバム「Food For Thought」「Doing It To Death」も必聴ですが、バックを努めたリン・コリンズの「Think (About It)」、ボビー・バードの「I Need Help (I Can’t Do It Alone)」ではまさにJ.B.’sの絶頂期の最強グルーヴ聞かせてくれます。
P-Funk関連
P-Funkとは、JB、スライ・ストーンと並ぶファンクの巨人、George Clinton(ジョージ・クリントン)が率いたバンドの総称であり、パーラメント、ファンカデリックはもとより、ファミリー・グループのブライズ・オブ・ファンケンシュタインやパーレットなどを含めて、できるならばすべて聴いていただきたいグループではあります。
今回はその母体となるパーラメントの渋いトラックを紹介させていただきます。「let’s Play House」では軽快なスネアの四つ打ちの上に、分厚いホーンセクションが鳴るブギーを聞くことができます。また、「Aqua Boogie」ではキーボーディストのバーニー・ウォーレルのクレイジーなベースラインとともに最高にダンサブルなサウンドを聞くことがきます。
ジャズアーティスト関連
ジャズアーティストが奏でるダンスミュージックには深みや厚みが感じられます。
彼らは音楽理論を熟知し、それぞれの楽器で即興を奏でることができる職人であることを考えるとそのような含蓄のあるサウンドが生まれるのも当然です。
ジャズは時代とともに変化し続けた歴史があり、彼らのムーブメントの中では、1950年代に起きた、コーダルからモーダルへの移行というジャズの作曲方法に革命的な変動があり、そこから1960年代にはさらにスタイルは枝分かれしていきました。
その中にはファンクを取り入れたジャズマンもおり、そのトラックが今ではレア・グルーヴとして認知されています。そういったアーティストは何人もいるのですが、ここでは2人の人物を中心に紹介します。
Herbie Hancock ハービー・ハンコック
ジャズピアニストの巨匠・ハービー・ハンコックは、マイルス・デイヴィスとともにジャズの進化を体現した人物ですが、彼のもとを離れてからは、ファンクやヒップホップカルチャーなどとのジャンルの融合を進めました。
アルバム「Head Hunters」では、「Chameleon」「Watermelon Man」というヒットを放ち、その後も「Thrust」や「Man-Child」など、ダンサブルなアルバムをリリースしています。
また、そこで結成されたメンバーが参加したアルバムはレア・グルーヴとして評価を得ているものも多く、特にドラマーとして参加していたHarvey Mason (ハーヴィー・メイソン)のアルバム「Marching In The Street」、 Mike Clark(マイク・クラーク)が参加したThe Headhuntersのアルバム「Straight From The Gate」は必聴です。
Roy Ayers ロイ・エアーズ
ヴィブラフォン奏者のロイ・エアーズも1960年代にデビューし、ジャズベースのレジェンド、レイ・ブラウンらとブルーノート・レコードで共演するなど正統派のジャズマンでした。しかし、ポリドールに移籍してからは独自のサウンドを追求します。彼もハービー同様、ジャンルの融合には意欲的でした。
リリースした楽曲は数多くサンプリングされ、その世界ではJBと双璧をなす存在といっていいのではないでしょうか。
ここではレア・グルーヴという観点から、以下の楽曲を紹介します。
「Love Will Bring Us Back Together」は録音環境が素晴らしく、生音であるにもかかわらず、ミックスのしやすい芯のあるベースドラムが収録されていて、DJが愛してやまない楽曲です。また、「Life is Just a Moment Part2」「We Live in Brooklyn, Baby」はレア・グルーヴの域を超えた名曲といえます。
彼自身のアルバムにとどまらず、プロデュースした作品も目が離せません。特に、Rampの「Daylight」はエレクトリック・ピアノによる複雑なコードが響いていて、彼がジャズアーティストであったことを再確認できると同時に、2000年代のネオ・ソウルを予言する世界観を見ることができます。
Hmls厳選おすすめレア・グルーヴ
Total Experience – Contradiction
Weldon Irvine – Only Yesterday
Ted Picou Quartet – Sleep Walker
Shamek Farrah- First Impressions
Ron Everett – The Glitter Of The City
Nathan Davis – Stick Buddy
Marlon Hunter – Did You Forget My Number
Lim Taylor – You Hear Me Knocking
Leon Cook – Steppin In
Leo’s Sunshipp – Give Me The Sunshine
Kellee Patterson – Time To Space
Eddie Russ – Take A Look At Yourself
Billy Brooks – Forty Days
Caesar Frazier – Sweet Children