幸運にもハウスミュージックに興味を持ったとして、馴染みのない初心者にとってはハウスミュージックというジャンルは非常に情報を調べるのが困難で、広大なハウスの宇宙において指針となる座標がなければ、どちらに行って良いかわからず大半の場合はやがて難破船として宇宙を漂うこととなるでしょう。
特にダンスミュージックが文化としてようやく馴染んで来たばかりの日本において、大半の人はハウスミュージックを「ドン、ドン」と一定のリズムで鳴っている音楽と言うぐらいの認識であり、ハウスミュージックという非常に気持ちいい音楽に触れるチャンスを多くの人がすり抜けてしまっています。
ハウスのざっくりとした定義
ハウスミュージックは何を持ってハウスミュージックと言えるのでしょうか?
それを深く知るにはハウスの歴史を振り返らなければならず、多くの時間が掛かりますので、ここでは、ひとまず分かりやすいようにざっくりとした定義をお伝えしましょう。
ハウスの起源はディスコミュージックにあります。1970年代のディスコミュージックがDJ文化と共に発展し、80年代にRolandのTR-808やTR-909などのリズムマシンの登場により、現在のハウスの原型が誕生しました。


DJやサウンドプロデューサーが、ディスコミュージックをリズムマシンによる打ち込みで、より強烈で、ダンサブルなものとして表現をしようとしました。
BPM100〜130ぐらいで、1拍ごとに「ドン、ドン、ドン、ドン」とキックドラムの音が鳴る特徴的なこの音楽は、1小節に4回打たれることから”四つ打ち”と呼ばれるビートスタイルの音楽になります。

この特徴的なビートは大音響のクラブにおいて、強烈な効果を発揮し、パーカッションや、ピアノ、ギター、ベース、シンセなどのダンサブルな音色と絡み合って、興奮や恍惚、陶酔感などを生み出します。
90年代に入ると、マドンナやマライヤ・キャリー、マイケル・ジャクソンなど多くのトップメジャーアーティストがハウスミュージックの制作、またはリミックスをハウスミュージッククリエイターに依頼しました。ハウスミュージックはそれまでのクラブでのみ成立していたアンダーグラウンドな音楽からメジャーフィールドへと大きく躍進しました。
進化と共にジャンルが細分化され、テクノやトランス、EDMといった音楽もハウスミュージックから大きな影響を受けて誕生しており、巨大なダンスミュージック産業が生まれていくことになります。
現代のハウスミュージックにおいても、そのほとんどはリズムマシン、サンプラー、またはパソコンを使ったDAWでの打ち込みによって作られ、その上に伝統的な楽器音からシンセサイザー、ボーカルなどスタイルによって自由に音が乗せられています。
ハウスミュージック初心者には
あまりハウスミュージックに馴染みのない方のために、曲を紹介するとなったら、多くの場合はオールドスクールなハウスから順に紹介して行くことになると思います。
しかし、初心者にとってはオールドスクールはただ古臭く感じてしまう恐れがあるため、モダンなハウス作品、特にメジャー感のある曲で耳を慣らしてから、徐々に深淵なるハウスミュージックの世界へ触れてもらいたいと思います。
現代的なハウスミュージックのアーティストとおすすめの曲
ここからは、今のハウスミュージックを入り口として楽しみやすいアーティストと曲を紹介します。ポップに聴けるものから、クラブで映えるテックハウス、ディープで温かいサウンド、UKガラージやアフロハウス寄りの流れまで、現代のハウスはかなり幅広く進化しています。
まずは「ジャンル名を覚える」よりも、気持ちよく聴ける曲を見つけることが大切です。気に入った曲があれば、そのアーティストのDJセットや関連レーベル、リミックスを掘っていくと、自分の好きなハウスの方向性が見つかりやすくなります。
Disclosure – She’s Gone, Dance On
Disclosureは、現代のハウスを語るうえで外せない兄弟デュオです。クラシックなハウスのグルーヴを大切にしながら、ポップスとしても聴きやすいサウンドに落とし込むのが得意です。「She’s Gone, Dance On」は、シンプルなループと中毒性のあるボーカルフレーズで、ハウスの“反復の気持ちよさ”を体感しやすい一曲です。
John Summit – Tears feat. Paige Cavell
John Summitは、テックハウスの勢いとメロディックな歌ものの高揚感を両立させる現代ハウスの人気アーティストです。「Tears」は、Paige Cavellのエモーショナルなボーカルと、フェスでも映える大きなシンセの広がりが魅力。ハウスが持つクラブ感と、ポップミュージックとしての聴きやすさを同時に感じられます。
Dom Dolla – Saving Up
Dom Dollaは、太いベースラインとキャッチーなボーカルフックで人気を集めるオーストラリア出身のプロデューサーです。「Saving Up」は、クラブ向けのグルーヴを持ちながらも、メロディが明るく聴きやすいので、ハウス初心者にもおすすめ。派手すぎず、でもしっかり踊れるバランスの良い楽曲です。
Peggy Gou – (It Goes Like) Nanana
Peggy Gouは、ファッションやカルチャーの文脈でも注目されるDJ/プロデューサーです。「(It Goes Like) Nanana」は、90年代のダンスミュージックを思わせる懐かしさと、現代的な抜けの良さが共存した一曲。ハウスの軽快なグルーヴを、ポップに楽しみたい人にぴったりです。
Chris Lake & Amber Mark – In My Head
Chris Lakeは、クラブで機能するミニマルな展開と、印象に残るフックを作るのが非常にうまいプロデューサーです。「In My Head」は、Amber Markのボーカルが入ることで、テックハウスの硬さだけでなく、都会的でソウルフルな雰囲気も感じられる曲になっています。
Mau P – Like I Like It
Mau Pは、近年のテックハウスシーンで存在感を高めているアーティストです。低音の圧力、少ない音数、フロアを引っ張る反復感が特徴で、クラブミュージックとしてのハウスの魅力をダイレクトに味わえます。「Like I Like It」は、ライブ映像で観ると、音のシンプルさが大きな会場でどれだけ強く作用するかも分かりやすいです。
ANOTR, Abel Balder – Relax My Eyes
ANOTRは、ファンキーで洗練されたグルーヴを得意とするオランダのデュオです。「Relax My Eyes」は、柔らかいボーカルとベースラインが心地よく、深夜のクラブでも、家で流していてもハマるタイプのハウス。派手なドロップよりも、じわじわ体を揺らすグルーヴを楽しみたい人におすすめです。
Chris Stussy – Desire
Chris Stussyは、ディープハウスやミニマルハウスの流れを現代的に更新しているアーティストです。「Desire」は、派手さよりも音の鳴り、間、ベースのうねりで引き込むタイプの曲。メインストリームのハウスに慣れてきたら、こういった少し深いグルーヴにもぜひ触れてみてください。
Barry Can’t Swim – Dance of the Crab
Barry Can’t Swimは、ハウス、ジャズ、ブレイクビーツ、エレクトロニカなどを軽やかに横断するアーティストです。「Dance of the Crab」は、ピアノやパーカッションの楽しさが前面に出ていて、クラブミュージックに苦手意識がある人でも入りやすい曲。踊れる音楽でありながら、日常のBGMとしても聴きやすいのが魅力です。
salute – saving flowers feat. Rina Sawayama
saluteは、UKガラージやハウスの軽快なビートを、カラフルでポップな質感に仕上げるプロデューサーです。「saving flowers」は、Rina Sawayamaのボーカルもあり、ダンスミュージックに馴染みがない人でも聴きやすい一曲。現代のハウスが、ポップスやUKクラブサウンドと自然に混ざり合っていることがよく分かります。
Sammy Virji – I Guess We’re Not The Same
Sammy Virjiは、UKガラージやベースラインの要素を取り入れた、跳ねるようなリズムが魅力のプロデューサーです。厳密にはハウスど真ん中というよりUKクラブミュージック寄りですが、現代のハウスシーンとも相性が良く、DJセットでも自然に混ざります。軽快なビートが好きな人は、ここからUKガラージ方面を掘ってみるのもおすすめです。
HUGEL x Topic x Arash feat. Daecolm – I Adore You
近年のハウスシーンでは、アフロハウスやラテン、オリエンタルなメロディを取り入れたサウンドも大きな流れになっています。「I Adore You」は、エモーショナルなメロディとゆったりしたグルーヴが印象的で、派手に跳ねるハウスとはまた違う陶酔感があります。メロディアスでムードのあるハウスを探している人におすすめです。
ジャンルを掘り下げていくと
Electro House(エレクトロハウス)やProgressive House(プログレッシブハウス)など派手めで、わりと近代的なスタイルを掘り下げて行くことも出来ますし、より音そのものにフォーカスしたTech House(テックハウス)やMinimal(ミニマル)の方向に進んで行くことも出来ます。
また、よりディープでブラックミュージックテイストなVocal House(ボーカルハウス)やDeep House(ディープハウス)など、オールドスクールな90’sハウス方向へ進んで行くことも出来ます。
色んなスタイルのハウスミュージックを聞くと、相互に影響を受けて新たなサウンドが生まれ、過去の偉大なサウンドが進化をしながら脈々と受け継がれ、現代のハウスミュージックに大きな影響を与えていることがわかります。

ハウスのスタイル細分化
ハウスミュージックはヒップホップと同じぐらい非常に柔軟性のあるジャンルで、様々な音楽を吸収しつつ発展しています。
したがって、現代においてはハウスミュージックは音の傾向ごとに細分化され、ハウスミュージックと言ってもポップなものからディープなものまで多種多様です。
また中にはフィルターハウスやクリックハウスなどのように一時流行したが、現在では他のスタイルと融合し、あまり聞かなくなった名称もあります。
ハウスミュージック・サブジャンル一例
- Tech House
- Minimal House
- Deep House
- Hard House
- Tribal House
- Acid House
- Electro House
- Dub House
- Chicago House
- Jazzy House
- Garage
- Afro House
- Vocal House
- Click House
- Funky House
- Filter House
- Progressive House
- Jackin’ House
- Nu Disco
- Beatdown
実際には一つの曲がクロスオーバーして様々なスタイルの要素が含まれていることも多いです。最初の取っ掛かりとなる好きなスタイルがきっと見つかると思いますが、ハウスミュージックに詳しくなるに連れて自然に覚えて行きますので、無理に覚える必要はありません。
最近はあまりにも細分化され過ぎているため、少し窮屈なイメージがありますが、DJで言えば、一つのスタイルに特化して極めていくDJと、様々なスタイルを自由に横断していくDJがいます。
これはどちらが優れているかという話ではなく、単純にそれぞれの好みの問題になります。各スタイルがどんな音なのか知りたい人は以下のハウスミュージック関連マップとジャンル解説を参考にしてください。


まずはザックリと好みのスタイルを見つけて、その中で好きなアーティストと共に好きなレーベル、つまりはレコード会社を見つけることをオススメします。
自分が好きなレーベルが出す新作は、自分の好みに近い場合が多く、新たなアーティストを発見する良い機会です。
家で聞くこととクラブで聞くことの違い
家で聞くのもイイですが、ハウスミュージックの成り立ちがクラブでダンスすることを前提に生まれているため、クラブへ行ったことのない人は是非クラブでダンスしてみるべきです。
音楽を聞くのにスピーカーやアンプにこだわっている人もいるでしょうが、ほとんどの人はスマホや小型のホームスピーカーなどで音楽を聞いていることと思います。小さなスピーカーでは低域や超低域の再生能力が乏しいため、クラブミュージックの本当のパワーを発揮出来ていないと言っても良いでしょう。
大型のサウンドシステムと呼ばれる大量のスピーカーが鳴り、地を這うような低音も魅力ですが、天井に広がる高音も最高です。音が足のつま先から脳天まで駆け抜ける快感に一度取り憑かれたら離れられなくなるかもしれません。

たくさんの人と好きな音楽を聞く一体感も魅力ですし、お酒の飲める人はお酒を楽しみながら音楽を堪能することが出来ます。クラブで踊ってみたいけど、「ダンスが出来ない」とか「恥ずかしい」と敬遠している人も多くいるかもしれませんが、ダンスが出来る人は一部の人だけです。クラブに来ているお客さんのほとんどは本当のダンスなんて出来ませんし、他人が踊っている姿にそこまで興味はないので、誰もじっくりと見ていません。
最初は音に身を任せてゆらゆら揺れているだけでもイイのです。慣れて来て、お酒が心地よく回って来たら、より音楽に合わせて体を思うままに動かしてみましょう。
音に集中して自分の体が反応して、無意識に音が一体化して行くのは本当に気持ちが良いです。
踊ることに興味がなくても、もちろんOKです。お酒が好きな人は音楽を聴きながら飲めばイイですし、人と交流したい方は自由に交流すればイイです。クラブは夜の社交場でもあるので、目一杯オシャレして出かけましょう。
クラブは店によって特色があり、鳴っている音楽の種類も全く違います。音楽にフォーカスした「音箱」と呼ばれる店から、もっと大衆的な店まであるので事前にリサーチして、最初は金曜日、土曜日など人が多く入っている週末に行きましょう。

